2017年06月12日

労働基準監督署が大変!

       労働基準監督署が大変!!
弁護士 渥 美 玲 子

労働者の生活と健康、そして権利を守る一番基本の法律は、労働基準法です。
憲法27条の2項には「賃金、就業規則、休憩その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と規定していますが、この法律こそが「労働基準法」(短く、労基法と言っています)なのです。
 ここでいう「勤労条件に関する基準」とは、労働者からみて「最低の基準」を意味するのであって、当事者間で決められる労働条件については、法律で最低の基準を定めて、その最低を下回らないように制限するという趣旨です。つまり、使用者にも労働者にも「契約の自由」はあるものの、勤労者の利益や権利を守るために、国家の権力によってその自由を制限するということなのです。

このように国家が介入しているため、労基法13条では「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする」と規定しています。このような効力を「私法的効果」と言っています。また労基法117条以下では、法令に違反した場合の罰則を定めています。例えば、労基法5条(強制労働の禁止)に違反した場合には、使用者に対し1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処せられます。このような効力を「刑事的効果」とも言っています。
 そして労基法を遵守させるための重要な行政機関として、労基法101条では「労働基準監督官は事業場、寄宿舎その他の付属施設に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、または使用者もしくは労働者に対して尋問を行うことができる」とし、さらに同法102条では「労働基準監督官は、この法律違反の罪について刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う」として、非常に強い権限を与えているのです。

このような労働者のための規制は、労働者にとっては真に必要なのですが、どうやら安倍首相には邪魔なようです。

 2017年3月9日、規制改革推進会議は、長時間労働などに対する監督を強化するために、労働基準監督業務に民間活用を行うことを検討することとし、それに向けて、会議の作業部会として「労働基準監督業務の民間活用タスクフォース」(主査八代尚宏昭和女子大学グローバルビジネス学部特命教授)を設置することを決定しました。
規制改革推進会議とは、以前にあった「総合規制改革会議」や「規制改革会議」を引き次ぐ組織で、2016年9月2日、第2次安倍内閣により設立が閣議決定されたものです。内閣府設置法及び内閣府本府組織令に基づき「経済に関する基本的かつ重要な政策に関する施策を推進する観点から、内閣総理大臣の諮問に応じ、経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方の改革に関する基本的事項を総合的に調査審議すること」を目的としています。
労働基準に関する規制を改革する必要が生じた場合には、本来は厚生労働省が主管になって調査提言を行うはずですが、国家戦略特区と同様に、直接、内閣総理大臣が規制緩和したり規制をなくすことができるようになるという仕組みです。

 このタスクフォースは、2017年3月16日から検討を開始し、同年5月8日、「労働基準監督業務の民間活用タスクフォース取りまとめ」を公表しました。なお、文書の詳細は内閣府のホームページに掲載されています。
 「検討の必要性」としては、第1に、労働基準監督署の実施する定期監督の実施率が、総事業場に対して3%程度に止まり十分な監督が行われると言い難いこと、第2に、定期監督実施対象の事業場の違反が約70%と高い割合で推移しているとし、第3に、今後「働き方改革実行計画」を踏まえ、罰則付きの時間外労働の上限を導入する労働基準法改正法案が提出されることになっており、更なる法規制の規制強化が求められることなどの状況において、「労働基準監督署における監督業務の実効性を確保するとともに、
労働基準監督官の業務を補完できるよう、民間活用の拡大を図ることが不可欠である」としています。
さらに、「検討結果」として次のような提案をしています。
 「第1に、民間の受託者(入札により決定し、契約により、秘密保持や利益相反行為 ・信用失墜行為の禁止を義務付け)が、36協定未届事業場(就業規則作成義務のあ る事業場、同義務のない事業場)への自主点検票等(36協定の締結状況、労働時間 上限の遵守状況、就業規則の策定、労働条件明示の状況などの点検票等)の送付や回 答の取りまとめを行い、指導が必要と思われる事業場や回答のない事業場等について、 同意を得られた場合に、労務関係書類等の確認及び相談指導を実施すること、
  第2に、労働基準監督官は、これらに応じなかった事業場、及び、確認の結果、問 題があった事業場に必要な監督指導を実施する。」

 なお、八代主査は、民間委託先については、社会保険労務士、弁護士、公認会計士等の資格者や企業での労務経験が豊かな者等を考えているようですが、特に全国社会保険労務士連合会などは、この民間受託に非常に積極的で、「社会保険労務士の有する知識、能力、実務経験などが十分に発揮できるスキームとして評価されれば開業社会保険労務士約2万6000人が最大限対応する。」として、業務分野拡大に意欲を燃やしているようです。
 この提案を受け、規制改革推進会議は5月23日、「規制改革推進に関する第1次答申」において、36協定未届事業場であって就業規則作成義務のある事業場については平成32年度までに措置、それ以外の事業場については平成33年度以降に計画的に措置すること、とされました。

しかし、この提案にはいくつかの問題点があり、とても賛同できるものではないと思います。
第1に、労働基準監督官の人員不足の原因です。
 提案では、「総事業者数に対する定期監督業務の実施率が3%程度にとどまっており、事業場に対する十分な監督が行われていない」ということについてですが、タスクフォースは、そのような事態になった原因をまったく分析していません。

タスクフォースの資料でも明らかにされていますが、2016年における日本の労働基準監督官数は3241人ですが、雇用者1万人当たりの監督官の数は、ドイツ1.89人、イギリス0.93人、フランス0.74人に対し、日本では0.62人であり、先進国の中ではアメリカ0.28人に次ぐ低さで、ILOが求めている基準に達していません。 ちなみにILOが求める水準は、「労働監督官1人当たり最大労働者数1万人とすべき」(2006年11月ILO理事会)ということになっています。2016年における日本の労働者数は5757万人ですから、労働監督官は約5700人は最低必要だと言うことになります。

 ところで、日本ではILO基準に従って労働監督官が採用配置されているのでしょうか。タスクフォ−スの資料にも掲載されていますが、労働基準監督官の定員数は、平成28年度は3241人となっていて、到底ILO基準を満たすものではありません。他方で、労災補償業務を担当する事務官や労働安全衛生業務を担当する技官など他の労働基準監督署の職員の定員数は平成28年度1628名と、平成9年度の2323名から大きく減少しており、労働基準監督署全体の定員数は減少傾向になります。
少し古いデータですが、全労働総労働組合の「労働行政の現状」という資料によれば、2010年現在の労働基準監督官は約2941人(本省23人、労働局444人、労働基準監督署2474人。但し、実際に臨検監督を行う監督官は、管理職を除外するため2000人以下)ということです。おそらく2016年の実情においてもそれほど変化しているとは思えません。
 従って、事業所に赴いて定期監督などをきちんと実行するためには、労働監督官の数は、本省23人、労働局444人、労働基準監督署の管理者321人(署長のみ)の合計788人を除外して、定員数を考慮する必要があります。
このように絶対的に人数が不足しているという現状であるにもかかわらず、厚生労働省は労働基準監督官の採用数を200人程度に絞っている上、労働行政の職員数についても政府は新規採用定数を大きく制限抑制し、事務官や技官の新規採用は廃止されています。
このように労働基準監督官や労働行政にかかわる職員数を意図的に減らしておきながら、「総事業所数の定期監督実施割合が3%だ」などと非難するかのように主張することはまったく不誠実だとしか言えません。
 早急にILO基準を満たすために、政府は労働基準監督官及び事務官や技官の増員こそ実施すべきだと思います。

第2には、労働基準監督官は公権力の行使にかかわるということです。
労基法101条や労基法102条でも明らかなように労働基準監督官の業務は、国家権力を背景にした公権力の行使も含みます。
 ILO第81号条約(工業及び商業における労働監督に関する条約)は、工業的事業場及び商業的事業場における労働監督制度の保持を義務付け(第1条)、監督職員は分限及び勤務条件について、身分の安定を保障され、かつ政府の更迭及び不当な外部からの影響と無関係である公務員でなければならないとしている(第6条)。また、労働監督官は、監督対象事業場に立ち入る権限、調査・検査・尋問を行う権限を有するものとしている(第12条)。すなわち、公平中立に業務に当たることのできる公務員が、労働監督業務を行うために必要な権限や強制力を背景にして労働監督業務にあたるべきとされている。この条約は日本も批准しています。
 つまり、労働基準監督官及び監督署の業務は、公務員たる労働監督職員が行うべきであり、民間人が行うことができません。

このような大原則に対して、タスクフォ−スの委員から「定期監督業務の立ち入り調査は強制ではなく、原則として事業所の任意によるのであれば。定期監督業務の一部を民間業者に委託してもいいのではないか」と発言しました。要するに規制の緩和ですね。
この意見に対し厚生労働省は、次のように言っています。
「労働基準監督官による立入調査の場合であってもまずは協力を要請することが一般的である。但し、事業主がこのような任意の調査に応じない場合には、監督官は、その場で労働基準法に基づき携帯している監督官証票を示した上で、相手方の同意なく立ち入る権限を有している。これに対して虚偽の陳述をする、帳簿書類を提出しないなどした者は、同法に基づく罰則の対象になる。
委託を受けた民間事業者が任意の調査をおこない、問題がある場合に監督官に取り次ぐ場合、調査から監督官による指導までタイムラグが生じることから、その間に証拠帳簿の隠蔽など不適切な行為がなされる可能性がある。また迅速な労働者保護が行えない蓋然性が高い。
監督官が行っている業務のコアな部分は、やはり誰かにご協力いただくということにはならない部分である。」

この厚生労働省の意見は法律に基づいた正当なものであると思います。

第3に、民間の受託者として社会保険労務士が想定されていることです。
 社労士の大部分は、企業を顧客先として、あるいは企業内の従業員として、その労務管理や社会保険・労働保険の諸手続を取り扱っているのが普通です。そのため社労士の中には「労働基準監督官対策」を業務としている人もいますし、企業が従業員と労働トラブルになった際には、企業側に立ってこれを補助する社労士もいます。
 なお2015年には愛知県清洲市の社労士が「社員をうつにする方法」「モンスター社員を解雇する方法」などの記事を自身のブログに掲載し、2015年12月28日には愛知県社労士会から、社労士に対する信用を失墜させるものとして3年間の会員権活動停止処分と退会勧告を受けたという事件がありました。
まあ、弁護士でも企業の顧問となって使用者側の利益を優先する立場の人もいるので、そういう意味では、社会保険労務士であろうと、弁護士であろうと、公認会計士であろうと民間委託を受けることはふさわしくないと言うべきだと思います。

 なお、私の所属している日本労働弁護団は、「取りまとめ及び第1次答申が示す労働基準監督業務の民間活用等に関する措置を実施することに反対し、実効的かつ適切な労働監督行政が行われるよう、少なくともILO基準を満たすように労働基準監督官を増員することを求めるものである。」としています。                                                                                          以 上
posted by 金山総合法律事務所 at 10:45| 労働問題

2017年05月22日

憲法25条を守る5/18共同集会に参加してきました


5月18日、医療生協の方に誘われて、生存権を守ろう!と東京の日比谷野外音楽堂で行われた全国集会に行って来ました。
東京なんて久しぶり、といった物見遊山的な気持ちもありましたが、全国から3500人もの熱い思いをもった人が集まって来られていて、ちょっと反省でした。

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 憲法25条といえば「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という中学校で教えられた条文をすぐに思い出しますが、それを保障・実質化するための国の責任についても書かれていることを忘れがちです。
 近年、子どもの貧困が叫ばれていますが、一人親家庭の2人に1人は相対的貧困だそうです。食事も満足にとれない子どもがいることに、とても胸が痛みます。障害者も65才になると介護保険に変わるため、今までは不要だった医療費がかかります。発言者の中には受給している年金以上の医療費を支払っているという方もいらっしゃいました。保育士の方からは、やりがいのある仕事だけれど長時間労働で低賃金なのでもうくたくたです、との発言がありました。
 つつましく暮らしている一人親家庭、利息も含め多額の奨学金の返済に苦しむ非正規労働者の若者、目減りする一方の年金だけが頼りの高齢者等々。少数のとってもお金持ちな人は別ですが、圧倒的多数の国民は一生懸命に働き、切り詰めた節約生活をしています。「可能な限りの努力をしても人間らしく生きていけないので国に責任をもって下さい」とお願いすることは憲法25条に反するんでしょうか。生活保護を受けることに罪悪感を感じさせたり、なんでもかんでも自己責任をちらつかせる国のあり方に常日頃憤りを感じていた私です。参加者の方々の発言が身につまされました。
 税金は少しくらい高くても我慢します。「税金は、人が生まれてから死ぬまでに必要な保育・医療・介護を受けられる世の中にするために使って下さい」とお願いしたいです。

 集会では川田龍平・福島瑞穂・山本太郎・田村智子の各議員からの挨拶もありました。閉会の挨拶は菅原文太さんの奥様の文子さんでした。突然の大雨に見舞われた参加者の体のことを心配されていたのがとても素敵で印象的でした。
集会後デモ行進と国会請願がありましたが、あまりの雨に負け帰路に。でもせっかく東京に来たのだからと、急遽買った雨合羽を着たまま東京駅まで歩き、煉瓦の駅舎をバッチリ写真におさめてきました。

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事務局  塚本久美子
posted by 金山総合法律事務所 at 15:46| 憲法

保育園の現状

      保育園の現状
                                     弁護士 渥美玲子

2016年2月に「保育園落ちた、日本死ね」という強烈な印象を与えたブログが世に知られ、国会でも取り上げられたうえ、2016年新語・流行語大賞にまで選ばれました。
そこで保育園について見てみました。

 少し遅い情報ですが、厚生労働省は今年1月、昨年2016年の1年間に生まれた子どもの数が98万1000人だったと発表しました。
 この出生数が100万人を割ったのは、なんと統計を取り始めた1899年以降初めてのことだそうです。ちなみに2014年は100万3539人、2015年は100万5677人だったそうで、一旦、増加はしたものの、基本的には減少傾向は収まらないと予測されています。

他方、待機児童問題については、厚労省は、今年2017年4月「保育所等関連状況の取りまとめ及び待機児童解消加速化プラン」を発表し、2016年4月現在保育所等定員は263万人で前年比10万3000人増加したこと、待機児童数は2万3553人で前年比386人増加したことなどの報告をしました。

ところでこの「待機児童」の厚労省の定義は揺れ動いており、2001年には、狭く定義されるようになり、「他に入所可能な保育所があるにもかかわらず待機している児童や、地方単独保育事業を利用しながら待機している児童」については除外することになりました。そのため、2001年4月の統計は2種類でており、新定義では待機児童が2万1000人となったものの、従来の定義では3万5000人とされました。なお、地方単独保育事業とは、無認可保育所ではあるが地方自治体の基準を満たしており、一定の援助を受けている保育所をいうそうです。

実は、昨年からもう一つの定義の必要性が言われています。それは「潜在的待機児童」「隠れ待機児童」の存在です。昨年の2016年9月厚労省は、統計から除外されている「潜在的待機児童」が昨年2015年より8000人多い6万7354人いたと発表しました。
この潜在的待機児童とは、親が育児休業中で保育園の入所申請をしていない場合、親が育児のために無職で求職活動をしていない場合、親が特定の保育所を希望しているため自治体の勧める保育所に入所申請していない場合、自治体の認可保育園に入りたいのに無認可保育園に入れている場合などを言います。このようなケースは、厚労省の定義からも除外されているうえ、自治体により定義が異なるので全国的な状況把握ができていないのです。
厚労省は以前からこのような潜在的待機児童について把握しており、「定義の見直し」を2017年4月から行う予定でしたが、今年はそれを行わず、来年2018年4月以降に集計する分からにするそうです。

ところで、少子化が進んで子どもの数が減っているのに、どうして保育所が不足しているのか、という疑問があるようです。
 その答えは、やはり厚生労働省が発表したグラフを見れば分かります。
1980年から2016年までの専業主婦世帯と共働き世帯の数を出したグラフがあります。
 1980年から1992年頃までは専業主婦世帯が共働き世帯よりも多かったのですが、1996年頃からなんと共働き世帯の方が多くなっています。私はこれを勝手に「X型グラフ」と呼んでいますが、まるで、1992年頃から1996年頃に2つの線が交差するかのように入れ違っているのです。1980年頃は専業主婦世帯が1100万世帯以上、共働き世帯が600万世帯だったのに対し、2016年には共働き世帯は1129万世帯であるのに対し、専業主婦世帯は664万世帯になり、完全に逆転しました。
このことは女性の雇用者数をみても明らかで、厚労省の調査では、1980年には女性の雇用者数は1354万人(全雇用者数3971万人の34%)だったのに対し、2016年にはなんと2531万人(全雇用者数5729万人の44%)に増えているのです。
このように1990年代から特に共働き女性が増えたため、子どもを保育所に預ける必要性が大きくなったのです。

しかも働いている女性は十分な賃金を貰っているかと言えば、そうでもありません。
例えば、2015年の総務省調査をみると、全雇用者数5474万人のうち、短時間雇用者は1634万人(全雇用者の約30%)いますが、その1634万人のうち女性は1110万人(全短時間雇用者の67.9%)なのです。時給については地域によってばらつきがあるようですが、愛知県では平均時給967円となっていて全国平均975円よりも安くなっています。ただし私が見た感じでは時給850円でパートを募集している店舗も結構あるようで、愛知県の最低賃金845円とほぼ同額です。
 ちなみに厚労省の統計では短時間雇用者というのは、「1週間の就業時間が35時間未満の者」とされているので、週休2日の会社の正社員の週の所定労働時間と同じですね。
2008年にアメリカでおきたリーマンショックの影響を受け日本の経済は大きな打撃を受けました。さらに2012年に発足した安倍内閣は大企業や富裕層優先のトリクルダウン理論を柱とするアベノミクス政策を強行し続け、日本の経済はデフレ不況が続いたままです。そのため日本の貧困率は世界4位というありがたくない地位を占めることになりました。
女性が働かないと生活はやっていけないのが現状なのです。
このような事情から働く女性にとっては保育園は不可欠なので、結婚する頃から家の近くに保育園があるかないか気にしたり、妊娠が分かったときから認可保育園探しを始めたり、いろいろな保育園の評判を調査したり、今は「保活」と言われていますが、本当に大変なのです。
「子どもができたら仕事をやめればいい、と考えている女性は少数派」が実態なのです。

ちなみに今年2017年5月18日、名古屋市は、「今年4月1日現在、国の定義に基づく待機児童は0人だったが、特定の保育所等の利用を希望されている等により保育所、認定こども園、地域型保育事業が利用できていないわゆる隠れ待機児童が715人となった」と発表しました。この715人という数字は昨年の585人よりも増え、2割増しになっています。
posted by 金山総合法律事務所 at 15:38| 両性の平等

2017年04月28日

レンのこと

 我が家に犬のレンがやってきたのは、3年8ヶ月前です。チワワとパピヨンのミックス犬でとても恐がりな性格です。レンは、兄弟と思われる犬と2匹で歩いているところを保護され、名古屋市動物愛護センターに引き取られました。
元気で人なつこい相方はすぐに引き取り手が決まりましたが、レンは愛護センターでも3本の指にはいる不思議ちゃんで、センターでも里親を吟味されていたそうです。センターでの注意事項は「元気いっぱいに接しないこと」というこれも不思議なものでした。かわいいからと、飼い主の感情を押しつけると怖がってストレスを感じるらしいのです。

 我が家に来たレンは、最初全く鳴かずおびえてばかり。ドッグフードもふやかさないと食べないし、散歩の途中でおやつをあげても食べない犬でした。初めて鳴き声を聞いた時は、感動というより「えっ、鳴くんだ!?」というのが率直な感想でした。
 今では、元気いっぱい鳴きます。いつも食べ物を探してウロウロしています。寝る時は自分で襖を開けて私の布団に入ってきます。我が家のアイドルです。
 でも、今でも散歩や外出を怖がり、人間と遊ぶことができません。犬や家族以外の人を怖がります。たぶん、最初の飼い主に遊んでもらうことがなかったのでしょう。散歩をして他の犬と接し、社会性を身に着けることもなかったのだと思います。
 ミックス犬は人の手で交配させて作り上げた犬です。見た目はとても愛くるしく誰もが「かわいい!」と声をあげます。でも、命のあるものを育て天寿を全うさせるのはとても大変なことです。しつけには時間も労力もかかります。病気をすればお金もかかります。老犬になると毛が抜けたりして容貌も変わってきます。認知症になることもあるそうです。そんなリスクがあることを充分に認識してペットを飼ってほしいです。

1494228699141.jpg 人間の身勝手で捨てられてしまったレン。知らない場所でどんなに心細かったか、と思うと今でも涙が出そうになります。売れる犬種を作り出す人間。かわいいからと安易に飼って、育てられないと平気で捨ててしまう人間。動物愛護センターで保護された動物も里親を探してもらえる者は僅かです。多くは保健所に送られ殺処分されます。
 ドイツでは動物愛護が国の法律で決められており、育てられなくなった動物は国の予算で建てられた施設で死ぬまで生活することができます。日本はまだまだ遅れていますが、自己でできることもまだまだあるはずです。ペットも家族です。命の重みを受け止められる世の中にしたいものです。

 愛知県弁護士会では、憲法週間記念行事として5月21日(日)午後1時から「動物愛護を通して考えるいのちの大切さ」というイベントを行います。
 今一度、みんなで命について考えてみませんか。詳しくは愛知県弁護士会のホームページをご覧ください。

事務局 塚本久美子
posted by 金山総合法律事務所 at 12:45| 日常から見えてくること

2017年04月27日

トヨタ自動車 〜その7 女性〜

トヨタ自動車 〜その7 女性〜

トヨタ自動車と言えば「男の会社」とつい思ってしまう。

トヨタ自動車のサイトの役員の欄をみると、取締役・監査役、執行役員として約65人の役員がいるが、女性は監査役として1人いるだけであって、あとは全員男性である。
いうまでもなく監査役は、企業の経営方針などに携わることはないから、経営陣のメンバーとは言い難いであろう。また執行役員というのは会社法上の取締役ではなく、従業員ではあるが役員待遇を受けて決定した重要事項を実行する責任者という意味である。にもかかわらず女性は執行役員にもなっていない。

労働者関連のデータをみると、2015年(平成27年)においては、全労働者数7万2779人のうち女性はわずか8196人であり、残りの6万4583人は男性だった。労働者の女性割合は11%ということである。同年の採用状況についてみると、全採用者数2185人のうち、女性は215人であるのに対し、男性は1970人である。つまり女性の採用比率は9%である。なお、そのうち女性は主に事務職として採用されており、女性は42人、男性61人となっている。
また同年の女性管理職の割合についてもトヨタ自動車は公表しているが、主任以上は3.7%、主幹以上が1.4%としている。ちなみに主幹とか主任というのは、専門職名で、下から「主任」、「主幹」「主査」「理事」と4つあり、これを管理職に当てはめると主任はグループ長相当、主幹は室長相当、主査は部長相当だそうである。「主査」の女性割合が記載されていないので、このことは主査の女性が不存在であることを意味していると思われる。なお「理事」という管理職が、従業員の最高職である執行役員を指すのかどうかも私には不明である。

ところで政府は「男女共同参画基本計画における成果目標」という方針を掲げているが、2016年(平成28年)5月に発表された第4次目標のうち民間企業に関する目標は次のとおりだった。
  係長相当職 2020年(平成32年)までに25%
課長相当職 2020年(平成32年)までに15%
部長相当職 2020年(平成32年)までに10%
上場企業役員に占める女性の割合
         2020年(平成32年)までに5%(早期)、更に10%
このような政府の目標との比較において、トヨタ自動車では、具体的にどの管理職が該当するのか私には不明であるから、間違いを覚悟で単純に、係長相当職を「主任」、課長相当職を「主幹」、部長相当職を「主査」と当てはめてみた。
 すると、トヨタでは次のとおりになる。
 係長相当職=主任 2015年 3.7% (2020年目標25%)
課長相当職=主幹 2015年 1.4% (2020年目標15%)
部長相当職=主査 2015年   0% (2020年目標10%)
上場企業役員に占める女性の割合
            2015年   0% (2020年目標5%)

トヨタ自動車において女性の昇進・登用が政府の目標値に達するのは、いつのことになるのか、まったく予想することすらできない。

ところで、トヨタ自動車では女性の役員や幹部は輩出されないのではないかと、私は内心思っている。
実は2006年(平成18年)4月に愛知県三河湾にある蒲郡市に、海陽学園という中高一貫校が設立された。通常私立学校といえば高い教育理念のもった教育者が設立することが多いが、この学校はトヨタ自動車、東海旅客鉄道、中部電力など中部財界のトップの企業が設立していることが大きな特徴である。つまり教育理念よりも企業理念が最優先とされてる学校なのである。
 この学園の特色は、「6年間の全寮制により次世代のリーダーの育成、将来の日本を牽引する人材の育成するために、リーダーシップを発揮する上で欠かせない社会性や道徳心を養うこと」だという。
 一見、素晴らしいことのように思えるが、この学校は男性に限る、いわゆる男子校であって、女性は排除される。要するに女性は将来の日本を牽引するリーダーとは、まったく想定していないことは明らかである。
またある情報によれば、海陽学園に入るための入学金や入寮費は60万円、年間の学費は約240万円、在学中の食費約40万円などがかかり、1年間で約300万円、6年間で1800万円が必要だというから、よほどの富裕層でなければ子どもを海陽学園に入学させることなどできるはずもない。
 従って、富裕層の家庭の男子が入学することになる。
トヨタ自動車のイメージする日本のリーダーというのは、つまるところ富裕層出身男性ということであるから、その限界は自ずと分かるし、ましてや今後女性の役員や幹部が輩出されるはずはないだろうと予想することも簡単である。
以 上
posted by 金山総合法律事務所 at 12:41| 重要判決

トヨタ自動車 〜その6 期間工〜

トヨタ自動車 〜その6 期間工〜


近年、労働者における非正規雇用の割合が高くなったと言われているが、厚生労働省の発表によれば、平成28年おいては役員を除く雇用者全体の37.5%になった。人数としては、全労働者のうち正規雇用者数3355万人に対し、非正規雇用者数は2016万人だという。

 トヨタ自動車にもいわゆる非正規雇用労働者がおり、「期間工」と呼ばれている。昭和38年に「期間工」(季節労働者)として採用されるようになったという。

期間工は、トヨタ自動車に直接雇用されているが、その雇用形態は募集要項でみると次のようになっている。
  基本日給  9800円〜10600円
勤務時間  連続2交替勤務(1日7時間35分)
      基本となる勤務形態(1直、2直を1週間毎に交替)
     1直(5日)6:25〜15:05
     2直(5日)16:00〜0:40
    業務の都合により残業、休日出勤あり。
      他に、連続3交替勤務、常昼勤務あり。
休日  原則週休2日制(土・日曜日)
契約期間更新 初回契約 3ヶ月
  1回目更新3ヶ月
  2回目〜5回目更新 6ヶ月
  6回目更新 5ヶ月(連続2年11ヶ月)
会社の判断基準
       @ 契約期間満了日以降の会社の生産見通し、その他業務量、
                A 本人の勤務成績、勤務態度、能力、健康・体力
@とAを会社が総合的に考慮して更新が必要と判断した限り、契約を        更新する場合があります。

 以上を分かりやすくすると、1ヶ月4週として20日働くことになるので、賃金は単純に日給1万円として計算すると月20万円である。ここから健康保険料、厚生年金、雇用保険、住民税、所得税など控除された場合、手取り額は幾らになるのだろうか。また契約更新は当然更新ではなく、その都度会社の判断に委ねられるので将来を見通すことができない。おそらく期間工でもQCサークル活動で成果を上げないと、勤務成績、勤務態度などに影響するので契約更新も難しいという実態があるのではないか。
さらに契約が更新されても最長2年11ヶ月で止まる。独身者の場合には独身寮に入れば住居費は無料になるが、寮に入らない場合には月20万円では生活は楽ではないと思われる。しかも深夜勤務を含む2交替勤務であるから生活リズムが崩れ身体的精神的に疲労が蓄積することは容易に想像できる。
結局、期間工とは、雇用期間の定めのある労働契約を締結している労働者であって、トヨタ自動車にとって「景気の調整弁」として使い捨ての労働者なのであろう。

ところで政府は、非正規雇用と正規雇用の賃金等の待遇格差が世界的にみて格差が大きいことから、「同一労働同一賃金原則」から不合理な格差を是正するための努力をしようとしている。賃金格差の程度は厚労省の統計調査によれば平成28年においては、正社員の場合平均時給は1950円であるのに対し、正社員でない場合、平均時給は1299円とされている。特に正社員の場合勤続年数に従って賃金は増えるが、正社員でないと定年まで、ほぼ同じ時給となっているので、生涯賃金額は大きな格差が生じる。

ではトヨタ自動車における賃金はどのようになっているか、であるが、ネット情報によれば、2017年3月現在の発表では、正社員の賞与も含めた平均年収は814万円となっており、年令別でみると、30歳代634万円〜724万円、40歳代814万円〜911万円、50歳代968万円〜976万円という。さらに総合職、技術職、一般職との間には年収に大きな格差があり、総合職であれば年収1140万円、技術職797万円、一般職は814万円となっている。
このような数字を見てみると、期間工の年収は240万円程度であり、仮に時間外残業や休日労働をしたとしても年収は多くても360万円程度であろうと推測することができる。そうしてみると、期間工とそうではない労働者の間には大きな賃金格差があると言わなければならない。
トヨタ自動車における期間工の割合は不明であるが、2017年3月に発表された東洋経済オンラインでみると、トヨタ自動車の非正規労働者数は連結で8万6843人であり、連結での労働者数34万8877人に対して20%だったという。2016年の数字では、非正規労働者数は8万5778人、労働者数33万8875人だったから、人数としては増加していることになる。
 トヨタ自動車は期間工を正社員として登用する方針も打ち出してはいるが、現在のところ期間工の割合が大幅に減るという結果にはなっていないようである。

以 上
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2017年04月18日

トヨタ自動車 〜その5 過労死〜

トヨタ自動車 〜その5 過労死〜

先回紹介したBさんの裁判の判決では、名古屋地方裁判所は、「本件災害はBが従事した業務に起因するものというべきであるから、これを業務上の災害と認めなかった本件処分は違法であり、取り消されるべきである」と判決をした。つまり豊田労働基準監督署の不支給処分は違法だと認定された。

このBさんのケースではいろいろな論点がありそうであるが、第1に、時間外労働時間管理についての問題があると思う。
 判決は、Bさんの上司であるKがBの労働時間を管理していたというものの、その内容を信頼することができないと判断した。一体、なぜそのような事態がおきたのか不明であるが、トヨタ自動車ほどの企業であれば、例えば、全労働者に出退勤のカードを持たせて、工場の門を出入りする際にカードでチェックすることで自動的に時間外労働を管理するという方法を採用することなどができたと思われる。
 時間管理表を自己申告によって記入する方法や上司が作成するという方法では、どれだけでも虚偽の時刻を記入することができるので、真実の時刻が記載されていないことが多い。まずもってトヨタ自動車は労働者の労働時間管理を正確に実施していなかったことが問題にされるべきであろう。
ところで豊田労基署は、Bが時間外労働している事実について、「出社時間と退社時間からわかることは在社時間であって労働時間ではない。在社の全部が労働時間ではなく、雑談していたりして職場にいる必要がないのに残っていただけである」などと反論していた。「労働基準監督署がそういう主張をするのか」と私は非常に驚いた。
 Bさんの件では、Bさんが心停止状態になったのは午前4時20分であった。本来であれば午前1時に仕事を終えて帰宅するべきであるにもかかわらず午前4時20分まで詰所にいて業務に従事していた。このように深夜、大部分の人が寝ている時刻に雑談のために午前4時20分まで在社したいと希望する労働者が一体どこにいるのだろうか。豊田労基署はトヨタ自動車の職場における深夜交替勤務の実態を十分に調査して労働実態を正確に認識すべきである。

ところで、いろいろな情報を探してみると、2006年8月に「豊田労基署署長ら,漏洩先企業の法人会員権でゴルフ」という新聞報道があった。この記事によれば、次のようであった。
 豊田労基署には労基法違反や労働条件などの相談に応じる非常勤の国家公務員が総合相談員として配置されていた。
 豊田市に本社や工場をもつ自動車部品製造会社Xの元労働者Yは、定年退職後に豊田労基署の総合相談員として採用され相談業務を行っていたが、X社の労働者Zが、豊田労基署に来て労働基準法違反と思われる内容の告発をしたそうだ。本来であれば、相談員Yは労基署としてきちんと調査するべきところ、なんとYの出身企業だったため、Xに対してZの内部告発に関する情報、例えば告発者の氏名や告発内容などをXに伝えたという。
驚くような話であるが、労働相談員の採用条件をみると、企業で労務管理実務経験のある者、社会保険労務士の実績のある者とあるので、このような事態は十分に予想されることである。しかも、豊田労基署の署長や課長はYからX社のゴルフ場割引券を貰って、Xの社員などと一緒にゴルフをしたという。
労働基準法99条では「労働基準監督署長は、都道府県労働局長の指揮命令を受けてこの法律に基づく臨検、尋問、許可、認定、審査、仲裁その他この法律の実施に関する事項をつかさどり、所属の職員を指揮監督する」とされており、非常に強い権限を持っている。さらに同法第101条では、労働基準監督官の権限につき、「事業場、寄宿舎その他の付属施設に臨検し、帳簿および書類の提出を求め、又は労働者に対して尋問を行うことができる。」と定め、同法102条では「労働基準監督官は、この法律違反の罪について刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務をおこなう。」としている。
 このように労基署長も、また労基署に配属されている労働基準監督官も非常に強い監督・指導権限を持っているのである。労働基準法違反を行うのは使用者なのであるから、企業とはきちんと距離をとり違法が疑われる事態があれば企業がなんと言おうとも直ちに対処する義務がある。従って、上記のようなX社と豊田労基署長や課長などの関係は、あってはならない不正な癒着というべきであろう。
報道によれば、豊田労基署の署長などは、国家公務員倫理法違反で戒告処分を受け、
内部告発についての情報を漏らした相談員は国家公務員法の守秘義務違反で戒告処分とされたという。
結果が甘すぎるとは思うが、そもそも労基署で働く総合相談員として採用する場合には、少なくとも当該労基署の管内の企業で労務管理の仕事をしていた労働者を採用するようなことはすべきではないだろう。

第2の論点は、QCサークルなどの活動である。
 QCサークル活動については、トヨタ自動車75年史をみると、いかに企業として力を入れていたが良く分かる。
 「トヨタがQC(品質管理)を導入したのは、戦後であるが、すでに戦前においてその起点を見いだすことができる。・・まず1949年末に緊急の課題であった製造工場での不良品低減に対して、特性要因図に基づき不良の要因を検討し、その要因のばらつきを管理図で明らかにすることで対策につなげる、というQCアプローチが導入され、翌年機械工場で管理図法が試験的に適用された。・・1951年に創意工夫提案制度が発足した」という。
具体的にどのような方法でQCサークル活動がなされたかについてトヨタは詳細を書いていないが、聞くところによれば、例えば製造工場では、ラインが止まった後にチーム員8〜10名が職場に残って会議室で製造工程の見直しや、工具の使用方法など実際に作業にあたって感じたことを意見として出し合って話合い提案として纏めていくという方法だという。つまり労働契約上の業務が終了した後の活動をいう。
このQCサークル活動などは、すべて「自主的業務」であるとして、トヨタ自動車が労働者に対しまったく賃金を支払わなかった。

 さらに75年史では、「1993年(平成5年)からNewQCサークル活動が展開された。管理監督者がQCサークルの本来の狙いを再度理解し、これに沿った活動に導くため管理監督者の教育などが実施された。創意くふう提案制度においては、提案件数が過熱し、改善提案を通じた上司から部下への指導が難しくなる現象も見られたことから、審査基準や表彰基準が見直されるとともに、提案件数の全社目標が廃止され、量の拡大から質の向上への転換が図られた」と書いてある。
「提案件数が過熱した」とさらりと書いてあるが、なぜ過熱したのか記載はない。しかし、おそらく提案件数が多いことによって昇進や昇格などの人事考課が大きく影響したのだろうと容易に推測することができる。
Bさんがいた頃の平成12年の提案件数をみると、年間65万9589件、1人当たり11.9件となっている。ちなみに1986年には264万8710件、1人当たり47.7件となっている。しかし、トヨタ自動車の75年史では、これだけの量の提案をするために労働者がどれだけの時間を使っているのか、時間外労働手当の不払い額が幾らあったのか、そしてトヨタはこれほど大量の改善提案によってどれだけ企業利益を得たのか、なにも記載していない。

ところで、Bさんの判決で「QCサークル活動」と「創意くふう提案」については、裁判所は業務性を認めたため、トヨタ自動車は、判決のあった2007年11月の後の2008年6月からQCサークル活動の時間について時間外手当が支給されるようになったという。ただし、月2時間という制限があり、2時間以上活動する場合には上司の許可が必要になったという。
 トヨタ自動車が莫大な企業利益を上げ、今の地位を築いてこれたのは、労働者がQCサークルや創意くふう提案などの活動をしてきたこと(=品質向上)とこれらの活動について「ただ働き」としてきたこと(=コストカット)によって支えられてきたからである。

以 上
posted by 金山総合法律事務所 at 12:43| 重要判決

トヨタ自動車 〜その4 過労死〜

トヨタ自動車 〜その4 過労死〜

法律雑誌で公表されているもうひとつの過労死に関する判決を見てみよう。
 2007年(平成19年)11月30日には国・豊田労基署長(トヨタ自動車)事件の名古屋地方裁判所判決である(労働判例951号)。この判決については被告は控訴しなかったことから確定した。

男性Bさんは、1989年(平成元年)4月にトヨタ自動車に入社し、主に堤工場にて自動車ボデーにゆがみやへこみがないかどうかを品質検査する部署に第1品質係のRL813組に配属されて働いていたが、2002年(平成14年)2月9日の午前4時20分頃、工場内の詰め所にて交替勤務する「反対直」と呼ばれる後の組への申し送り事項を申送帳の記入や、ライン作業者から業務報告を受けたり、ドアの不具合につき後工程である組立のGL(グループリーダー)と折衝したり、不良品を現場から持ち帰ったりといった作業をしていたところ、意識を失って椅子から崩れ落ち、午前4時50分には心停止状態になり、午前6時57分搬送先の病院で死亡が確認された。Bさんは死亡当時30歳だった。

Bさんの妻は、2002年(平成14年)3月に本件災害が業務に起因するものとして豊田労働基準監督署に遺族補償年金などの請求をしたが、2003年(平成15年)11月不支給処分としたため、さらに2004年(平成16年)1月愛知県労働者災害補償保険審査官に対し審査請求したが、審査官は2005年(平成17年)3月に棄却決定を出した。さらに平成17年4月に東京の労働保険審査会に再審査請求をしたが3ヶ月以上経過しても裁決がなされなかったため、2005年(平成17年)7月にBさんの妻が原告となって国と処分庁である豊田労働基準監督署長を被告として提訴したものである。

判決は、まずBさんの労働時間について次のとおり認定した。
「第1作業係では1週間毎に1直(日勤)と2直(夜勤)とを交代する。深夜労働を含む2交代勤務制が実施されていた。1直および2直の所定始業時刻、ライン稼働開始時刻および終業時刻は以下のとおりだった。
 1直:始業時刻      午前6時25分
    ライン稼働開始時刻 午前6時30分
    終業時刻 午後3時15分
2直:始業時刻   午後4時10分
    ライン稼働開始時刻 午後4時15分
    終業時刻 午前1時00分 」

 そして、時間外労働時間については「平成14年1月10日から同年2月8日までの期間において合計312時間40分在社し、このうち労働時間は合計278時間10分である。労働基準法32条1項所定の1週間に40時間という労働時間の規制に従ってBの時間外労働を算出すると、上記期間における時間外労働は、106時間45分となる」と認定した。
さらに被告の反論については「Bの勤怠管理についてはK(グループリーダー上司)が残業時間等の所定事項をパソコンに入力することにより行っていたものであるが、パソコンに入力されたBの残業時間は、Kが通常の処理方法で必要と認められるであろう作業時間を想定して入力したものであって、作業に費やした実際の時間を示すものではない」と認定している。

さらに判決はBの小集団活動につき、次のように認定した。
「Bは、平成12年から本件災害発生当時まで、交通安全リーダー、職場委員、QC(品質管理Quality Control)サークルリーダーの役割を担っていた。トヨタ自動車は従業員の人事考課において基礎技能職・初級技能職・中堅技能職につき、創意くふう等の改善提案やQCサークルや小集団活動での活動状況をEX級(班長職エキスパート級)につき組メンバーを巻き込んだ活動ができることを考慮要素としている。」
「創意くふう提案、およびQCサークルの活動は、トヨタ自動車の事業活動に直接役に立つ性質のものであり、また交通安全活動もその運営上の利点があるものとしていずれもトヨタ自動車が育成・支援するものとして推認され、これにかかわる作業は、労災認定の業務起因性を判断する際には、使用者の支配下における業務であると判断するのが相当である」とした。

そしてBの労働の質については「Bのライン外業務は不具合の処理として、その発生元や不具合がBの担当部署で発見できず後の工程で発見された場合の折衝が必要になり、ときに他の組の上位職制から叱責されたこともあったというのであるから、その職務の性質上比較的強い精神的ストレスをもたらしたと推認できる。またライン稼働中は、詰所でゆっくり座って仕事ができる日がほとんどなかったというのであるから、ライン稼働中の業務は労働密度も比較的高いものであったというべきである。加えて、夜間交替勤務による労働は人間の約24時間の生理的な昼夜リズムに逆行する労働態様であることから、慢性疲労を起こしやすく、様々な健康障害の発生に関連することがよく知られており、近年の研究により心血管疾患の高い危険因子であることが解明されつつあることに照らせば、Bの業務が深夜勤務を含む2交代勤務制である本件勤務体制の下で行われていたことは慢性疲労につながるものとして業務の過重性の要因として考慮するのが相当である。」と判示した。
最後に「本件災害はBが従事した業務に起因するものというべきであるから、これを業務上の災害と認めなかった本件処分は違法であり、取り消されるべきである」と判決をした。
                     (続く)
posted by 金山総合法律事務所 at 12:35| 重要判決

トヨタ自動車 〜その3 過労死〜

トヨタ自動車 〜その3 過労死〜

トヨタ自動車と聞くと、評判の良い優秀な企業というイメージを持つ人も多いと思う。しかし、ここ愛知県で生活していると、トヨタ自動車で働く労働者が非常に厳しい労働現場で働いているという話をよく聞く。しかもトヨタ自動車ではいくつか過労死あるいは過労自殺も発生し、ときどき新聞などで報道されている。

 私自身はトヨタの過労死問題に直接関与したことはないので、いくつか調査してみたところ、2001年(平成13年)6月18日には豊田労基署長(トヨタ自動車)事件の名古屋地方裁判所判決(労働判例814号)、2003年(平成15年)7月8日には同じ事件での名古屋高等裁判所判決(労働判例856号)があった。2007年(平成19年)11月30日には国・豊田労基署長(トヨタ自動車)事件の名古屋地方裁判所判決が見つかった。なお、新聞記事ではあるが、2017年(平成29年)2月23日には名古屋高等裁判所でトヨタ自動車の関連会社での過労死について判決があった。トヨタ自動車だけでなく関連会社の過労死事件も含めれば、もっと多くの事件があるのかも知れない。

最初の事件は飛び降り自殺のケースである。
男性Aさんは、1978年(昭和53年)4月にトヨタ自動車に入社し車両設計の技術者として働いており、1988年(昭和63年)2月には第1車両設計課第1係の係長に昇進したものの、同年8月23日午前5時30分頃、自宅付近のビルの6階踊り場から飛び降り全身打撲で死亡した。死亡当時Aさんは35歳だった。
 Aさんの妻は、1989年(平成元年)3月に自殺が業務上に起因するうつ病によるものであるとして岡崎労働基準監督署に遺族補償年金などの請求をしたが、後日移管を受けた豊田労働基準監督署は1994年(平成6年)10月に不支給処分とした。そのためAさんの妻が原告となって提訴したものである。
名古屋地方裁判所では「遺族年金給付を支給しない処分を取り消す」という判決を出した。つまりAさんの妻の勝訴である。これに対し豊田労基署長が不服として名古屋高等裁判所に控訴し、平成15年7月8日に控訴棄却の判決がなされた。
控訴審では、うつ病による自殺が業務上に起因するものかどうかという点が重要な争点であったが、判決は係長に昇進してからの繁忙さについて次のように認定した。

 「トヨタの会社では、生産過程において、『ジャスト・イン・タイム』と『自働化』を特徴とした独自の生産方式を採用しており、これにより高い生産効率と人件費等のコスト削減を目指していた。また新車の開発や量産車のマイナーチェンジ等は製品企画室があらかじめ設定した日程に基づいて行われていた。そして設計業務の遅れは他の部署の日程に大きな影響を及ぼすため、設計図の出図期限は遵守すべきものであり、設計部門においては出図時期が一番の繁忙期であった。」
「Aの係長としての主な業務は、月例報告書の作成、製造現場や販売店からのクレームに対する改良処置、業務処理の管理、先行設計図の書き込み、他部署との調整、生産工程現場に赴いて改良設計の打ち合わせ、特許申請があった。」とした他、時間外労働時間の状況、残業半減運動による残業規制の存在、外国への出張命令、労働組合の職場委員長の就任などの諸事情を認定した。
これらの認定事実により、例えば「これらの業務は、いわゆる中間管理職の業務であり、一般職員の業務よりもストレスが強いと推測される」とし、さらに、「トヨタでは1987年(昭和62年)6月まで残業半減運動が行われ、1988年(昭和63年)当時も1人1ヶ月平均の目標残業時間数が定められていたところ、形式化した業務の廃止や業務の効率化等がおこなわれたとしても、残業規制により労働密度が高まったことが推定される。Aの時間外労働時間数は1987年(昭和62年)11月から1988年(昭和63年)6月まで毎月40時間以上の時間外労働をしているが、これは上記毎月の目標残業時間数にほぼ合致しているものであることからすれば、Aの昭和62年2月以降の労働密度は、それ以前に比べて高いものであったと推認される。」と個々の事実について具体的に認定した。

そして、「Aは従前からの恒常的な時間外労働や残業規制による過密労働により相当程度の心身的負荷を受けて精神的、肉体的疲労を蓄積していたこと、昭和63年7月の2車種に出図期限が重なったことによる過重・過密な業務、および出図の遅れにより極めて強い心身的負荷を受けたこと・・・(中略)・・Aの本件うつ病は上記の過重、過密な業務および職場委員長への就任内定により心身的負荷とAのうつ病親和的な性格傾向が相乗的に影響し合って、発症したものであり、さらにその後の開発プロジェクトの作業日程調整および本件出張命令が本件うつ病を急激に悪化させ、Aは本件うつ病による希死念慮の下に発作的に自殺したものと認めるのが相当である。」としてAのうつ病発症と自殺には業務上の相当因果関係を認められるとした。

この判決は当然のことながら妥当だと思われるが、豊田労基署が当初「不支給」とした理由は、Aの時間外残業時間が月43時間程度だったことが原因だったのではないかと思われる。しかし、単純に時間外労働時間数のみでストレスの有無や量を判断することは非常に危険であり有害である。なぜならば仮に時間外労働時間数を減らすように使用者が指示したとしても、使用者は、労働者のために業務量を減らしたり、業務完成の期限を延期したりすることは決してないからである。その意味でこの判決は豊田労基署が判断を誤った原因をきちんと示していると思われる。

なお、新聞報道によれば、現在におけるトヨタ自動車の36協定(労働基準法36条に基づく時間外労働に関する労使協定)は、1日8時間、1ヶ月80時間、1年720時間となっているそうだ。これだけの数字を見ればつい少なく感じてしまうが、労働基準法32条では、時間外労働については、1日8時間としているから、時間外8時間を加えると「1日16時間まで働かせても良い」ということを意味するし、1週間は40時間としているから、仮に1ヶ月4週間とすると4週間で160時間となるから、これに時間外80時間を加えると「4週間に240時間まで働かせても良い」ということになる。
(続く)
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2017年04月10日

トヨタ自動車 〜その2 トヨタシステム〜

トヨタ自動車 〜その2 トヨタシステム〜

愛知県で生まれ愛知県で生活していると、トヨタ自動車に限らず、関連子会社、下請け会社に働いている人と知り合うことが多い。

私の手元には「大企業黒書」という冊子がある。1981年(昭和56年)に「職場の自由と民主主義を守る愛知連絡会議」が発行したもので、愛知県下の大企業、新日鉄、東レ、三菱重工、中部電力、住友軽金属、大隈鉄工、日本碍子(ガイシ)など各職場の労働実態を明らかにしている。

 そのトップ記事はトヨタ自動車工業の労働者が書いた「『カンバン方式』が生み出した労働強化と労働災害」である。
1980年と言えば、トヨタの自動車輸出が100万台を越え、まさに日米貿易摩擦が深刻化した時である。
このころ職場では「現在の人員で最大の効果を発揮する体制作りが強調され、超過密労働をトヨタ自工従業員はもとより、関連企業の労働者下請中小企業に押しつけた」という。数字上でみれば、1976年から1980年までの5年間で、売上高は65.9%、生産台数は31.9%の増加があったものの、従業員数はわずか5.8%しか増えていない。つまり労働者1人当たりの生産台数は55.4台から69台に増え、売上げ高も1人当たり4400万円から7000万円に上がったという。この数値から労働強化が加速されたことが十分に分かる。当時あまりにもトヨタの働かせ方がひどいと全国的に評判になったため、地方の採用面接会場には応募者がなかったという。
1981年会社は「有給休暇の取得向上」という運動を提唱したが、その内実は、「計画的な有休取得運動」であって、「少ない人員で工場の稼働をさせようと思うと、事前に人員を把握しておかなければならない。つまり当日朝突然休む人をどうしても減らす必要があることから考え出されたものであって、決して有休を取りやすくしたものではなかった」と記事には書いてある。そしてその結果、有休取得率は増えることはなく、事前計画率のみ向上したそうである。
また増産のために愛知県に田原工場を新設したが、1980年6月から1981年5月までの間に豊田市の工場から90名近い労働者が田原工場に転出をした。しかし、従来の工場では人員補充が16名新人採用でしかなかったので、労働強化がひどくなったという。このように人員削減をしても補充をしないというのがトヨタの労務管理だった。 また工場のラインのスピードについては、ある職場では、作業者の動きをストップウォッチで時間計測するという方法をとるが、その際、動作の速い労働者の時間に合わせるようにラインのスピードを標準化し、作業基準書を作成した。結局、他の労働者は動作の一番早い人の時間に合わせることを強制され、労働強化となったという。このようにラインは1秒単位で早くなったので、労働者は仕事中トイレにいく時間的余裕も奪われた。

「大企業黒書」にはもうひとつ「豊田自動織機」の労働者が書いた記事がある。豊田自動織機は、トヨタ自動車の前身として1926年(大正15)に設立された会社であり、現在のトヨタ自動車の筆頭関連会社であり、本来の織機機械の生産の他、トヨタ自動車の組み立て、エンジン、カーエアコン、自動車電子部品など自動車関連製品の生産を行っている。本社は愛知県刈谷市豊田町にある。
トヨタのカンバン方式を採用しているが、トヨタ自工の下請けとして自動車を生産している工場の労働者は、「織機のラインで働く方が自工のラインよりもきつい」と言い、職制も「トヨタ自工から仕事をもらっているんだから自工よりもラインが遅かったら、儲からない」と言っていたそうである。例えば、1975年には1台当たり7分のラインのスピードが、1979年には1台当たり3分30秒と早くなったという。このようにラインのスピードを早くしたため、この4年間で生産台数が4倍になった。
このような労働強化によって腰痛とか頸肩腕症候群、振動病などの労働災害が増加した。この記事には腰痛に罹患した男性労働者が、会社に対して療養補償給付請求書(いわゆる労災申請書)を渡したところ、会社はその男性に対して「業務起因性はない」という書面や、「労災であると主張することは、会社と従業員の関係において誠に遺憾に思う」と書いた書面を渡したという、労災申請書は、会社が労働者から渡された場合には、そのまま労働基準監督署に提出しなければならないにもかかわらず、これを放置したどころか、労働者の請求する権利を妨害し侵害したのである。このように職場では多くの労働災害が発生しているにもかかわらず、このような会社の対応による職場の雰囲気により、労働者は労災申請することすらできない状況にあったという。

このように見てくると、トヨタが1980年以降、自動車販売台数が世界2位になり、さらにその後世界1位になった理由が分かるような気がする。まさに少数の労働者をギリギリまで低賃金で働かせたことによって生産台数を増やした結果なのであろう。

トヨタ自動車やその関連企業での職場の実態、そしてその根幹となった「トヨタシステム」というトヨタでの生産管理システムや労働管理システムについては、猿田正樹教授が、例えば1995年(平成7年)発行の「トヨタシステムと労務管理」(税務経理協会)などに詳しいので、そちらを参照して下さい。
弁護士 渥美玲子
(続く)
posted by 金山総合法律事務所 at 15:08| 重要判決