2016年08月11日

働く女性と法律(その2)

「均等法」の成立

 皆さんご存じの均等法について話したいと思います。
一口に「均等法」と言っていますが、実は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇に確保等に関する法律」というのが現在の法律の正式名称です。

この法律は、1985年(昭和60年)5月17日に成立し、翌1986年(昭和61年)4月1日から施行されました。
ところで、あまり知られていないのですが、均等法は、1972年(昭和47年)に成立した「勤労婦人福祉法」という法律を改正するという手続で成立しました。なので六法をみると、「昭和47年7月1日施行」と書いてあります。このような改正手続もあったためか、1985年に成立したときには、均等法の正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」というものでした。

法律の名称や趣旨、内容がまったく異なるにもかかわらず、「改正」という手続でおこなわれるというのは、違和感を感じますが、実は今の「日本国憲法」も「大日本国憲法」の改正手続によって成立しました。
 日本国憲法の冒頭には「朕は日本国民の総意に基づいて新日本建設の礎が定まるに至ったことを深く喜び、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法73条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる。」と書いてあります。
 現在の憲法はアメリカ合衆国による押しつけ憲法だ、という意見もあるようですが、そうすると、当時天皇が深く喜んで裁可したこと、枢密顧問が諮詢したこと、帝国議会が議決したことなどのすべての手続はアメリカによる押しつけだということになります。

  均等法に話を戻しますと、1960年代には女性労働者に対する差別が大きかったことから労働組合や女性市民団体などから「雇用平等法」を制定せよという大きな要求がありました。女性が働き続けたいと希望しても、当時の多くの企業は「結婚退職制」「30歳定年制」などの就業規則を作って女性を職場から締め出していましたし、賃金も男性に比べて半分以下程度でした。もちろん女性が昇格昇級することはありませんでした。
しかし、政府や財界はこのような女性の要求を無視し、多くの反対があるにもかかわらず均等法を成立させました。
この均等法の問題点はいろいろありますが、第1に、「平等」といっても待遇や労働条件の平等ではなく、単に「機会の均等」でしかないこと、第2に、事業主に対しては「努力義務」しか課さなかったことから、均等法に違反した事業主に対して女性労働者はなにもできないことになったこと、第3に、このような均等法の成立とひき替えに労働基準法の時間外労働や深夜労働など労働時間についての女性保護規定が撤廃されたことなどです。
 要するに女性労働者は、「保護」を失い「平等」は確約されないままになったのです。

ところで私の手元に日本弁護士連合会が1987年(昭和58年)10月に発行した「男女が平等に働くために〜雇用平等法の制定に向けて」という150ページに及ぶ冊子があります。その21ページに「男女雇用平等法要綱試案」が掲載されています。これは「試案」ですから、結局は日の目を見ることはなかったのですが、当時日本弁護士連合会がどのように考えていたか良く分かります。

第1条の「目的」にはこのように書いてあります。
「この法律は男女平等を基礎とし、女性の労働権が、人間としての尊厳を確保するために欠くことのできない基本的人権であることにかんがみ、雇用の機会と待遇について、使用者等が女性を差別的に取り扱うことを禁止するとともに、その差別的取扱いによる権利または利益の侵害から女性を迅速かつ適正な手続により救済するため必要な措置を講ずることにより、雇用における男女平等を促進することを目的とする。」

第2条の「差別的取扱いの定義」には、このように書いてあります。
「第1項 この法律において女性に対する差別的取扱いとは、次の各号をいう。
1,女性であることを理由として不平等または不利益な取扱いをすること。
2,女性に対してのみ年令、未婚・既婚の別、子どもの有無、学歴、容姿等特定の条件を理由として不平等または不利益な取扱いをすること。
3,女性のみに適用される条件でなくても、女性のみを排除し又は女性のみ不利益をうける結果となる条件を設けて不利益な取扱いをすること。
4,労働基準法等法令に定められた女性に対する保護の権利行使を理由として、不利益取扱いをすること。
第2項 労働基準法等法令に定められた女性に対する保護並びに男女平等を促進するための特別の措置は、差別的取扱いとはみなさない。          」

 少し飛ばして、
第7条の「罰則」には、このように書いてあります。
「次の行為に対する罰則規定をもうけ、1及び2は両罰規定とし、違反行為を行った者を罰する他その事業主をも罰する。
 1,この法律で禁止された差別的取扱い
 2,調査及び審問手続に関する違反行為
 3,確定した救済命令違反 」

ここまで読むだけでも、1985年に成立した「均等法」が、如何に女性達の要求したものと異なっていたか、十分に分かるのではないでしょうか。
弁護士 渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 12:55| 両性の平等

2016年08月06日

民法改正〜 再婚禁止期間 

民法改正〜再婚禁止期間

1,改正の内容
 今年2016年6月1日に民法733条が改正され、6月7日に施行されました。

旧733条は次のとおりでした。
「1項 女は、前婚の解消又は取消しの日から6箇月を経過した後でなければ、再婚することができない。
2項 女が前婚の解消又は取消の前から懐胎していた場合には、その出産の日から前項の規定を適用しない。 」

改正後の733条です。
「1項 女は前婚の解消又は取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ再婚することができない。
2項 前項の規定は次に掲げる場合には、適用しない。
1 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合
2 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合   」

2,旧民法
実は旧733条は、明治時代、明治31年(1898年)に制定された条文です。
 旧民法では「第767条」にて「女は前婚の解消または取消の日より6ヶ月を経過したるにあらざれば再婚することができない。」と規定されていました。
 その趣旨は、旧民法の法典調査会起草委員の梅謙次郎教授によれば、「本条の規定は血統の混乱を避けるためのものだ」ということです。つまり、離婚後に再婚した場合、離婚後に生まれた子が前婚の夫の子か、後婚の夫の子か判断が困難になり、判断を誤れば血統が混乱するというのでした。旧民法の時代は、家父長制といって男系長子のみが家督相続することができるという制度だったので、殊更「血統」が重視されたのでしょう。
この規定がなんと2016年に初めて改正されたというのですから、100年以上も改正されなかったという事実に驚くばかりです。

3,今回の改正
 改正により、「6箇月」が「100日」に短縮され、さらに733条の2項を満たす場合、離婚から100日以内でも再婚することができるようになりました。
 具体的には、@離婚した日の後に懐胎したという医師の証明書、A離婚した日以後の一定の時期において懐胎していないという医師の証明書、B離婚後に出産したことの医師の証明書などが必要です。そして、このような証明書が添付されれば、婚姻届けを受理されることになるそうです。もちろん医師の診断のためには必要な検査を受けることになりますし、検査する日なども制約があると思われます。

4,最高裁判決と今後の問題
ところで、このような民法改正という事態になったのは、平成27年(2015年)12月16日の最高裁判所の大法廷判決がきっかけでした。
勇気ある女性が、「民法733条は憲法14条1項及び憲法24条2項に違反している」として提訴し最高裁判所まで粘り強く闘ったことの大きな成果なのです。
最高裁判決が「100日を越える部分は憲法14条1項や憲法24条2項に違反している」と判断した理由を少し紹介すると、第1に、医療や科学技術が発達した今日では、旧民法のような観点から一定期間を禁止るすることを正当化することが困難になったこと、第2に、特に平成期に入った後は晩婚化が進み、離婚件数及び再婚件数が増加するなど再婚の制約をできる限り少なくするという要請が高まっていること、第3に、かつては再婚禁止期間を定めていた諸外国が徐々にこれを廃止する傾向になり、例えばドイツでは1998年に、フランスでは2005年にこの制度が廃止されたこと、第4に、婚姻の自由が憲法24条1項の趣旨から十分に尊重されること、第5,妻が婚姻前から懐胎していた子を産むことは再婚の場合に限られないことを考慮すれば再婚の場合には限って再婚禁止期間を設けることは困難であることなどがあげられています。

 しかし、仮に100日に短縮されたとしても、男性は再婚することについては、このような制限はまったくなく離婚の翌日に再婚することもできるのですから、女性に対してのみ再婚禁止期間を課すことは、女性の婚姻の自由を制限するものであって、婚姻における女性差別だと思われます。しかも、現在の医学ではDNA鑑定等により容易に決着がつく問題ですから、「血統が混乱する」という事態はおきないと思われます。
ちなみに国連女性差別撤廃委員会は、かねてから、再婚禁止期間については「女性に対してだけ特定の期間の再婚を禁じる規定を廃止すること」という勧告を出し続けており、2016年3月にも同趣旨の勧告をしていました。
   弁護士 渥美玲子                                         以 上
posted by 金山総合法律事務所 at 13:59| 法改正

2016年07月30日

「女性が輝く」って?

            「女性が輝く」って
                                   弁護士 渥美玲子
 2016年4月13日に発売されたHKT48(AKB48の博多HaKaTaにおける姉妹版)の新曲「アインシュタインよりディアナ・アグロン」の歌詞が女性蔑視だとして話題になっています。
その一部をみると、次のような歌詞。

難しいことは何も考えない。頭からっぽでいい。
女の子は可愛くなきゃね。学生時代はおバカでいい。
テストの点より瞳の大きさが気になる。
どんなに勉強できても愛されなきゃ意味がない。
世の中のジョーシキ何も知らなくても、メイク上手ならいい。
女の子は恋が仕事よ。ママになるまで子どもでいい。
それより重要なことは、そうスベスベのお肌を保つことでしょう?
もっともっと輝きたい。人は見た目が肝心。
だってだって内面は見えない。
可愛いは正義よ。

 まあ、よくある女性に対する考え方ですね。
 1962年には早稲田大学の男性教授が「文学部は女子学生に占領されていまや花嫁学校化している」として「女子学生亡国論」を展開しました。要は、「女性に大学のような高等教育を受けさせても意味がない、国費の無駄だ」という論調でした。
 1975年頃には司法試験を合格した女性修習生に対しても男性教官からの差別発言はありました。例えば「男が生命を賭けている司法界に女を入れることは許さない」「任官すれば当然転勤のことがでてくるが、それについて女性は甘く考えているんじゃないか」などでした。
 近いところでは、2015年8月には鹿児島県の男性知事が、高校教育のあり方を考える教育会議の席上で「サイン、コサイン、タンジェントを社会で使ったことがあるか女性に問うと、10分の9は使ったことがないと言う。そのようなことを教えてなんになるのか。女性にとってはサイン、コサイン、タンジェントよりも、世の中の草花の方が将来の人生設計において有益かもしれない」との趣旨の発言をしたといいます。大学の理系に進学しなければ、男性でも三角関数などは仕事でも使うことはまずないと思われますから、「女性に問うと」などと限定する必要などはまったくないのです。むしろ将来文系に進むことを考えている場合には、高校教育において理系的な物の考え方を学ぶことは重要なのです。
また、2016年3月には大阪の中学校の男性校長が、全校集会で「女性にとって最も大切なことは子どもを2人以上産むことです。これは仕事でキャリアを積むこと以上に価値があります。」と発言しました。確かに出産は女性しかできないことです。しかし、「出産が仕事でキャリアを積む以上に価値があるかどうか」を決めるのは女性です。1994年カイロでの国際人口開発会議で「性と生殖に関する健康と権利」つまりリプロダクティブ・ヘルス・ライトが提唱され、この概念は「出産に関する自己決定権」として広く承認されています。女性は仕事を優先してもまったく構わないのです。女子生徒はどのような気持ちで校長の発言を聞いたのでしょうか。
今も昔も「女性はバカで良い」「女は家庭に入って夫の言うことに従っていればいい」ということですね。

ところで、この歌詞を読んで違和感を感じたのは「もっともっと輝きたい」というフレーズです。「頭空っぽで常識がなくても、メイクが上手でお肌スベスベで可愛い」という状態にあることが、「輝いている」って言うことかしら、と思ってしまいます。

最近、安倍首相は「すべての女性が輝く社会を作る」と言っていろいろな政策を掲げています。
 例えば、2014年10月に「すべての女性が輝く社会づくり本部」が纏めた「すべての女性が輝く政策パッケージ」によると、「女性が輝くことは、暮らしやすい社会、活力ある社会をつくることにつながる。子育てがしやすい、安心して介護ができる、ライフステージに応じた柔軟な働き方ができる、家庭や地域に十分関わることができるなど、女性の視点から見て暮らしやすい社会の制度や仕組みを作ること」だと説明しています。その上で、6つの政策の第1番目が「安心して妊娠、出産、子育て、介護をしたい」という女性の要望をかなえるための具体的な政策となっています。
 これって、結局、「女性は結婚して出産して子育てして両親の介護をすること」が、「女性が輝く」という一番の意味だと安倍首相は思っているということですね。
 ちなみに「アインシュタインよりもデイアナ・アグロン」の歌詞を書いたのは秋元康という有名な人物ですが、安倍首相のお気に入りだそうです。

なお、この秋元康の歌詞が女性差別だと批判した「リテラLITERA」というサイトに対して、AKB運営会社から、「名誉毀損及び侮辱罪が成立する。」との抗議が来たそうです。
                        2016年5月20日:記
posted by 金山総合法律事務所 at 16:24| 両性の平等

2016年06月09日

働く女性と法律(その1)

                              弁護士 渥美玲子

厚生労働省が昨年2015年の10月に、「働く女性の実情」を発表しました。
 これによると、平成26年における女性雇用者数は昨年に比し30万人増えて2436万人となり、雇用者総数5595万人の43.5%を占めるようになりました。女性の多くが働いていると言っても過言ではありません。
 しかし、その内実をみると、女性の非正規雇用形態が36万人も増えて1332万人になったということです。非正規雇用の内訳は、パート・アルバイト1042万人、派遣社員71万人、契約社員・嘱託177万人ということです。つまり女性労働者のうち、なんと56.7%が非正規雇用なのです。

 このように働く女性が増え、またその雇用形態も非正規雇用の割合が増えたことから、女性が働く上で知っておいた方が良い法律ははたくさんある、と私は思います。

 まずは、労働基準法です。縮めて「労基法」とも言います。

 この法律は1947年(昭和22年)4月に制定されましたが、その後、いろいろ改正されて、現在に至ります。労働関係を規律する基本中の基本の法律です。というのは、憲法第27条2項で「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は,法律でこれを定める。」と規定されていますが、労基法こそが、この憲法27条によって制定された法律だからです。

 労基法の「第6章の2」に「妊産婦」と題する条文があります。
 実は以前は「第6章の2 女子」となっており、女性労働者全員に対する時間外労働や休日・深夜労働の制限等による保護規定があったのですが、1999年(平成11年)にその規定が無くなって、「妊産婦」保護に限定されるようになったのです。

この「第6章の2」の対象は、労働契約を締結している女性労働者です。労働者とは「職業の種類を問わず,事業または事務所に使用される者で賃金を支払われる者をいう」(労基法9条)とされていますから、パートタイマー、アルバイト、契約社員、嘱託など呼称の違いを問いません。但し、派遣労働者の場合は労働契約を締結している派遣元企業に請求することになっています。
昔、相談に来た女性に、私が「なるぼど、あなたは労働者ですね」と言ったところ、「いいえ、私はパートなので労働者ではありません。」とその女性が答えたことがありました。今は、そのように考える女性は少ないと思いますが、「パートタイマー」はもちろん労基法9条の「労働者」ですから労基法の適用対象なのです。

ところで労基法の「第6章の2」の条文には次のようなものがあります。

64条の3:危険有害業務の就業制限
65条1項:産前休業中(6週間、多胎は14週間)は就業させてはならない。
65条2項:産後休業中(8週間)を就業させてはならない。
          但し産後6週間経過した女性が就業請求をした場合は別
65条3項:妊娠中の女性が請求した場合、他の軽易な業務に転換させなければならない。
66条1項:妊産婦が請求した場合、32条(の2,4,5)の法定労働時間をこえて労働させてはならない。
66条2項:妊産婦が請求した場合、33条、36条の規定にかかわらず時間外労働、休日労働をさせてはならない。
66条3項:妊産婦が請求した場合、深夜業をさせてはならない。
67条:育児時間

このようにいろいろな条文があっても使用者が守らない場合はどうなるのか、と言えば、結構厳しいことになっています。
労基法117条から違反した場合の罰則規定が定められています。
例えば、119条では、「64条の3から67条までの規定に違反した場合には、違反した者に対して6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処する」となっています。
この規定の意味は、違反者に対して単に損害賠償など民事的な責任だけではなく、いわゆる刑法犯と同じで刑事責任を負わせるということです。しかも、労基法121条では、違法なことをした者が管理職などであっても、会社など使用者も同時に刑事責任を負うことになっているのです。このような規定を「両罰規定」と言います。
では、なぜ罰則規定があるかと言えば、労基法自体が憲法27条を受けて定めされている「基本法」としての性格があるからです。労基法第1条1項には「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」とあり、さらに2項には「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この金を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」としています。このような労基法の基本理念を具体化し実効性を持たせるために罰則規定が設けられたのです。

女性の妊娠や出産に関する規定としては、均等法(正式には、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律、といいます)や育児介護休業法(正式には、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律、と言います)などもありますが、これらの法律には使用者に対する罰則規定は非常に不十分なのです。
そういう意味でも労基法の条文について、労働者は、しっかり知っておくのが良いのです。

     以 上
posted by 金山総合法律事務所 at 16:37| 両性の平等

2015年07月21日

トリノ アスベスト判決(10)

トリノ アスベスト判決(10)

私は、2015年6月27日と28日、尼崎市中小企業センターで開催された「クボタショックから10年、アスベスト被害の救済と根絶をめざす尼崎集会」に参加しました。主催者は「中皮腫・アスベスト疾患 患者と家族の会/尼崎労働者安全姿勢センター」です。
参加者は、予想の会場定員の200人をはるかに超え、270人となり、かつ各報道関係者も来ており熱気がむんむんしていました。
 この初日、イタリアのカザーレ・モンフェラートのアスベスト被害とその家族の協会(AFeVA)の幹部の方3人も来日していました。
その中で、1979年から1994年までCGIL労働組合(カザーレモンフェラート地区事務所)の書記長をし、1988年からAFeVAの相談役をしているブルーノ・ペシェさんも発言しました。その日の夕刻、直接ブルーノさんにお目にかかった際、ブルーノさんの発言内容のメモをいただき、私が翻訳し発表するという許可を得ました。
この発言から、イタリアで被害者が2000人とも3000人とも言われ、世界最大の訴訟を起こした、この「AFeVA」の大きな闘いを少し垣間見ることができると思いましたので、紹介します。誤訳などあると思いますが、ご容赦下さい。
なお、文中の「古谷杉カさん」とは石綿対策全国連絡会議の事務局長として精力的に世界中を飛び回っている頼もしい方です。
2015年7月21日 弁護士 渥 美 玲 子

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   ブルーノ・ペシェさんの挨拶

皆さんに私達の協会、私達の患者とその家族、そして私達の代表者であるロマーナ・ブラソッティ・パベージからの挨拶を申し上げます。

まず、皆さんには、私達を招待していただき、また最高の歓待をして下さったことに感謝します。私達の友人古谷杉カさんに感謝します。彼とは昨年11月19日に最高裁判所の判決のときにすでにお目に掛かっておりますが、その判決は、非常に不正義に満ちていました。つまり、多国籍企業のエテルニトの最後の経営者だったシュテファン・シュミッダイニに対して故意による環境破壊罪が時効消滅したとの言い渡しがあったのです。
 判決のあった日以降、カザーレで、親愛なる杉カ、あなたは、私達と共にいました。諸協会の国際会議の場、被害者や住民、地方や洲の行政機関などと一緒に行うデモの場にいましたね。それらの場所では、最高裁の判決に対し断固たる異議を述べ、さらに引き続き正義を求める闘い、各地でのアスベスト除去を求める闘い、さらには健康と中皮腫に的を絞った医学的研究のための闘いを続けることを約束したのです。

正義
最高裁の判決は、それまでトリノ裁判所での1審、2審の有罪判決をすべてゼロにするというものでした。これらの判決はシュミッダハイニとルイ・ドゥ・カルティエ男爵に16年の禁固を宣告し、なおその後、2審では18年の禁固に増えましたが、それらが時効消滅したというのです。この判決は、私達にとってはあまりにも不正義でした。なぜならば、今でも災害は進行中で、カザーレには4万5000人の住民がいますが、このカザーレだけでも毎年50人以上の中皮腫の患者がでています。その50人のうち約80%は環境曝露による市民とみなされています。

この判決は、カザーレ・モンフエラート、カバニョロ、ルビエラ、ナポリで約3000人の犠牲者を出した甚大な災害、そして何億エウロという健康と環境に対する被害を、無いものとして消してしまったのです。
この判決以降、私達は、労働組合機関、カザーレとカバニョロなどの市長、さらに政府や国会、最高司法官評議会などの高い地位の人達と面会しました。

首相のマッテオ・レンツィは、殺人罪の新しい裁判にイタリア政府が裁判の民事の分野に被害者として参加するということを約束し、その後本当に実行しました。この新しい裁判は、258人の死亡者、そのうち市民の多数が占めていますが、現在予審手続に付され、7月14日正式裁判として移行するかどうかが決定されます。
それでこの新しい裁判の見通しについては、政府が、活動や調整としての役割を積極的に展開し、刑事裁判だけでなく民事裁判においても、正義と損害賠償義務を勝ち取るために主導権を発揮することを約束するよう強く要求しました。
被害者を孤立させるべきではありません。彼らは、世界中を回ってスイス人の百万長者の金を追いかけるという能力はありません。いずれにしろ政府はまず始めに、洪水や大災害による被害だけではなく、何十年間も続く重大な罪によって被害を受けた市民の保護をするべきです。

石綿被害の全国基金
私達は環境災害による被害者や家族をも保護する全国基金設立を強く求めてきました。1989年には石綿を禁止する法律を求める闘いが始り、1992年には施行されたのですが、基金についての規定はありませんでした。イタリアでも中皮腫は増加傾向にあり、1年で1500人を超える被害者がでています。しかしこのうちINAILが労働によって発生したと認めたのは半分以下です。
最近創設された基金の現在の活動は、職業上の被害者に対するINAILの手当を増額させたということです。今日では政令、省令などの通知と共に、「職業上」(もちろんこれも大切です)という壁を乗り越えることができるのです。しかし私達は、もしも、みんなが平等ではないとすると、石綿に曝露された大多数の人々との間に、環境曝露の被害者との差別が未だに生じるという一部にしか認められないことを恐れています。

除去
前述したように政府の長と面会して、私達は大きな喜びとともに除去に必要な新たな財政的援助について確認しました。すでに約6500万エウロが3年間にカザーレとモンフエラートにある47の小さな自治体のSIN(国内の重要な除去箇所)に対して支払われると発表されています。
必要なことの第1は、SINのすべてについて除去するという計画を作成しさらに推進するためには、財政支出の期限厳守を約束させることです。
カザーレでは公共施設についてはすでに除去されています。個人の建物については、除去したりあるいは屋根の葺き替えなど代替品に替えるための費用の50%については補助金があります。使用が禁止された違法な石綿の除去については、補助金はその費用の100%が支給されます。

次に重要なことは、力のある団体と行政機関がお互いに助け合うことです。安全性をチェックする方法とともに、さらに除去の範囲を広げることです。
この私達の闘いのおかげで除去の一般的なレベルを具体的に指示することができるようになりました。国内の補助金を増額することと、州などの地域のレベルにおいて統計調査を広くおこなうこと、アスベストを除去した物質を自治体の廃棄施設などで処分することなど自治体が回収する行政サービスを増やすこと、このことによって合法性、安全性、計画作成などのために、公共施設や学校などを優先的に始めることも重要です。

健康と研究
私達の地域では、長年要求していたことも実現しました。それはUFIM(カザーレとアレッサンドリアにある病院内の中皮腫企業間活動共同体)で、データ処理に貢献した人や中皮腫の病理研究のため検体を保管する銀行を運営をする人などによる、トリノ大学で共同研究をしている優秀な14のセンターのネットによる研究です。なお、ここの腫瘍学のスカッリョット教授はUFIMに所属する教授です。

協会の国際連帯
世界中のアスベストを禁止する法律を制定するために主導権を持つよう、すべての行政機関に要求すること、そして相互協力や闘いは必要です。この地球の約70%では、石綿は採掘され、未だに使用されています。10万人の労働者や市民が死亡するとされています。
 国際機関は、石綿による緊急事態に対して目を閉じることは出来ませんから、まずはロッテルダム条約についての闘い続けましょう。ロッテルダム条約の危険有害物質の中に「石綿」を加えるという要求があったが、最近も、拒否されたからです。

皆様に感謝します。
 皆様とあなた方の国の石綿被害者の全員に連帯の抱擁をします。さらにここにいるエリック、そしてベルギーの協会に挨拶をします
連帯万歳、そして正義や石綿被害者に対するを勝ち取るための国際的な闘い万歳。

以 上
posted by 金山総合法律事務所 at 18:27| イタリアの風

「存立危機事態」と集団的自衛権

       「存立危機事態」と集団的自衛権
                          H27.7.21 弁護士 山下陽平
 はじめに
 平成27年7月16日,安全保障関連法案(11の法律の新設・改正)が衆院本会議で与党の強行採決により可決され,引き続き参議院での審議入りすることとなりました。ここで改めて安全保障関連法案の問題点について説明します。法案の内容は多岐にわたりますが,ここでは「存立危機事態」と集団的自衛権について説明します。

 「存立危機事態」とは?
 現在審議中の安全保障関連法案が成立すれば,日本以外の国が攻撃された場合でも「存立危機事態」にあたれば,日本が武力行使できるようになります。この「存立危機事態」とは,我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合とされています。日本が攻撃されていないにもかかわらず,アメリカのように日本と密接な関係にある他国が武力攻撃された場合にも日本が武力行使することは,集団的自衛権の行使にあたります。国会で集団的自衛権について審議されているとの報道は,この「存立危機事態」をめぐってのことなのです。
 「存立危機事態」の定義からは具体的にどのような場合が「存立危機事態」にあたるのかはっきりしておらず,政府の解釈次第でどこまでも恣意的に広がってしまう懸念があります。たとえば,アメリカが先制攻撃をし,攻撃された国から反撃された場合でも「存立危機事態」と認定されてしまうでしょう。アフガン戦争,イラク戦争などを思い起こすと,安全保障関連法案が成立すれば,日本がアメリカの戦争に引っ張り込まれる危険性が高まると言わざるを得ません。

 憲法9条の下では,集団的自衛権の行使は認められていません。
 安全保障関連法案は従前の政府による憲法解釈と矛盾するものです。従来,政府は,国際紛争を解決する手段として戦争を放棄する旨定めた憲法9条1項の下でも,自衛戦争は国際紛争を解決するものではなく自衛戦争は可能であるとの立場に立ちながら,戦力の不保持と交戦権を否認を定める憲法9条2項の下で自衛戦争も否定されているとしていました。一方で,自衛のための必要最小限度の実力の保持は憲法上許容されているという解釈をとっていました。一読してわかりやすい説明ではありませんが,戦争と評価されないぎりぎり必要最小限度の範囲の自衛権の行使のみが極めて限定的に認められるとされ,集団的自衛権の行使は認められないとしてきたのです。
 このような憲法解釈の下,法律上も日本が武力を行使できるのは,日本に対する武力攻撃の発生している場合,武力攻撃が切迫している場合や武力攻撃が予測されるという場合に極めて厳格に限定されていたのです。現在,国会では,このような限定をかけていた法律を改正し,集団的自衛権を行使する手続きについて定める法律が審議されています。しかし,集団的自衛権は認められていないとしてきた従来の政府見解とも矛盾しますし,現在の憲法の下,日本が集団的自衛権を行使できないという点は,多くの憲法学者の見解も一致しています。集団的自衛権を認める安全保障関連法案は,憲法に反するものです。

 政府与党の姿勢は,国民を無視し立憲主義に反するものです。
 日本も集団的自衛権を行使できるようにすべきだとの議論が出てきたのは,中国脅威論などの国際情勢を背景としているようです。しかしながら,現在の憲法の下で集団的自衛権が認められるか否かという議論と,国際情勢の中で日本が集団的自衛権を行使できるようにする必要があるか否かという議論は,議論の内容が全く異なります。先ほど述べたように,現在の憲法の下では集団的自衛権は認められません。このことは,国際情勢の中で日本に集団的自衛権行使を認める必要があるか否かとは直接的には無関係です。
 政府が国際情勢の中で日本が集団的自衛権を行使できるようにする必要があると考えるのであれば,国際情勢の中での日本の在り方について議論を尽くし,憲法改正を行ってから,集団的自衛権行使の手続きを定める法律を定めるべきです。憲法改正には大きな反対があるでしょうが(私も反対です),議論を重ねて国民を説得をすべきでしょう。それをせずに,憲法に反する法律を通してなし崩し的に集団的自衛権を認めるのは,国民を無視して事実上の改憲を行うことに他なりません。
 個人に対して強大な権力を有する国家機関は,個人を尊重する憲法に縛られ,憲法に反することはできないという根本的な原則を立憲主義といいます。憲法の役割を無視して,なし崩し的に憲法に反する集団的自衛権行使を容認しようとすることは立憲主義を逸脱するものです。
  以 上
posted by 金山総合法律事務所 at 17:59| 憲法

2015年05月21日

アスベスト被害賠償

  
アスベスト被害賠償について
〜国によるアスベスト工場の元労働者とそのご遺族に対する和解による賠償金の支払いについて〜

1 大阪泉南アスベスト訴訟と元労働者や遺族への賠償金の支払いについて
 平成26年10月9日、最高裁判所は、大阪府泉南地域のアスベスト工場の元労働者が被ったアスベストによる健康被害について、国に対して損害賠償をするよう命じました(大阪泉南アスベスト訴訟)。判決の中で、昭和 33年5月26日から昭和46年4月28日までの間、国がアスベスト工場に排気装置を設置するよう規制権限を行使しなかったことが違法であると判断されました。
この判決を受け、厚生労働省は被疑者に対し謝罪した上、アスベスト工場で働いていた元労働者やそのご遺族のうち、大阪泉南アスベスト訴訟の原告らと同様の境遇にある方々が国に対して訴訟を提起した場合に、訴訟上の和解手続きにおいて大阪泉南アスベスト訴訟において示された基準に準じて賠償金を支払うことを決めました。

2 国から賠償を受けることができる要件
厚生労働省の発表によると、国はアスベスト工場で働いていた方やその遺族のなかで、一定の要件を満たす方に対して賠償金を支払うとしています。要件を満たすか否かの判断は、以下のポイントをご確認ください。
@アスベスト工場で働いていた時期
   昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に働いていたこと 
A工場内での作業内容
 工場で石綿を直接扱ったり、石綿を取り扱う現場で作業をしていたこと
B健康被害の内容
 元労働者が石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚などを発症したこと
C提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること
 健康被害の発症、じん肺管理区分決定、労災認定、死亡などの時期によって判断します

3 どんな証拠が必要か
厚生労働省の発表によると、上記要件を満たすか否かについて、日本年金機構発行の「被保険者記録照会回答票」、都道府県労働局長発行の「じん肺管理区分決定通知書」、労働基準監督署長発行の「労災保険給付支給決定通知書」、医師の発行する「診断書」等の証拠によって確認するとされています。

4 和解により国から受け取る賠償金の額について
和解により国が支払う賠償金の額は、疾患の種類や病状によって異なります。
また、最高裁判決では、国による賠償義務は、賠償基準額の2分の1を限度とすると判断されているため、和解により国が支払う賠償金の額については、疾患の種類や病状に応じた賠償基準額の2分の 1を基礎として算定されます。

5 元労働者やご遺族に対する和解の手続きの意義
 従前働いていたアスベスト工場がすでに存在しなかったり、訴訟提起をあきらめていた方は、国から賠償を受けられることが明らかになりました。また、理屈の上ではアスベスト工場や会社の責任を追及する事ができても立証が難しいとの理由で救済を受けることをあきらめていた方でも、上記の証拠をそろえさえすれば国からの賠償を受けられます。これらの意味で、今回発表された和解の手続きのは、健康被害を受けられた方に新たな救済の道を開くものと評価できます。しかしながら、和解をするために訴訟を提起しなければならないことや、訴訟での証拠とするためにじん肺管理区分決定申請や労災申請を行わなければならないことから、弁護士による支援が必要となるのではないかと思われます。

6 お問合せ先
 当事務所にはアスベスト被害救済東海弁護団の弁護士が在籍しています。訴訟だけでなく、じん肺管理区分決定申請、労災申請などについてもご相談に応じますので、事務所までお気軽にお問い合わせ下さい。
 【参 考】
 ・厚生労働省HP「石綿(アスベスト)工場の元労働者やその遺族の方々に対する和解手続による賠償金のお  支払いについて」
    2015年5月21日       弁護士 山 下 陽 平
posted by 金山総合法律事務所 at 18:01| 重要判決

2015年02月12日

イタリア題材の漫画

イタリアの風
         イタリア題材の漫画

実は私は結構漫画が好きだが、イタリア語に接するようになってから、イタリアの文化や歴史を題材にした漫画に注目することが多くなった。とは言ってもたまに立ち寄る書店で探して、膨大な種類と数の漫画の中から偶然目に飛び込んだものに過ぎないが、それでもいくつか見つけたので、紹介しよう。

1,テルマエロマエ @〜E(ヤマザキマリ エンターブレイン社)
この漫画は映画化されて更にヒットしたものである。古代ローマのハドリアヌス帝が治めていた頃(在位117年〜138年)の物語で、主人公の建築技師ルシウス・クイントス・モデストゥスがさまざまな浴場を考案し建築する。古代ローマの建物はローマやナポリなどイタリアのあちこちで見ることができるが、まるで、その時代に生きているかのように、建物、衣服、食べ物など生活の状況を具体的に感じることができる。
 なお当時は現代イタリア語ではなくラテン語が使用されていたので、この漫画の中にはラテン語で書かれている箇所がいくつかある。またこの漫画のイタリア語版は日本でも入手可能だが、読んでみると、イタリア語版では「ルシウス」ではなく現代呼称の「ルーチョ」である。
ちなみに私は、著者が「平たい顔族」(FACCIA PIATTA)という言葉を発明したことに敬意を表している。数年前あるイタリア人が優しく私の顔を見つめていたが、突然右手をパッと広げて私の顔に当て、「ねえ、れいこ、鼻はどこにあるの」と微笑んで聞いた。そのとき私はなんと答えたか記憶にないが、今なら言える。「私は平たい顔族よ、それが何か?」

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2,プリニウス @A(ヤマザキマリ とり・みき 新潮社)
この漫画はネロ帝の頃(在位54年〜68年)の古代ローマを扱ったもの。実在の人物である博物学者のガイウス・プリニウス・セクンドゥス(23年〜79年)が主人公である。実は恥ずかしながら、私はこの人物のことを知らなかったので、とてもためになる。というよりラテン語表記はもちろん、プリニウスについての著者の博識について行けず、注釈だけでは理解できない場面も多く、私の探求心をそそっている。そういう困難もまた楽しい。そのうち私も「シキリア」の「マグナ・グラエキア」に行って「サウルス シス」と挨拶し「パニス クアドーラトゥス」を食べながら「チェトラ」を聞き、「タブリウム」で「アイソーポス」とか「ゲルマニア戦記」を読むという生活をするかもしれない。
実は最近「イタリアチーズの故郷を訪ねて〜歴史あるチーズを守る」(本間るみ子)という本を偶然購入したら、なんと「学者プリニウスもこのチーズの前身を言われるブロッテロの品質について書き残しているくらいである」とか「大プリニウスは著書『博物誌』に当時のシチリアのチーズの美味しさを書き残している」と書かれていた。
もしかしてイタリアに精通している人にとってプリニウスは知識として当然のことなのかもしれない。おそるべし「プリニウス」。

3,アド・アストラ〜スキピオとハンニバル〜 @〜E (カガノミハチ 集英社)
昔世界史で勉強した「第2ポエニ戦争」(紀元前218年〜201年)を題材とした漫画。カルタゴの名将ハンニバル・バルカ(紀元前247年〜183年)が当時共和制を敷いていたローマを相手に戦略戦術を駆使し、アルプス越えをし、トレビア川の闘いなど繰り広げる物語である。これにブブリウス・コルネリウス・スキピオ・アフリカヌス・マイヨル(紀元前236年〜183年)が対抗する物語で、横山光輝の「三国志」に似たおもしろさがある。ハンニバルはローマにとっては敵将なので、イタリアでは好意的に評価されてはいないとの意見もあるが、彼はアルプスからシチリアまでイタリア半島を縦断しているので、現在のイタリア人の血にはフェニキア人の血も入っていると思う。
題名の「アド・アストラ」とは「ペル アスペラ アド アストラ」(PER ASPERA AD ASTRA」というラテン語から取ったもので、意味は「困難を通じて天へ」というカッコ良いもの。塩野七生の本(ローマ人の物語・ハンニバル戦記)を読みたくなる。
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4,チェーザレ〜破壊の創造者 @〜J(惣領冬美 講談社)
フィレンツェのメディチ家が一番政治的勢力を持ち、ルネッサンスの花が開いた時代のことである。イタリア半島がいまだ国家として統一されず、ミラノ公国、フィレンツェ共和国、ナポリ王国など多数の国に分かれ、それぞれ覇権を争っている政治状況は、日本の戦国時代を彷彿させるが、さらに教皇との権力争い、国境を接するフランスやスペインなどの外国の連携を巡って政治的思惑が絡む。
 このような状況の中、貴族であるチェーザレ・ボルジア(1475年〜1507年)が主人公になって、権力獲得のため様々な策略を繰り出している。チェーザレ・ボルジアは、あの有名なニッコロ・マキャベリの書いた君主論では、「見習うべき君主」として論述され、冷酷無比な政治家としてイタリア人にはあまり人気がないと聞く。しかし、この漫画は時代考証も良くなされており、イタリアの歴史や芸術を理解するためには十分におもしろくまた参考になる。著者はまた違った側面のチェーザレを見せてくれるに違いない。
 なお、チェーザレの属するボルジア家はスペイン・バレンシアの出身なので、漫画にはスペイン語も出てくる。

5,カンタレラ @〜K(氷栗 優 秋田書店)
この漫画もチェーザレ・ボルジアを主人公としているが、「父ロドリゴの策略で法王の地位と引き換えに、生まれたと同時に魔に売られた」という非常にファンタジックな物語である。標題の「カンタレラ」とはボルジア家が暗殺に用いた毒薬を指すとされるが、他方、主人公のチェーザレ自身の体も魔の力に侵されて行く。
ところでイタリアのルネッサンス時代と言えば、有名有能な人物が多士済々であり、漫画の主人公には事欠かないと思われるが、なぜチェーザレがこのように漫画の主人公になるか、私には大変不思議だ。一説によればチェーザレは非常に美男子だったというから、漫画の素材にふさわしかったのだろうか。ちなみに「イタリアはイケメンが世界一多い国」らしい。真偽のほどは不明だ。
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6,アルテ @A (大久保 圭 徳間書店)
16世紀初頭、ルネサンスの発祥の地フィレンツェで芸術が花開いた頃、女性の主人公アルテ・スパレッティが貴族の階級に属しながらも男性に依存しないで働くことの大切さにめざめ、大好きな絵画を人生の中心とするために世間に飛び出して生き抜いてゆく物語である。
当時のフレンツェの街が生き生きと描かれているばかりでなく、建物、道、衣服、料理など時代考証されていると思う。また当時の女性のおかれた立場や職業に対する考え方なども「女は家にいて主人の言うことを良く聞き、子供を産み育てる・・それが仕事。自由のない籠の鳥であった」などと説明されている。主人公が芸術家として大成するには本当に難しい時代だと思うが、応援したい。
 ちなみに、弁護士という資格も旧弁護士法が施行された1893年当時は、男子に限定されていた。つまり女性は弁護士資格から排除されていたのである。女性弁護士を認める弁護士法が施行されたのは、1936年だったという。

7,絵画修復家キアラ @A(たまい まきこ ぶんか社)
こちらの漫画は絵を描く方ではなく、絵画を修復する専門家キアラ・ジェンティレスキが主人公。時代は16世紀後半、キアラは伯爵家の8女、12歳、天才という設定。
キアラは修復家であるから、フレスコ画の説明はもちろん、「フレスコ皮膜切離(ディスタッコ・アストラッポdistacco a strappo)」という修復法まで書いてくれているので、とても勉強になる。とは言っても私にはまったく分からないが・・。
修復といえば近年、ミケランジェロのシスティナ礼拝堂の天井画や「最後の審判」、ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」などが修復され当時の鮮やかな色を取り戻したことで話題になっている。また、2014年11月には日本の和紙(石州半紙、本美濃紙、細川紙)が日本の手漉き和紙技術として世界無形文化遺産に登録され、この和紙が絵画の修復に有効だと言われている。
 絵画の修復は、描かれた国や時代、手法などの違いにより、おそらく非常に膨大な知識や高度な技術を要すると思うが、このような知識をこの漫画は与えてくれる。
 なお、この漫画でも「最近プルニウスの博物誌を手に入れて、画材などはそこから調べています」と言われ、「あんな稀少本を手に入れるなんて・・」とキアラが驚く場面がある。やはりプリニウスおそるべし! 著者おそるべし!
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                                2015年2月12日 渥美玲子
以 上
posted by 金山総合法律事務所 at 17:57| イタリアの風

2015年01月06日

トリノ アスベスト判決9

            トリノ アスベスト判決 9

先回は、トリノ地裁判決を少しみてみたが、実は同じような裁判が日本でもあり、まさに公訴時効が争われた。それは熊本県水俣の水俣病のケースだった。

1988年(昭和63年)2月29日最高裁判所第2小法廷は、要旨「刑事訴訟法253条1項にいう犯罪行為には刑法各本条所定の結果も含まれる」とする判決を出した。
この事件は水俣病という日本の歴史に残る最大級の公害に関するもので、企業責任者の刑事責任を認めた最初の判決である。

被告人は2人で、1958年(昭和33年)から1964年(昭和39年)まで新日本窒素肥料株式会社の代表取締役にあった者と、1957年(昭和32年)から1960年(昭和35年)まで同社の水俣工場の工場長の職にあった者である。また被害としては7人の死傷者に関して問題とされた。
 同社の熊本県の水俣工場では、かねてより工場廃水を水俣湾に排出していたが、この湾の魚介類を食べていた周辺住民のあいだに原因不明の病気が発生し、1956年(昭和31年)5月にはいわゆる「水俣病」として社会問題になっていた。
 1958年(昭和33年)7月には厚生省の調査によって工場廃水の中に水俣病の原因物質が含まれていることが判明し、それは被告人らの認識するところとなった。従って本来被告人らにはこの工場廃水を水俣湾に排出しない措置を取るべき業務上の注意義務を負うことになった。しかしながら被告人らはこの注意義務を怠り、1958年(昭和33年)9月から1960年(昭和35年)6月頃まで漫然と工場廃水を排出し続けたのである。この工場ではアセトアルデヒド製造工程において発生した塩化メチル水銀が工場廃水に含まれており、このような工場廃水が水俣湾に流出することにより同湾の魚介類が塩化メチル水銀に汚染され蓄積され、これを食べた住民に水俣病が発症した。その主な症状は中毒性中枢神経疾患であり、四肢末端などの感覚障害、運動失調、視野狭窄、聴力障害、言語障害、振戦などがあるとされている。
水俣病は英語で「Minamata Disease」と呼ばれ、公害の原点として、特に水銀汚染による公害として世界に知られている。水俣病による被害者数は数万人と言われており、発生からすでに60年以上経った現在でも解決していない。

 この2人が1976年(昭和51年)5月に刑法211条の業務上過失致死傷罪で起訴された。本条は「業務上必要なる注意を怠り、よって人を死傷に至らしめたる」行為に関するものであるが、「業務」とは「人が社会生活を維持する上で、反復継続して従事する仕事」をさすと言われている。なお、同じ「業務上」という概念であっても、労働基準法75条にいう「業務上」は労働者の労働に関係する概念なので若干意味を異にする。
 その後、1979年(昭和54年)3月には熊本地方裁判所で判決がだされ、1982年(昭和57年)9月には福岡高等裁判所で判決がだされ、さらに上告されたため、1988年(昭和63年)2月に最高裁判所の判決となったものである。
この訴訟ではいろいろな論点があるが、公訴時効に絞ってみてみる。

 起訴は1976年(昭和51年)だったが、このときすでに7人のうち6人が死亡していた。具体的には、6人のうち4人が1959年(昭和34年)に死亡し、1人は1971年(昭和46年)に、もう1人は1973年(昭和48年)に死亡していた。ところでこの訴訟では犯罪の実行行為が1960年(昭和35年)までだったことから、現行の刑法211条ではなく、1968年(昭和43年)に改定される前の旧法の「3年以下の禁固または1000円以下の罰金に処する」の規定が適用されたため、公訴時効期間は3年とされていた。

第1審の熊本地方裁判所は、公訴時効の起算点について「これを実行行為の終了時とすると解すると、未遂犯を処罰する規定のない場合の結果犯については、結果が発生しないうちに公訴時効が完成してしまって、公訴の提起ができない場合が生じることになり不合理な結果を招くことになる」とした。2人の被告人について犯罪行為の実行行為の終了は昭和35年8月から3年を経過した昭和38年8月に時効が完成するところ、7人の被害者のうち昭和35年までに死亡したり傷害(胎児性障害)をもった5名については消滅時効が完成したものとして免訴をおこない、昭和46年、昭和48年に死亡した2人について禁固2年執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。これに対し被告人両名は控訴したが、福岡高等裁判所は控訴棄却した。

被告人らが上告したため最高裁判所に係属したが、最高裁判決は、特に1960年(昭和35年)8月に胎児性障害をもって出生し、1973年(昭和48年)6月に死亡した被害者Gにつき、このように述べた。
「確かに出生から死亡までの間に12年9ヶ月という長年月が経過している。しかし公訴時効の起算点に関する刑訴法253条1項にいう『犯罪行為』とは、刑法各本条所定の結果を含む趣旨と解するのが相当であるから、Gを被害者とする業務上過失致死罪の公訴時効は当該犯罪の終了時であるGの死亡の時点から進行を開始するのであって、出生時に同人を被害者とする業務上過失傷害罪が成立したか否か、そして、その後の同罪の公訴時効期間が経過したか否かは、前記業務上過失致死罪の公訴時効完成の有無を判定するにあたっては、格別の意義を有しないものというべきである。従って、G死亡の時点から起算して公訴時効期間が満了する前の1976年(昭和51年)5月4日に公訴が提起されている本件業務上過失致死罪につき、その公訴時効の完成を否定した原判断の結論は正当である」として熊本地方裁判所の結論を認めた。
 なお、本件では、公訴時効についての論点以外に憲法37条1項の「すべて刑事事件においては、被告人は裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する」という規定に違反しているか否かも争点となったが、最高裁は「本件公訴提起が事件発生から相当の長年月を経過した後になされていることは被告人弁護人の指摘のとおりであるが、本件が複雑な過程を経て発生した未曾有の公害事犯であって、事案の解明に格別な困難があったこと等の特殊事情に照らすと、いまだ公訴提起の遅延が著しいとまでは認められない」との意見を述べた。今や、生活のすみずみに至る迄、私達の知らない化学物質が入り込んでいる。現在、原因不明といわれる難病は数多くあるが、これらの原因物質などが科学的に解明されるためには、長年月がかかるのかもしれない。

余談であるが、熊本地裁判決の判決文に「イタリア」という言葉があったのに気がついた。「日本窒素肥料株式会社は、1921年(大正10年)12月にはイタリアのカザレー式アンモニア合成法の特許実施権を買収し、宮崎県延岡工場において合成アンモニアの工業化に成功し、1925年(大正14年)には水俣にも同法による合成アンモニア及び硫安工場を建設し、カザレー式による低コストのアンモニア、硫安を製造し、硫安業界に確固たる地位を築くようになった」とある。イタリアは古くから工業先進国でもあったのだ。なお、宮崎県延岡市にある旭化成の工場敷地内には「カザレー式アンモニア合成塔」が展示されているという。

2015年1月16日 弁護士 渥 美 玲 子

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トリノ アスベスト判決 8

            トリノ アスベスト判決 8

2012年2月のトリノ地裁判決では、刑法第434条と刑法第437条の2つについて消滅時効を認めなかったが、できる限り、その理由を見てみたい。

ところで前提問題として消滅時効に関するイタリア刑法をみてみよう。
時効期間について、刑法157条で「時効は、法律で定められた刑罰の最高刑に合致する期間に対応して犯罪行為を消滅させる。そして刑法犯に対しては6年以下の期間、犯則及び罰金刑に対しては4年以下の期間に対応する」としている。今回、最高裁の検察官が12年間で時効消滅したと判断したのは、刑法434条2項の最高刑が禁固刑12年だったからだと推測できる。
 ちなみに、日本の刑事法では、時効には「刑の時効」と「公訴の時効」の2種類があり、「刑の時効」は刑法第31条で「刑の言い渡しを受けた者は時効によってその執行の免除を受ける」と規定されており、他方「公訴の時効」については刑事訴訟法第250条で「公訴時効の期間」という標題の下で規定されているから、上記のイタリア刑法157条の時効とは、日本で言えば、公訴時効を指すと解釈することができよう。同じような規定が日本では刑事訴訟法に規定され、イタリアでは刑法で規定されているが、この違いは無視できないかもしれない。
さらに時効の起算点については、イタリア刑法158条1項で「時効の終期は、既遂犯においては既遂になった日から始まり、未遂犯においてはその犯罪行為が終了した日から始まり、継続犯については継続行為が終了した日から始まる」と規定されている。他方、日本の刑事訴訟法第253条では、公訴時効の起算点について、「時効は犯罪行為が終わった時から進行する」という規定になっている。

さてトリノ地裁判決では、まず先に、業務上の災害や事故を予防義務違反に関する第437条について検討されている。
判決は、本条の第1項「業務上の災害や事故を予防するための施設や機械あるいは標識を設置することを怠り、それらを撤去し、もしくはそれらの使用目的を損なうような行為をした者は6ヶ月以上5年の禁固に処する」という規定ではなく、第2項「以上の事実によって災害あるいは事故を引き起こした場合は、3年から10年の禁固に処する」という規定について検討しているが、結論としては、消滅時効は完成しておらず、よって被告人は2項に定めた刑に処せられるとした。その理由の一部分をみると次のようである。

「437条第2項に規定されている問題の罪は自立性、独立性を有しており、時効は完成していないと考えている。それは発生した事実を確認したときから進行するとすべきであり、行為が行われた時から進行するためすでに時効は完成しているという反対の意見があったとしてもである。しかし当裁判所にとっての以上のような問題は、正しくない。それどころか、(以上の事実によって災害あるいは事故を引き起こしたという第2項に規定されている)加重事実の確認は、刑法158条第1項にかかる罪についての時効が完成する目的において無視されるべきではなく、437条2項について考えれられるこのケースにおいて結論を述べるためには、同条第1項にで規定された罪についての諸事情を考慮しなければならないので、時効の完成の計算は、被告人の立場役割に対して不利な結果をもたらす筈である。」とした。
 そして、「当裁判所は、437条2項には罪としては独立していると考え、それ故、時効完成の計算の終期については、様々な罪を消滅するに必要な時間が検討されなければならない。」とした。
さらに判決は不治の病や潜伏期間の長い疾病に関する裁判例について検討した後、「実際、このような従来の型にはないケース、つまり行為が遂行された後に長期間経過してのちに事件が確認されるというケースがありうることは、1930年の立法者にとっては、予想できなかった。」として条文の解釈について、柔軟な態度を示した。
「あるケースにおいて、さらに罪状の重いことを確認した時に、特にいくつかの疾病に関して、その罪がすでに時効で消滅していたということが、我々には実際あり得る。例えば悪性胸膜中皮腫は石綿粉じんに暴露されてから数十年という期間後に明らかになる。そして、その疾病が病理学によって成り立ったとき、刑法第437条に規定された罪は常に時効に掛かるという結論になるだろうことに気がつくであろう。」と述べた。

次に第434条について見てみよう。この条文は公共の安全に損害を与えることに関する規定であるようだ。
 もう一度条文を見てみよう。
「先の条項から予想されたケース以外で、建造物の一部もしくは全部の倒壊や、その他の災害を引き起こす行為を直接におこなった者で、この事実によって公共通信施設に対して危険を生じさせた場合は、1年から5年の禁固刑に処する。以上の事実によって建造物倒壊あるいは、それにより災害を起こした場合は、3年から12年の禁固刑に処する。」

判決では、まずこの条文の第1項にある「その他の災害」について、「立法者は、大虐殺、火事、洪水、山崩れあるいは雪崩、遭難、飛行機事故、鉄道事故、更に、運送・発電所・ガスの施設や公共通信施設などの安全に対する侵害などについて規定したばかりでなく、これら災害についての危険、まだ命名されていない危険についてもその処罰可能性を強調したのだ。」としている。つまり、この「その他の災害」は条文には具体的には書かれていなくて明確な形になってはいないが、そのようなものを含むと解釈した。

さらに「検察官は、最高裁判所の2007年の4675号判決によって評価されたことからヒントを得て、犯罪行為の事実よりも、犯罪者の行為を重視した。未だに継続しているが故に、罪は未だ完成したとは評価することはできないと考えている。」と検察官の意見を紹介した。その上で、「何回か引用されている最高裁判所の二つの災害類型を明確にしたマルゲラ港の石油化学に関する判決についてである。つまり建物の倒壊のように瞬間的に生じる災害と、非常に長い期間をかけて進展する災害、例えば不特定多数の人が生活環境及び労働環境において発がん性物質に曝露されたままでいるというような災害の二つの類型である。」といたうえ、この判決には「2番目の類型のケースにおいては災害についての罪は継続するという本質を有する、それ故、災害という事実が継続している間は時効は進行しない。しかし当然のことながら、災害の事実が犯罪者の継続する行為の効果が発生するための時間において継続しているという条件が必要である。それ故、刑法158条第1項のために、時効の終期は継続犯については、継続する行為が終了した日から時効は進行するのであって、このような終期は災害という事実が犯罪者の行為の効果のために継続している間は進行しない。」とした。

ところで、引用したトリノ地裁判決が引用したポルトマルゲラ訴訟にあるマルゲラ港は、ヴェネツィア島の陸側にある工場地帯で、おそらく石油コンビナートかと思われるが、ここには、たくさんの石油備蓄のタンクがあり、石油精製工場が立ち並んでいる。そのためベネタ湾の水質汚染や地盤沈下の元凶ともされている場所でもある。

以上、トリノ地裁は、刑法第437条及び刑法第434条について、いずれも犯罪行為自体は終了しても犯罪行為の結果が確認されるまでは時効は進行しないという結論を出したのである。

弁護士 渥 美 玲 子
   
posted by 金山総合法律事務所 at 14:11| イタリアの風