2016年08月11日

働く女性と法律(その2)

「均等法」の成立

 皆さんご存じの均等法について話したいと思います。
一口に「均等法」と言っていますが、実は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇に確保等に関する法律」というのが現在の法律の正式名称です。

この法律は、1985年(昭和60年)5月17日に成立し、翌1986年(昭和61年)4月1日から施行されました。
ところで、あまり知られていないのですが、均等法は、1972年(昭和47年)に成立した「勤労婦人福祉法」という法律を改正するという手続で成立しました。なので六法をみると、「昭和47年7月1日施行」と書いてあります。このような改正手続もあったためか、1985年に成立したときには、均等法の正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」というものでした。

法律の名称や趣旨、内容がまったく異なるにもかかわらず、「改正」という手続でおこなわれるというのは、違和感を感じますが、実は今の「日本国憲法」も「大日本国憲法」の改正手続によって成立しました。
 日本国憲法の冒頭には「朕は日本国民の総意に基づいて新日本建設の礎が定まるに至ったことを深く喜び、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法73条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる。」と書いてあります。
 現在の憲法はアメリカ合衆国による押しつけ憲法だ、という意見もあるようですが、そうすると、当時天皇が深く喜んで裁可したこと、枢密顧問が諮詢したこと、帝国議会が議決したことなどのすべての手続はアメリカによる押しつけだということになります。

  均等法に話を戻しますと、1960年代には女性労働者に対する差別が大きかったことから労働組合や女性市民団体などから「雇用平等法」を制定せよという大きな要求がありました。女性が働き続けたいと希望しても、当時の多くの企業は「結婚退職制」「30歳定年制」などの就業規則を作って女性を職場から締め出していましたし、賃金も男性に比べて半分以下程度でした。もちろん女性が昇格昇級することはありませんでした。
しかし、政府や財界はこのような女性の要求を無視し、多くの反対があるにもかかわらず次のような均等法を成立させました。
この均等法の問題点はいろいろありますが、第1に、「平等」といっても待遇や労働条件の平等ではなく、単に「機会の均等」でしかないこと、第2に、事業主に対しては「努力義務」しか課さなかったことから、均等法に違反した事業主に対して女性労働者はなにもできないことになったこと、第3に、このような均等法の成立とひき替えに労働基準法の時間外労働や深夜労働など労働時間についての女性保護規定が撤廃されたことなどです。
 要するに女性労働者は、「保護」を失い「平等」は確約されないままになったのです。

ところで私の手元に日本弁護士連合会が1983年(昭和58年)10月に発行した「男女が平等に働くために〜雇用平等法の制定に向けて」という150ページに及ぶ冊子があります。その21ページに「男女雇用平等法要綱試案」が掲載されています。これは「試案」ですから、結局は日の目を見ることはなかったのですが、当時日本弁護士連合会がどのように考えていたか良く分かります。

第1条の「目的」にはこのように書いてあります。
「この法律は男女平等を基礎とし、女性の労働権が、人間としての尊厳を確保するために欠くことのできない基本的人権であることにかんがみ、雇用の機会と待遇について、使用者等が女性を差別的に取り扱うことを禁止するとともに、その差別的取扱いによる権利または利益の侵害から女性を迅速かつ適正な手続により救済するため必要な措置を講ずることにより、雇用における男女平等を促進することを目的とする。」

第2条の「差別的取扱いの定義」には、このように書いてあります。
「第1項 この法律において女性に対する差別的取扱いとは、次の各号をいう。
1,女性であることを理由として不平等または不利益な取扱いをすること。
2,女性に対してのみ年令、未婚・既婚の別、子どもの有無、学歴、容姿等特定の条件を理由として不平等または不利益な取扱いをすること。
3,女性のみに適用される条件でなくても、女性のみを排除し又は女性のみ不利益をうける結果となる条件を設けて不利益な取扱いをすること。
4,労働基準法等法令に定められた女性に対する保護の権利行使を理由として、不利益取扱いをすること。
第2項 労働基準法等法令に定められた女性に対する保護並びに男女平等を促進するための特別の措置は、差別的取扱いとはみなさない。          」

 少し飛ばして、
第7条の「罰則」には、このように書いてあります。
「次の行為に対する罰則規定をもうけ、1及び2は両罰規定とし、違反行為を行った者を罰する他その事業主をも罰する。
 1,この法律で禁止された差別的取扱い
 2,調査及び審問手続に関する違反行為
 3,確定した救済命令違反 」

ここまで読むだけでも、1985年に成立した「均等法」が、如何に女性達の要求したものと異なっていたか、十分に分かるのではないでしょうか。
弁護士 渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 12:55| 両性の平等

2016年08月06日

民法改正〜 再婚禁止期間 

民法改正〜再婚禁止期間

1,改正の内容
 今年2016年6月1日に民法733条が改正され、6月7日に施行されました。

旧733条は次のとおりでした。
「1項 女は、前婚の解消又は取消しの日から6箇月を経過した後でなければ、再婚することができない。
2項 女が前婚の解消又は取消の前から懐胎していた場合には、その出産の日から前項の規定を適用しない。 」

改正後の733条です。
「1項 女は前婚の解消又は取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ再婚することができない。
2項 前項の規定は次に掲げる場合には、適用しない。
1 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合
2 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合   」

2,旧民法
実は旧733条は、明治時代、明治31年(1898年)に制定された条文です。
 旧民法では「第767条」にて「女は前婚の解消または取消の日より6ヶ月を経過したるにあらざれば再婚することができない。」と規定されていました。
 その趣旨は、旧民法の法典調査会起草委員の梅謙次郎教授によれば、「本条の規定は血統の混乱を避けるためのものだ」ということです。つまり、離婚後に再婚した場合、離婚後に生まれた子が前婚の夫の子か、後婚の夫の子か判断が困難になり、判断を誤れば血統が混乱するというのでした。旧民法の時代は、家父長制といって男系長子のみが家督相続することができるという制度だったので、殊更「血統」が重視されたのでしょう。
この規定がなんと2016年に初めて改正されたというのですから、100年以上も改正されなかったという事実に驚くばかりです。

3,今回の改正
 改正により、「6箇月」が「100日」に短縮され、さらに733条の2項を満たす場合、離婚から100日以内でも再婚することができるようになりました。
 具体的には、@離婚した日の後に懐胎したという医師の証明書、A離婚した日以後の一定の時期において懐胎していないという医師の証明書、B離婚後に出産したことの医師の証明書などが必要です。そして、このような証明書が添付されれば、婚姻届けを受理されることになるそうです。もちろん医師の診断のためには必要な検査を受けることになりますし、検査する日なども制約があると思われます。

4,最高裁判決と今後の問題
ところで、このような民法改正という事態になったのは、平成27年(2015年)12月16日の最高裁判所の大法廷判決がきっかけでした。
勇気ある女性が、「民法733条は憲法14条1項及び憲法24条2項に違反している」として提訴し最高裁判所まで粘り強く闘ったことの大きな成果なのです。
最高裁判決が「100日を越える部分は憲法14条1項や憲法24条2項に違反している」と判断した理由を少し紹介すると、第1に、医療や科学技術が発達した今日では、旧民法のような観点から一定期間を禁止るすることを正当化することが困難になったこと、第2に、特に平成期に入った後は晩婚化が進み、離婚件数及び再婚件数が増加するなど再婚の制約をできる限り少なくするという要請が高まっていること、第3に、かつては再婚禁止期間を定めていた諸外国が徐々にこれを廃止する傾向になり、例えばドイツでは1998年に、フランスでは2005年にこの制度が廃止されたこと、第4に、婚姻の自由が憲法24条1項の趣旨から十分に尊重されること、第5,妻が婚姻前から懐胎していた子を産むことは再婚の場合に限られないことを考慮すれば再婚の場合には限って再婚禁止期間を設けることは困難であることなどがあげられています。

 しかし、仮に100日に短縮されたとしても、男性は再婚することについては、このような制限はまったくなく離婚の翌日に再婚することもできるのですから、女性に対してのみ再婚禁止期間を課すことは、女性の婚姻の自由を制限するものであって、婚姻における女性差別だと思われます。しかも、現在の医学ではDNA鑑定等により容易に決着がつく問題ですから、「血統が混乱する」という事態はおきないと思われます。
ちなみに国連女性差別撤廃委員会は、かねてから、再婚禁止期間については「女性に対してだけ特定の期間の再婚を禁じる規定を廃止すること」という勧告を出し続けており、2016年3月にも同趣旨の勧告をしていました。
   弁護士 渥美玲子                                         以 上
posted by 金山総合法律事務所 at 13:59| 法改正