2016年12月01日

刑事訴訟法等の一部改正

         刑事訴訟法等の一部改正 
                   〜盗聴拡大と司法取引
                                             
 平成28年5月24日に国会で刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立しました。これにより、通信傍受法(盗聴法)が拡大され、司法取引の制度が導入されることになりました。

今回の改正の発端となったのは、大阪地検特捜部の証拠改ざんが発覚した厚労省村木裁判のえん罪無罪事件でこの件は当時マスコミでも大きく報道されました。
 事件後、えん罪防止の観点から捜査の在り方について見直しの必要性が指摘され、約4年の歳月をかけて改正にいたったものですが、えん罪防止の方策はごく一部に留まり、逆に、新たな捜査手法として「盗聴の拡大」や「司法取引」を導入するなど、警察・検察の「焼け太り」と批判されています。見過ごせないのは、これによって新たなえん罪を作り出しかねないという、大きな問題を含んでいることです。

 えん罪防止のためには、日弁連などがかねてから強く主張していた取調べの可視化(録音・録画)が不可欠ですが、今回の改正では、裁判員裁判対象事件と検察独自捜査事件に限定されて導入されました。これは全事件の3%に過ぎません。

 他方で、証拠収集手段を多様化するとして盗聴法の対象が拡大されました。今までは、薬物・銃器犯罪、集団密航、組織的殺人の4種類しか認められていませんでしたが、組織性が疑われる詐欺、窃盗、恐喝、逮捕監禁など9種類を追加し、比較的軽微な犯罪にまで大幅に盗聴の範囲が拡大されました。
 そもそも盗聴は、憲法で保障された通信の秘密やプライバシー保護を侵害するもので、濫用の危険性が極めて高いものです。今回の改正では、これまで盗聴の要件とされていた通信事業者の立ち合いを不要としており、濫用をチェックする歯止めが極めて不十分な仕組みになっています。

 また、司法取引も非常に問題が大きいものです。今回導入された司法取引は、自己の犯罪を申告するのではなく、他人の犯罪について供述などの協力をすることと引き換えに、不起訴や刑の軽減をするというものです。ですから、自分の罪を軽くするために他人に罪をなすりつける虚偽供述のおそれがあり、えん罪を新たに作り出す危険性をもっています。この司法取引には弁護人の同意が条件とされていますが、自分の依頼者が他人に罪をなすりつける虚偽供述をしているのかどうかまでチェックし、その可能性があれば依頼者の意に反して司法取引を拒否できるのか、弁護人としての立場を考えると、極めて疑問といわざるを得ません。

 今回の改正では、国選弁護制度を全勾留事件に拡大し、証拠開示の対象に証拠目録を追加したほか、保釈許可の考慮要素(逃亡や罪証隠滅のおそれの程度、被告人の健康上・経済上・社会生活上・防御の準備上の不利益の程度)を明文化するなど、被疑者・被告人の防御権に配慮した内容も盛り込まれています。しかし、それにもまして、盗聴法の拡大と司法取引の導入は、大きな問題をはらんでいるといわなければなりません。
                   弁護士 山 下 陽 平
posted by 金山総合法律事務所 at 15:19| 法改正

2016年08月06日

民法改正〜 再婚禁止期間 

民法改正〜再婚禁止期間

1,改正の内容
 今年2016年6月1日に民法733条が改正され、6月7日に施行されました。

旧733条は次のとおりでした。
「1項 女は、前婚の解消又は取消しの日から6箇月を経過した後でなければ、再婚することができない。
2項 女が前婚の解消又は取消の前から懐胎していた場合には、その出産の日から前項の規定を適用しない。 」

改正後の733条です。
「1項 女は前婚の解消又は取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ再婚することができない。
2項 前項の規定は次に掲げる場合には、適用しない。
1 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合
2 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合   」

2,旧民法
実は旧733条は、明治時代、明治31年(1898年)に制定された条文です。
 旧民法では「第767条」にて「女は前婚の解消または取消の日より6ヶ月を経過したるにあらざれば再婚することができない。」と規定されていました。
 その趣旨は、旧民法の法典調査会起草委員の梅謙次郎教授によれば、「本条の規定は血統の混乱を避けるためのものだ」ということです。つまり、離婚後に再婚した場合、離婚後に生まれた子が前婚の夫の子か、後婚の夫の子か判断が困難になり、判断を誤れば血統が混乱するというのでした。旧民法の時代は、家父長制といって男系長子のみが家督相続することができるという制度だったので、殊更「血統」が重視されたのでしょう。
この規定がなんと2016年に初めて改正されたというのですから、100年以上も改正されなかったという事実に驚くばかりです。

3,今回の改正
 改正により、「6箇月」が「100日」に短縮され、さらに733条の2項を満たす場合、離婚から100日以内でも再婚することができるようになりました。
 具体的には、@離婚した日の後に懐胎したという医師の証明書、A離婚した日以後の一定の時期において懐胎していないという医師の証明書、B離婚後に出産したことの医師の証明書などが必要です。そして、このような証明書が添付されれば、婚姻届けを受理されることになるそうです。もちろん医師の診断のためには必要な検査を受けることになりますし、検査する日なども制約があると思われます。

4,最高裁判決と今後の問題
ところで、このような民法改正という事態になったのは、平成27年(2015年)12月16日の最高裁判所の大法廷判決がきっかけでした。
勇気ある女性が、「民法733条は憲法14条1項及び憲法24条2項に違反している」として提訴し最高裁判所まで粘り強く闘ったことの大きな成果なのです。
最高裁判決が「100日を越える部分は憲法14条1項や憲法24条2項に違反している」と判断した理由を少し紹介すると、第1に、医療や科学技術が発達した今日では、旧民法のような観点から一定期間を禁止るすることを正当化することが困難になったこと、第2に、特に平成期に入った後は晩婚化が進み、離婚件数及び再婚件数が増加するなど再婚の制約をできる限り少なくするという要請が高まっていること、第3に、かつては再婚禁止期間を定めていた諸外国が徐々にこれを廃止する傾向になり、例えばドイツでは1998年に、フランスでは2005年にこの制度が廃止されたこと、第4に、婚姻の自由が憲法24条1項の趣旨から十分に尊重されること、第5,妻が婚姻前から懐胎していた子を産むことは再婚の場合に限られないことを考慮すれば再婚の場合には限って再婚禁止期間を設けることは困難であることなどがあげられています。

 しかし、仮に100日に短縮されたとしても、男性は再婚することについては、このような制限はまったくなく離婚の翌日に再婚することもできるのですから、女性に対してのみ再婚禁止期間を課すことは、女性の婚姻の自由を制限するものであって、婚姻における女性差別だと思われます。しかも、現在の医学ではDNA鑑定等により容易に決着がつく問題ですから、「血統が混乱する」という事態はおきないと思われます。
ちなみに国連女性差別撤廃委員会は、かねてから、再婚禁止期間については「女性に対してだけ特定の期間の再婚を禁じる規定を廃止すること」という勧告を出し続けており、2016年3月にも同趣旨の勧告をしていました。
   弁護士 渥美玲子                                         以 上
posted by 金山総合法律事務所 at 13:59| 法改正

2013年04月18日

高年齢者雇用安定法の改正

 高年齢者が少なくとも年金受給開始年齢まで働き続けられることを目的として、高年齢者雇用安定法の一部が改正され、2013年4月1日から施行されています。
 高年齢者雇用安定法は、2004年の改正で、定年は60歳を下回ることができないと規定され、65歳未満の定年を定めている場合には、65歳までの安定した雇用を確保するため、@定年の引き上げ、A定年後も引き続き雇用する制度(継続雇用制度)、B定年の廃止、のいずれかの措置を講じなければならないと定めていました。
 ただ、継続雇用制度ついては、労働者の過半数代表との労使協定により、継続雇用の対象となる者を一定の基準で選別することができるとされていました。
 しかし、厚生老齢年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられ、2013年4月から定額部分の支給開始が65歳となり、また報酬比例部分の支給開始年齢の引き上げが開始されることから、今回の改正で、継続雇用制度につき、労使協定による選別を許容する措置を廃止し、希望者全員を継続雇用することとされました。
 ただし、心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等、就業規則に定める解雇事由または退職事由に該当する場合には、継続雇用しないことができるとされています。
 また、経過措置として、厚生老齢年金の報酬比例部分の支給開始年齢を上回る労働者に対しては、労使協定で基準を設けて選別できる継続雇用制度を維持することができるとされています。
 なお、不当な選別によって継続雇用制度の適用を拒否された場合については、継続雇用制度により再雇用されたのと同様の雇用関係の存続が認められたケース(最高裁平成24年11月29日判決)や、損害賠償が認められたケース(札幌高裁平成22年9月30日判決)があります。
(弁護士 渥美雅康)
posted by 金山総合法律事務所 at 10:16| 法改正

2013年04月09日

有期雇用についての労働契約法の改正

 2013年4月1日から、労働契約法の改正により、有期労働契約について新しいルールが適用されます。有期労働契約とは、「平成○○年3月31日まで」、「1年契約」といったように、雇用される期間を定めた労働契約のことです。有期労働契約はパート、アルバイト、派遣労働など非正規雇用で多くみられます。
 有期労働契約で働く人は、必ずしも期間満了と共に職場を離れるわけではありません。厚生労働省によると有期労働契約で働く人の3割が、通算5年を越えて契約を何度も更新している実態があるようです。こうなると、有期労働契約といっても、労働の実態は、期間を定めない労働契約とほとんど変わらない場合もあります。
 リーマンショック後に「雇い止め」や「派遣切り」等という言葉を見聞きした方も多いと思います。無期労働契約で働く人と働く内容がほとんど変わらなくても、有期労働契約で働く人の雇用はとても不安定です。そこで、今回の労働契約法の改正では、そのような有期労働契約で働く人を保護するため、以下の3点について改正されました。
@ 無期契約への転換(労働契約法18条)
 有期労働契約でも契約が連続する一定の場合に無期労働契約へ変更できるようになりました。同じ使用者との間で有期労働契約が何度も更新されて、その契約期間が通算5年を越えたときには、労働者が使用者に申し込めば、期間の定めのない労働契約に変更されます。ただし、労働契約と労働契約の間に、一定の期間(6ヶ月など)以上契約のない期間があって、労働契約の連続性がいったん途切れた場合には、通算できないので注意が必要です。
A 雇い止めの制限(労働契約法19条)
 従前、契約が反復して更新されたり、労働者が契約更新されると当然に期待を抱いていた場合には、最高裁は契約の更新拒絶を無効としてきましたが、今回、その判例上のルールが労働契約法にも盛り込まれました。
B 不合理な労働条件の禁止(労働契約法20条)
 同じ使用者のもとで働く労働者に対して、労働契約の期間の定めのあるなしで不合理に労働条件を違うものにすることが禁止されました。この労働条件には賃金や労働時間以外のみならず一切の待遇が含まれ、労働条件の違いが不合理かどうかは、その職務の内容等を考慮して個々の労働条件ごとに判断されます。
(弁護士 山下陽平)
posted by 金山総合法律事務所 at 10:23| 法改正