2017年05月22日

保育園の現状

      保育園の現状
                                     弁護士 渥美玲子

2016年2月に「保育園落ちた、日本死ね」という強烈な印象を与えたブログが世に知られ、国会でも取り上げられたうえ、2016年新語・流行語大賞にまで選ばれました。
そこで保育園について見てみました。

 少し遅い情報ですが、厚生労働省は今年1月、昨年2016年の1年間に生まれた子どもの数が98万1000人だったと発表しました。
 この出生数が100万人を割ったのは、なんと統計を取り始めた1899年以降初めてのことだそうです。ちなみに2014年は100万3539人、2015年は100万5677人だったそうで、一旦、増加はしたものの、基本的には減少傾向は収まらないと予測されています。

他方、待機児童問題については、厚労省は、今年2017年4月「保育所等関連状況の取りまとめ及び待機児童解消加速化プラン」を発表し、2016年4月現在保育所等定員は263万人で前年比10万3000人増加したこと、待機児童数は2万3553人で前年比386人増加したことなどの報告をしました。

ところでこの「待機児童」の厚労省の定義は揺れ動いており、2001年には、狭く定義されるようになり、「他に入所可能な保育所があるにもかかわらず待機している児童や、地方単独保育事業を利用しながら待機している児童」については除外することになりました。そのため、2001年4月の統計は2種類でており、新定義では待機児童が2万1000人となったものの、従来の定義では3万5000人とされました。なお、地方単独保育事業とは、無認可保育所ではあるが地方自治体の基準を満たしており、一定の援助を受けている保育所をいうそうです。

実は、昨年からもう一つの定義の必要性が言われています。それは「潜在的待機児童」「隠れ待機児童」の存在です。昨年の2016年9月厚労省は、統計から除外されている「潜在的待機児童」が昨年2015年より8000人多い6万7354人いたと発表しました。
この潜在的待機児童とは、親が育児休業中で保育園の入所申請をしていない場合、親が育児のために無職で求職活動をしていない場合、親が特定の保育所を希望しているため自治体の勧める保育所に入所申請していない場合、自治体の認可保育園に入りたいのに無認可保育園に入れている場合などを言います。このようなケースは、厚労省の定義からも除外されているうえ、自治体により定義が異なるので全国的な状況把握ができていないのです。
厚労省は以前からこのような潜在的待機児童について把握しており、「定義の見直し」を2017年4月から行う予定でしたが、今年はそれを行わず、来年2018年4月以降に集計する分からにするそうです。

ところで、少子化が進んで子どもの数が減っているのに、どうして保育所が不足しているのか、という疑問があるようです。
 その答えは、やはり厚生労働省が発表したグラフを見れば分かります。
1980年から2016年までの専業主婦世帯と共働き世帯の数を出したグラフがあります。
 1980年から1992年頃までは専業主婦世帯が共働き世帯よりも多かったのですが、1996年頃からなんと共働き世帯の方が多くなっています。私はこれを勝手に「X型グラフ」と呼んでいますが、まるで、1992年頃から1996年頃に2つの線が交差するかのように入れ違っているのです。1980年頃は専業主婦世帯が1100万世帯以上、共働き世帯が600万世帯だったのに対し、2016年には共働き世帯は1129万世帯であるのに対し、専業主婦世帯は664万世帯になり、完全に逆転しました。
このことは女性の雇用者数をみても明らかで、厚労省の調査では、1980年には女性の雇用者数は1354万人(全雇用者数3971万人の34%)だったのに対し、2016年にはなんと2531万人(全雇用者数5729万人の44%)に増えているのです。
このように1990年代から特に共働き女性が増えたため、子どもを保育所に預ける必要性が大きくなったのです。

しかも働いている女性は十分な賃金を貰っているかと言えば、そうでもありません。
例えば、2015年の総務省調査をみると、全雇用者数5474万人のうち、短時間雇用者は1634万人(全雇用者の約30%)いますが、その1634万人のうち女性は1110万人(全短時間雇用者の67.9%)なのです。時給については地域によってばらつきがあるようですが、愛知県では平均時給967円となっていて全国平均975円よりも安くなっています。ただし私が見た感じでは時給850円でパートを募集している店舗も結構あるようで、愛知県の最低賃金845円とほぼ同額です。
 ちなみに厚労省の統計では短時間雇用者というのは、「1週間の就業時間が35時間未満の者」とされているので、週休2日の会社の正社員の週の所定労働時間と同じですね。
2008年にアメリカでおきたリーマンショックの影響を受け日本の経済は大きな打撃を受けました。さらに2012年に発足した安倍内閣は大企業や富裕層優先のトリクルダウン理論を柱とするアベノミクス政策を強行し続け、日本の経済はデフレ不況が続いたままです。そのため日本の貧困率は世界4位というありがたくない地位を占めることになりました。
女性が働かないと生活はやっていけないのが現状なのです。
このような事情から働く女性にとっては保育園は不可欠なので、結婚する頃から家の近くに保育園があるかないか気にしたり、妊娠が分かったときから認可保育園探しを始めたり、いろいろな保育園の評判を調査したり、今は「保活」と言われていますが、本当に大変なのです。
「子どもができたら仕事をやめればいい、と考えている女性は少数派」が実態なのです。

ちなみに今年2017年5月18日、名古屋市は、「今年4月1日現在、国の定義に基づく待機児童は0人だったが、特定の保育所等の利用を希望されている等により保育所、認定こども園、地域型保育事業が利用できていないわゆる隠れ待機児童が715人となった」と発表しました。この715人という数字は昨年の585人よりも増え、2割増しになっています。
posted by 金山総合法律事務所 at 15:38| 両性の平等

2016年11月11日

日本は111位

          日本は111位

2016年10月26日、世界経済フォ−ラム(WEF)が「国際男女格差レポート2016」でジェンダーギャップ指数を発表しました。
丁度3年前に「日本は105位」ということで書きましたが、ランキングが上昇するどころか、6つも下がったのです。なんということでしょうか、
つまり、2016年、日本は144ヶ国中111位でした。

上位10位を見ると、1位アイスランド、2位フィンランド、3位ノルウェイ、4位スウェーデン、5位ルワンダ、6位アイルランド、7位フィリピン、8位スロベニア、9位ニュージーランド、10位ニカラグアで、北欧諸国が上位にランキングされています。
2016年5月に伊勢志摩サミットに集まったG7で見てみますと、ドイツ13位、 フランス17位、イギリス20位、カナダ36位、アメリカ45位、イタリア50位となっています。G7の中で日本は最低、しかも100位以下という悲惨な状況ですから、G7の仲間に入る資格はないと言えそうです。
 日本の順位を経年的にみると、2006年80位、2007年91位、2008年98位、2009年101位、2010年94位、2011年98位、2012年101位、2013年105位、2014年104位、2015年101位、そして2016年は111位という最悪の順位になりました。つまり日本の女性の地位は良くなっているどころか、悪くなっているのです。
つまり日本の男女格差の状況は、世界的比較で見ても、また経年的にみても最悪な状況になりました。

この指数は、男女格差が存在する4つの分野(経済活動の参加と機会Economic Partipation and Opportunity、教育Educational Attainment、健康と生存Health and survival、政治的影響力Political Empowerment)において男性と女性の格差をそれぞれ各国毎に分析したものです。
2016年の日本の総合ランクは111位ですが、経済活動の分野では118位、教育の分野では76位、健康と生存の分野では40位、政治的影響力の分野では103位でした。
この4つの分野にはさらに14項目の指標があります。経済の分野では「推定勤労所得Estimated earned income」が100位、「議員・政府高官・経営者Legislators,senior officials and managers」が113位、「専門的技術的労働者professional and tecnical workers」が101位、教育の分野では「高等教育Enrolment in tertiary education」が108位、政治の分野では「国会議員女性割合Woman in parlament」が122位という状況でした。
特に最低ランクの「国会議員女性割合」について平成28年の内閣府の発表によれば、平成27年12月末現在、衆議院では9.5%(45人)、参議院では15,7%(38人)という低さでした。また国家公務員の女性割合は本省課室長相当職が3.5%、指定職相当が3%、となっています。これでは女性の意見が政治に反映されないのは当然のことでしょう。

 このような日本の状況に比べてイタリアの状況は素晴らしいものです。2006年のランキングは77位と、日本の80位とほとんど同じだったのに、2016年にはなんと50位まで上昇しています。
 イタリアの2016年の4つの分野をみると、経済活動の分野では117位、教育の分野では56位、健康と生存の分野では72位、政治の分野では25位です。
経済活動の分野では日本は118位ですから、イタリアでもほぼ同じように男女格差があるといえますが、政治の分野では日本の103位と比べるとイタリアは日本より80ランクも上です。特に政治の分野では、イタリアは国会議員女性割合は39位、大臣女性割合は10位という高位にあります。
なお、2015年のIPU版(列国会議同盟)の「国会の女性割合ランキング」では、189ヶ国中、イタリアは38位で30.109%(286人)であるのに対して、日本は147位で11.60%(83人)という統計があります。

このように世界ランキングを検討することによて、どのような法律や制度にしたら良いのか、どのような慣習を変えるべきなのか、次第に分かってきますね。    弁護士 渥美玲子
posted by 金山総合法律事務所 at 13:13| 両性の平等

2016年08月11日

働く女性と法律(その2)

「均等法」の成立

 皆さんご存じの均等法について話したいと思います。
一口に「均等法」と言っていますが、実は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇に確保等に関する法律」というのが現在の法律の正式名称です。

この法律は、1985年(昭和60年)5月17日に成立し、翌1986年(昭和61年)4月1日から施行されました。
ところで、あまり知られていないのですが、均等法は、1972年(昭和47年)に成立した「勤労婦人福祉法」という法律を改正するという手続で成立しました。なので六法をみると、「昭和47年7月1日施行」と書いてあります。このような改正手続もあったためか、1985年に成立したときには、均等法の正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」というものでした。

法律の名称や趣旨、内容がまったく異なるにもかかわらず、「改正」という手続でおこなわれるというのは、違和感を感じますが、実は今の「日本国憲法」も「大日本国憲法」の改正手続によって成立しました。
 日本国憲法の冒頭には「朕は日本国民の総意に基づいて新日本建設の礎が定まるに至ったことを深く喜び、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法73条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる。」と書いてあります。
 現在の憲法はアメリカ合衆国による押しつけ憲法だ、という意見もあるようですが、そうすると、当時天皇が深く喜んで裁可したこと、枢密顧問が諮詢したこと、帝国議会が議決したことなどのすべての手続はアメリカによる押しつけだということになります。

  均等法に話を戻しますと、1960年代には女性労働者に対する差別が大きかったことから労働組合や女性市民団体などから「雇用平等法」を制定せよという大きな要求がありました。女性が働き続けたいと希望しても、当時の多くの企業は「結婚退職制」「30歳定年制」などの就業規則を作って女性を職場から締め出していましたし、賃金も男性に比べて半分以下程度でした。もちろん女性が昇格昇級することはありませんでした。
しかし、政府や財界はこのような女性の要求を無視し、多くの反対があるにもかかわらず次のような均等法を成立させました。
この均等法の問題点はいろいろありますが、第1に、「平等」といっても待遇や労働条件の平等ではなく、単に「機会の均等」でしかないこと、第2に、事業主に対しては「努力義務」しか課さなかったことから、均等法に違反した事業主に対して女性労働者はなにもできないことになったこと、第3に、このような均等法の成立とひき替えに労働基準法の時間外労働や深夜労働など労働時間についての女性保護規定が撤廃されたことなどです。
 要するに女性労働者は、「保護」を失い「平等」は確約されないままになったのです。

ところで私の手元に日本弁護士連合会が1983年(昭和58年)10月に発行した「男女が平等に働くために〜雇用平等法の制定に向けて」という150ページに及ぶ冊子があります。その21ページに「男女雇用平等法要綱試案」が掲載されています。これは「試案」ですから、結局は日の目を見ることはなかったのですが、当時日本弁護士連合会がどのように考えていたか良く分かります。

第1条の「目的」にはこのように書いてあります。
「この法律は男女平等を基礎とし、女性の労働権が、人間としての尊厳を確保するために欠くことのできない基本的人権であることにかんがみ、雇用の機会と待遇について、使用者等が女性を差別的に取り扱うことを禁止するとともに、その差別的取扱いによる権利または利益の侵害から女性を迅速かつ適正な手続により救済するため必要な措置を講ずることにより、雇用における男女平等を促進することを目的とする。」

第2条の「差別的取扱いの定義」には、このように書いてあります。
「第1項 この法律において女性に対する差別的取扱いとは、次の各号をいう。
1,女性であることを理由として不平等または不利益な取扱いをすること。
2,女性に対してのみ年令、未婚・既婚の別、子どもの有無、学歴、容姿等特定の条件を理由として不平等または不利益な取扱いをすること。
3,女性のみに適用される条件でなくても、女性のみを排除し又は女性のみ不利益をうける結果となる条件を設けて不利益な取扱いをすること。
4,労働基準法等法令に定められた女性に対する保護の権利行使を理由として、不利益取扱いをすること。
第2項 労働基準法等法令に定められた女性に対する保護並びに男女平等を促進するための特別の措置は、差別的取扱いとはみなさない。          」

 少し飛ばして、
第7条の「罰則」には、このように書いてあります。
「次の行為に対する罰則規定をもうけ、1及び2は両罰規定とし、違反行為を行った者を罰する他その事業主をも罰する。
 1,この法律で禁止された差別的取扱い
 2,調査及び審問手続に関する違反行為
 3,確定した救済命令違反 」

ここまで読むだけでも、1985年に成立した「均等法」が、如何に女性達の要求したものと異なっていたか、十分に分かるのではないでしょうか。
弁護士 渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 12:55| 両性の平等

2016年07月30日

「女性が輝く」って?

            「女性が輝く」って
                                   弁護士 渥美玲子
 2016年4月13日に発売されたHKT48(AKB48の博多HaKaTaにおける姉妹版)の新曲「アインシュタインよりディアナ・アグロン」の歌詞が女性蔑視だとして話題になっています。
その一部をみると、次のような歌詞。

難しいことは何も考えない。頭からっぽでいい。
女の子は可愛くなきゃね。学生時代はおバカでいい。
テストの点より瞳の大きさが気になる。
どんなに勉強できても愛されなきゃ意味がない。
世の中のジョーシキ何も知らなくても、メイク上手ならいい。
女の子は恋が仕事よ。ママになるまで子どもでいい。
それより重要なことは、そうスベスベのお肌を保つことでしょう?
もっともっと輝きたい。人は見た目が肝心。
だってだって内面は見えない。
可愛いは正義よ。

 まあ、よくある女性に対する考え方ですね。
 1962年には早稲田大学の男性教授が「文学部は女子学生に占領されていまや花嫁学校化している」として「女子学生亡国論」を展開しました。要は、「女性に大学のような高等教育を受けさせても意味がない、国費の無駄だ」という論調でした。
 1975年頃には司法試験を合格した女性修習生に対しても男性教官からの差別発言はありました。例えば「男が生命を賭けている司法界に女を入れることは許さない」「任官すれば当然転勤のことがでてくるが、それについて女性は甘く考えているんじゃないか」などでした。
 近いところでは、2015年8月には鹿児島県の男性知事が、高校教育のあり方を考える教育会議の席上で「サイン、コサイン、タンジェントを社会で使ったことがあるか女性に問うと、10分の9は使ったことがないと言う。そのようなことを教えてなんになるのか。女性にとってはサイン、コサイン、タンジェントよりも、世の中の草花の方が将来の人生設計において有益かもしれない」との趣旨の発言をしたといいます。大学の理系に進学しなければ、男性でも三角関数などは仕事でも使うことはまずないと思われますから、「女性に問うと」などと限定する必要などはまったくないのです。むしろ将来文系に進むことを考えている場合には、高校教育において理系的な物の考え方を学ぶことは重要なのです。
また、2016年3月には大阪の中学校の男性校長が、全校集会で「女性にとって最も大切なことは子どもを2人以上産むことです。これは仕事でキャリアを積むこと以上に価値があります。」と発言しました。確かに出産は女性しかできないことです。しかし、「出産が仕事でキャリアを積む以上に価値があるかどうか」を決めるのは女性です。1994年カイロでの国際人口開発会議で「性と生殖に関する健康と権利」つまりリプロダクティブ・ヘルス・ライトが提唱され、この概念は「出産に関する自己決定権」として広く承認されています。女性は仕事を優先してもまったく構わないのです。女子生徒はどのような気持ちで校長の発言を聞いたのでしょうか。
今も昔も「女性はバカで良い」「女は家庭に入って夫の言うことに従っていればいい」ということですね。

ところで、この歌詞を読んで違和感を感じたのは「もっともっと輝きたい」というフレーズです。「頭空っぽで常識がなくても、メイクが上手でお肌スベスベで可愛い」という状態にあることが、「輝いている」って言うことかしら、と思ってしまいます。

最近、安倍首相は「すべての女性が輝く社会を作る」と言っていろいろな政策を掲げています。
 例えば、2014年10月に「すべての女性が輝く社会づくり本部」が纏めた「すべての女性が輝く政策パッケージ」によると、「女性が輝くことは、暮らしやすい社会、活力ある社会をつくることにつながる。子育てがしやすい、安心して介護ができる、ライフステージに応じた柔軟な働き方ができる、家庭や地域に十分関わることができるなど、女性の視点から見て暮らしやすい社会の制度や仕組みを作ること」だと説明しています。その上で、6つの政策の第1番目が「安心して妊娠、出産、子育て、介護をしたい」という女性の要望をかなえるための具体的な政策となっています。
 これって、結局、「女性は結婚して出産して子育てして両親の介護をすること」が、「女性が輝く」という一番の意味だと安倍首相は思っているということですね。
 ちなみに「アインシュタインよりもデイアナ・アグロン」の歌詞を書いたのは秋元康という有名な人物ですが、安倍首相のお気に入りだそうです。

なお、この秋元康の歌詞が女性差別だと批判した「リテラLITERA」というサイトに対して、AKB運営会社から、「名誉毀損及び侮辱罪が成立する。」との抗議が来たそうです。
                        2016年5月20日:記
posted by 金山総合法律事務所 at 16:24| 両性の平等

2016年06月09日

働く女性と法律(その1)

                              弁護士 渥美玲子

厚生労働省が昨年2015年の10月に、「働く女性の実情」を発表しました。
 これによると、平成26年における女性雇用者数は昨年に比し30万人増えて2436万人となり、雇用者総数5595万人の43.5%を占めるようになりました。女性の多くが働いていると言っても過言ではありません。
 しかし、その内実をみると、女性の非正規雇用形態が36万人も増えて1332万人になったということです。非正規雇用の内訳は、パート・アルバイト1042万人、派遣社員71万人、契約社員・嘱託177万人ということです。つまり女性労働者のうち、なんと56.7%が非正規雇用なのです。

 このように働く女性が増え、またその雇用形態も非正規雇用の割合が増えたことから、女性が働く上で知っておいた方が良い法律ははたくさんある、と私は思います。

 まずは、労働基準法です。縮めて「労基法」とも言います。

 この法律は1947年(昭和22年)4月に制定されましたが、その後、いろいろ改正されて、現在に至ります。労働関係を規律する基本中の基本の法律です。というのは、憲法第27条2項で「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は,法律でこれを定める。」と規定されていますが、労基法こそが、この憲法27条によって制定された法律だからです。

 労基法の「第6章の2」に「妊産婦」と題する条文があります。
 実は以前は「第6章の2 女子」となっており、女性労働者全員に対する時間外労働や休日・深夜労働の制限等による保護規定があったのですが、1999年(平成11年)にその規定が無くなって、「妊産婦」保護に限定されるようになったのです。

この「第6章の2」の対象は、労働契約を締結している女性労働者です。労働者とは「職業の種類を問わず,事業または事務所に使用される者で賃金を支払われる者をいう」(労基法9条)とされていますから、パートタイマー、アルバイト、契約社員、嘱託など呼称の違いを問いません。但し、派遣労働者の場合は労働契約を締結している派遣元企業に請求することになっています。
昔、相談に来た女性に、私が「なるぼど、あなたは労働者ですね」と言ったところ、「いいえ、私はパートなので労働者ではありません。」とその女性が答えたことがありました。今は、そのように考える女性は少ないと思いますが、「パートタイマー」はもちろん労基法9条の「労働者」ですから労基法の適用対象なのです。

ところで労基法の「第6章の2」の条文には次のようなものがあります。

64条の3:危険有害業務の就業制限
65条1項:産前休業中(6週間、多胎は14週間)は就業させてはならない。
65条2項:産後休業中(8週間)を就業させてはならない。
          但し産後6週間経過した女性が就業請求をした場合は別
65条3項:妊娠中の女性が請求した場合、他の軽易な業務に転換させなければならない。
66条1項:妊産婦が請求した場合、32条(の2,4,5)の法定労働時間をこえて労働させてはならない。
66条2項:妊産婦が請求した場合、33条、36条の規定にかかわらず時間外労働、休日労働をさせてはならない。
66条3項:妊産婦が請求した場合、深夜業をさせてはならない。
67条:育児時間

このようにいろいろな条文があっても使用者が守らない場合はどうなるのか、と言えば、結構厳しいことになっています。
労基法117条から違反した場合の罰則規定が定められています。
例えば、119条では、「64条の3から67条までの規定に違反した場合には、違反した者に対して6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処する」となっています。
この規定の意味は、違反者に対して単に損害賠償など民事的な責任だけではなく、いわゆる刑法犯と同じで刑事責任を負わせるということです。しかも、労基法121条では、違法なことをした者が管理職などであっても、会社など使用者も同時に刑事責任を負うことになっているのです。このような規定を「両罰規定」と言います。
では、なぜ罰則規定があるかと言えば、労基法自体が憲法27条を受けて定めされている「基本法」としての性格があるからです。労基法第1条1項には「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」とあり、さらに2項には「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この金を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」としています。このような労基法の基本理念を具体化し実効性を持たせるために罰則規定が設けられたのです。

女性の妊娠や出産に関する規定としては、均等法(正式には、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律、といいます)や育児介護休業法(正式には、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律、と言います)などもありますが、これらの法律には使用者に対する罰則規定は非常に不十分なのです。
そういう意味でも労基法の条文について、労働者は、しっかり知っておくのが良いのです。

     以 上
posted by 金山総合法律事務所 at 16:37| 両性の平等

2013年11月05日

日本は159位

両性の平等
           

先回は、世界経済フォ−ラム(WEF)が「国際男女格差レポート2013」でジェンダーギャップ指数を発表し、日本は136ヶ国中105位になったことを書きました。
 実は日本にはもっと低いランクがあるのです。
 2013年3月に列国議会同盟(IPU)が発表した調査によれば、2012年の国会(二院制の場合は下院)における女性議員比率は188ヶ国中159位でした。

括弧内に女性比率を入れて、順位をみてみましょう。なおIPUの発表では同率の場合でも後順位を複数処理しないので、この点は変えました。

 上位10位の状況は、1位ルワンダ(56.3%)、2位アンドラ(50.0%)、3位キューバ(45.2%)、4位スウェーデン(44.7%)、5位セーシャル(43.8%)、6位セネガル(42.7%)、7位フィンランド(42.5%)、8位南アフリカ(42.3%)、9位ニカラグア(40.2%)、10位アイスランド(39.7%)となっています。
さらには、11位ノルウェイ(39.6%)、12位モザンビーク(39.2%)、13位デンマーク(39.1%)、14位エクアドル(38.7%)、15位オランダ(38.7%)、16位コスタリカ(38.6%)となっており、めぼしいところでは、21位スペイン(36.0%)、29位ドイツ(32.9%)、34位イタリア(31.4%)、44位フランス(26.9%)、64位中国(23.4%)、68位イギリス(22.5%)、83位パキスタン(20.7%)、97位アメリカ(17.8%)、124位ロシア連邦(13.6%)、そして、日本は159位(8.1%)だそうです。
そして世界の平均は20.3%だそうです。
 IPUによれば、ルワンダなど上位国において近年の女性議員が増加している原因はいわゆるクオータ制の導入によるものと分析されています。
 1位になっているルワンダの下院は80議席中、女性は45議席を持っています。しかし、80議席のうち24席が女性特別枠、さらに3議席が青年障害者枠になっています。ですから45議席から24議席を差し引いた除いた残21議席は女性が男性と互角に戦い取った議席だということです。つまり2種類の特別枠を除いた議席は53議席ですから、仮に女性特別枠がなくても53議席のうち21議席は選挙にて勝ち取ったことになり、39.6%になります。立派なものです。
 なお、このランキングによれば日本の衆議院議員480人のうち女性は39人として計算されていますが、実は内閣府が発行した男女共同参画白書によると2012年12月当時の女性議員数は38人なので、7.9%になります。よって、7.9%で160位のボツワナが上がるので、日本は同順位の159位です。

ところで、先回紹介しました世界経済フォ−ラムのランキングでは、日本は総合105位であったのですが、政治的影響力の分野では118位でした。2012年のこの分野でのランキングでは111位だったのが、さらに118位に落ちたのは、昨年の総選挙で、大きく女性議員が減ったからです。
昨年2012年12月16日、衆議院総選挙が行われました。皆さん、ご存じのように、2009年の総選挙以来与党だった民主党が大敗し、自由民主党が大勝しました。この選挙で、それまで54人いた女性議員が16人も減り、38人になってしまったのです。民主党には女性議員が比較的多くいたのですが、自民党は女性議員を増やす考えがありませんでした。このように、どの政党が女性差別解消政策をとっているのかは重要です。
また、衆議院は全体で480議席ありますが、そのうち300議席は小選挙区で当選議員は1人に限定されます。残180議席は比例区で全国を11ブロックに分けて行われます。そして昨年12月の総選挙結果における女性比率をみると、小選挙区では300人の内女性は20人(6.6%)ですが、比例区では180人のうち18人(10%)が女性でした。このようにどのような選挙制度を採用するかによって、議員の女性比率は容易に変更できるのです。
現在自民党はわずか180議席しかない比例区をさらに減らすことを提案していますが、これが実現してしまったら、現在の日本の状況では、さらに女性の議員比率は少なくなることは必至であり、ランクはもっと下がるでしょう。

ちなみに安倍総理は、首相官邸のホームページで、「女性が輝く日本へ」と題して政策を発表していますが、その政策は、「待機児童の解消」、「女性役員・管理職の増加」、「職場復帰・再就職の支援」、「子育て後の企業支援」の4つしかなく、国会における女性議員数の増加や、女性の政治に対する影響力の増加などまったく視野にないようです。

なお、ランキング表は誰でもネットで見ることができます。

                         弁護士 渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 14:23| 両性の平等

2013年11月02日

日本は105位

両性の平等
              

2013年10月25日、世界経済フォ−ラム(WEF)が「国際男女格差レポート2013」でジェンダーギャップ指数を発表しました。
日本は136ヶ国中105位でした。
上位10位を見ると、1位アイスランド、2位フィンランド、3位ノルウェイ、4位スウェーデン、5位フィリピン、6位アイルランド、7位ニュージーランド、8位デンマーク、9位スイス、10位ニカラグアです。
 ちなみに先回、「外国の憲法にみる家族条項」を検討しましたので、各国の順位をみてみますと、ドイツ14位、アメリカ23位、フランス45位、ロシア連邦61位、中国69位、イタリア71位です。日本が105位というのが如何にかけ離れて低位か、一目瞭然ですね。
また世界ランキングが100位以下の国を見ると次のようになっています。
 100位カメルーン、101位インド、102位マレーシア、103位ブキナファソ(西アフリカにあります)、104位カンボジア、105位日本、106位ナイジェリア、107位ベリーズ(中央アメリカにあります)、108位アルバニア、109位アラブ首長国連邦、110位スリナムとなっています。あのマララさんを狙撃したタリバンのいるパキスタンは135位です。日本とパキスタンとの違いは、日本とイタリアとの違いくらいです。

このジェンダーギャップ指数ランキングは2006年から毎年10月に発表されています。
 日本の順番を経年的にみると、2006年80位、2007年91位、2008年98位、2009年101位、2010年94位、2011年98位、2012年101位、そして2013年105位でした。つまり日本の女性の地位は良くなっているどころか、悪くなっているのです。
一体、どうして、このようにランキングが下がったのでしょうか。そして、どうしてせめてイタリアのレベル、つまり136ヶ国の中間点までくらいにはランクアップしないのでしょうか。このことを真剣に考えないと、日本の女性はいつまで経っても差別されたままです。

この指数は、世界の約136ヶ国を対象に、男女格差が存在する4つの分野において男性と女性の格差をそれぞれ各国毎に分析したものです。評価の対象となった136ヶ国は、世界中のすべての国ではなく、世界人口の93パーセント以上を占めているそうです。また指数とは、国と国の格差ではなく、男性と女性との格差を問題にしていますから、男性を100として女性がどの程度平等であるかを計数化しています。

まず4つの分野とは、第1に、経済活動の参加と機会(Economic Partecipation and Opportunity)、第2に教育(Educational Attainment)、第3に健康と生存(Health and Survival)、第4に政治的影響力(Political Empowerment)の4つです。
 そしてそれぞれの分野には合計14の変数があり、経済活動の分野では、給与、参加レベル、専門職における雇用など5つの変数、教育の分野では初等教育や高等・専門教育への就学など4つの変数、健康と生存の分野では寿命など2つの変数、政治的影響力の分野では政策決定機関への参加など3つの変数があります。そしてこのレポートではそれぞれの分野ごとでのランキングも示しています。

2013年の日本の総合ランクは105位ですが、経済活動の分野では104位、教育の分野では91位、健康と生存の分野では34位、政治的影響力の分野では118位です。4つの分野のうち100位以下が2つ、90位以下を基準とすると3つもあるって、凄いですよね。愕然とします。

ところでこのようなジェンダーランキングはどのような意味があるのでしょうか。「たかが女のこと、自分には関係のないことだ」と思っている人が多いかもしれません。しかし、このような考え方は、日本の女性が差別されているという現状、つまり男性に比較して女性は経済的に自立していないということ、男性に比較して高等教育を受けていないということ、女性には政治的影響力がないということを容認しているということです。言い換えれば、女性に対する差別に対して改善の必要を認めないという考えであり、つまるところ、女性差別を容認しているものと言わざるを得ません。
 そして、そのよう女性差別意識は、女性以外の、子ども、障害者、高齢者、低所得者、外国人など社会的な弱者あるいは政治に対して影響力を持たない人間に対する差別意識をも含むと考えます。
 人間に対する差別を容認する社会が健全である筈はありません。
 このようなランキング表が、その国の健全性を検討する重要な指標になることは間違いありません。
日本は憲法の前文で「国際社会で名誉ある地位を占めたいと思う」と宣言しました。このジェンダーギャップランキングで、日本がこのような不名誉なランク付けをされたことについて一体政府はどのように考えているのか、聞いてみたいものだと思います。

 なお、このWEFのレポートやランキング表は誰でもネットで見ることができます。

                         弁護士 渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 13:33| 両性の平等

2013年09月28日

明治民法〜 婚姻制度 (その2)

両性の平等
         

先回に引き続き「婚姻」について見てみましょう。

・「第788条
 妻は婚姻に因って夫の家に入る。」
この規定は、「家制度」と採用している当然の結果とされています。但し、外国人と婚姻した場合には配偶者の外国籍には入らないとして例外が認められています。

・「第789条
@妻は夫と同居する義務を負う。
A夫は妻をして同居させることを要する。」
この規定は「夫婦が同居しなければ、婚姻の目的をなすことができない」ということによる当然の規定とされています。しかし、この場合の同居義務は妻にのみあり、夫にはありません。梅教授は「夫が自己の便宜に従い妻と同居せず、仮にその請求が妻からあったもこれに応じないことは稀ではない。これは男尊女卑の因習によることであるが、今日の時勢にあってはこのようなことを是認できない」などと述べています。」

・「第790条
   夫婦は互いに扶養をなす義務を負う。」
梅教授によれば「夫婦は偕老同穴を約する者なるが故に、もし一方が資力なきため自ら井蛙KT得することができない場合には、他の一方がこれを助けるべきは理の当然とである」と書いています。なるほど、こういう場合には夫にも妻にも義務があるのですね。

・「第798条
 夫は婚姻より生ずる一切の費用を負担する。
   但し、妻が戸主たるときは妻が負担する。」
梅教授によれば「夫は一家の主宰にして、その戸主たる場合はもちろん、戸主でない場合においても夫が財産を有してこれをもって妻子を養うのが通例としているので、婚姻より生じる費用は原則として夫の負担とするもは当然である」としています。

・「第801条
 夫は妻の財産を管理する。」
梅教授によれば「財産の管理は夫が概して妻よりもこれをするに適している者であるが故に財産に関する重大な行為は妻は夫の許可を受けるものとした。これはもとより夫権を重んじた結果である」と説明しています。

・「第802条
   夫が妻のために借財をなし、妻の財産を譲渡し、これを担保に供し、第602条の期間を超えてその賃貸をなすには妻の承諾を要す。」

このように結婚すると妻は自分の財産についてさえも夫に管理どころか処分されてしまうという大変不利な状況に置かれます。すでに明治民法の総則編の第14条、16条などで見たようにそもそも妻には行為能力がないとされているので、801条や802条の規定は当然のことです。

・「第808条
   夫婦はその協議をもって離婚をすることができる。」
梅教授によれば「婚姻はもともと当事者の契約によるので、その契約を解消することができるのは理の当然である」としています。

・「第813条
 夫婦の一方は左の場合に限り離婚の訴えを提起することができる。
1,配偶者が重婚をなしたるとき
2,妻が姦通をしたとき
3,夫が姦通罪によって刑に処せられたとき 」
4,配偶者が偽造、賄賂・・関する罪、若しくは刑法75条・・の罪によって刑に処せられたとき
5,配偶者より同居に堪えざる虐待または重大な侮辱を受けたとき
6,配偶者より悪意をもって遺棄されたとき
7,配偶者の直系尊属より虐待または重大な侮辱を受けたとき
8,配偶者が自己の直系尊属に対して虐待をなしまたはこれに重大な侮辱を加えたとき
9,配偶者の生死が3年以上分明ならざるとき

この条文の2項と3項を比較すると、一見して妻の方に重い責任が課せられていることが分かるので、女性に対する差別だと思われます。この点につき、梅教授は次のように説明しています。「妻が婚姻より生ずる第1の義務に背くことであるから、これが離婚の原因とされるのは当然である。ただ、妻に限りこの義務を負わせ夫に同一の義務を負わせないことは不公平であると言わざるを得ない。我が邦においては従来法律上の妻の外に妾なるものを認め、これをもって2等親族とするに至っていたので、俄に欧米の進歩した主義を採用することができない。この不公平は遠くない将来において必ず廃止せられるべきであると信じている」というものです。しかし、この条文は昭和22年まで生き続けていました。
この条文の5項についても梅教授はおもしろいことを書いています。「例えば、中等以下の社会にあって夫が軽く妻の臀部を打ちたるが如き行為は敢えて本号に入らないと言えるが、妻が夫に対して同一の所行をなすと、これは重大な侮辱を加えたものとして離婚を請求することができる。しかし社会の進歩するに従って世論はこのような区別を認めないようになるだろう。また例えば、現今においては夫が妻と同居する場合においてその家に妾を蓄えるも妻は本号の適用によって離婚の訴えを提起することができないことが多いと思うが、社会の進歩するに従って、必ず本号の適用あるものとするに至るべきだ。」
 つまり、離婚原因は社会の発展や進歩に従って変化するものであると認めているのですね。

                          弁護士 渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 15:34| 両性の平等

2013年09月21日

明治民法〜 婚姻制度(その1)

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次に婚姻についての規定を見てみましょう。

・「第750条
家族が婚姻または養子縁組をなすには戸主の同意を得なければならない。」
  この戸主の同意権は条文は存在していますが絶対の婚姻要件ではなかったようです。梅教授によれば「殊に婚姻にあっては男女互いに相恋愛する場合において、戸主の同意がないばかりに婚姻することができないという如きは、徒に私通を奨励し、あるいは少年の男女をして一生を誤らしめ、甚だしきに至りては、情死を促すかのようなこともないわけではない」というような事情も考慮されたようです。
 つまりは梅教授のような法律の大家が心配しなければならないほど、「情死」「無理心中」は当時社会問題になっていたのでしょうね。

・「第765条
男は満17歳、女は満15歳に至らざれば婚姻をなすことを得ず。」
 梅教授によれば、この明治民法ができるまではこのような制限規定はなかったそうで、「従来は12歳、13歳の童男女にして事実上の婚姻をなすこと敢えて稀ではなかったようであるが、早婚の弊はつとに識者の認めるところであり、人種改良のためにも風俗のためにも禁止せざるを得ない」ということです。具体的なことはこれ以上書いていないので、推測するしかありませんが、女の子の妊娠が医学的にも不適切であること、あるいは幼女が性風俗の犠牲になることなど、いろいろな問題があったと考えられます。
現在の民法第731条にも「男は18歳に、女は16歳にならなければ婚姻をすることができない」と同趣旨の条文があります。しかし、このように婚姻年齢が男女で違っていることも問題だと指摘されています。

・「第767条
女は前婚の解消または取消の日より6ヶ月を経過したるにあらざれば再婚することができない。 」
 梅教授は「本条の規定は血統の混乱を避けるためのものだ」と説明しており、現在の民法でも、733条では、「女は前婚の解消または取消の日から6ヶ月を経過した後でなければ、再婚することができない」とそのまま生き続けています。
 この条文は女性に対してのみ婚姻の自由を制限するものであって、婚姻における女性差別だと思われますが、平成7年12月5日最高裁判所は、この条文が憲法14条1項に違反していないという判決を出しました。しかし、仮に父親と子の血統を重視するということであれば、現在はDNA鑑定により容易に決着がつく問題です。従って女性のみに不利益を課すような待婚期間制度は、憲法24条及び憲法14条に違反していると思われます。

・「第772条
子が婚姻をするには、その家にある父母の同意を得なければならない。
  但し、男が満30歳、女が満25歳に達した後はこの限りではない。 」
 梅教授によれば「婚姻は人間の一大重事なので少年の男女が互いに婚姻することを欲するも、将来当事者のために不幸になる場合が少なくない。父母の同意を要件にしたのは、第1に本人の利益ためである」と言っています。しかし、「この父母の同意について、永久かつ絶対に要するかどうかについては、各国は一様ではなく、外国においては成年者にはこの同意を必要としない傾向もある。しかし我が邦においては、父母の権力を重視することは欧米諸国を越えているので、このような規定にした」と説明しています。

・「第775条」
@ 婚姻はこれを戸籍吏に届出るによりてその効力を生ず。
A 前項の届出は、当事者の双方に成年の証人二人以上より口頭にてまたは署名した書面をもってこれをなすことを要する。            」

現在の民法739条でも、「婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出たることによって、その効力を生ずる。前項の届出は当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、またはこれらの者から口頭でしなければならない」という内容になっています。
ところでなぜこのような手続きを婚姻の要件としたのでしょうか。梅教授によれば次のようです。「明治8年の太政官通達や、明治10年の司法省通達によっても実際に登録手続きが行われてこなかった。実際の慣習においては上流社会といえども、まず事実上の婚姻をし、その後数日乃至数ヶ月を経て届けをなす者は10人中8・9人いた。況んや下等社会にあっては届けをしない者が非常に多い。このような状態では、神聖なる婚姻と私通との混同する虞があり、到底文明国の採用するものではない。かといって一朝一夕に欧州諸外国のような複雑な手続きにしようとしても、到底実際に行われることはない。故に手続きは最も簡易なもので実行を期待することができるようなものにした」
と、ここまで読むと、まず「婚姻」と「私通」とをいきなり比較することに違和感を覚えます。そして、次には、当時の欧州諸外国の婚姻手続きはそんなに複雑なものだったのかしら、という疑問を持ってしまいます。

実は、明治民法にはそれ以外にも婚姻の要件はたくさんありますし、現在の民法にも同様の規定はあります。例えば、重婚禁止(明治766条:現732条)、近親者間の婚姻禁止(明治769条:現734条)、直系姻族間の婚姻禁止(明治770条:現735条)、養親子等の間の婚姻禁止(明治771条:現736条)などです。
婚姻の要件について、明治民法と現在の民法を比較すると、「戸主の同意」「親の同意」など家制度に関連する規定以外については、ほとんど変わっていないという印象を受けました。

弁護士 渥 美 玲 子

posted by 金山総合法律事務所 at 16:23| 両性の平等

2013年09月10日

外国の憲法にみる家族条項

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自民党の憲法改正案の中には、憲法第24条の改正も含んでいます。
そこで、世界の国の女性や家族に関する規定を少し調べて見ました。そうすれば世界の水準というものが見えてくるかもしれないと思いました。
 とは言っても、「解説世界憲法集」(三省堂)や「世界憲法集」(岩波文庫:初版・第2版)の範囲内ですから、たいしたことありませんが。

A) アメリカ合衆国
  現行の合衆国憲法は1788年に成立し、その後は修正○条として存在しています。
修正19条には「合衆国市民の選挙権は、合衆国またはいかなる州も性別を理由として、これを否定しまたは制約してはならない」というものがありますが、これは1920年に成立しています。これだけしかありません。日本国憲法14条に該当するような条項もないようです。


B) フランス1958年憲法
  現行のフランス憲法は、第5共和国憲法またはドゴール憲法とも言われ、1958年に成立していますが、この中には明文で性差別を禁止する条項はまったくありません。
 但し、前文では「フランス人民は、1789年宣言により規定され、1946年憲法前文により確認かつ補完された人の諸権利と国民主権の諸原理に対する至誠、及び2004年環境憲章により規定された権利と義務に対する至誠を厳粛に宣言する」とあります。
  ご存じのように1789年のいわゆる人権宣言は男性に限定された宣言で、女性は埒外だったので、1946年憲法の前文にて「法律はあらゆる領域において、女性に男性と平等な権利を保障する。」「国は個人と家族にその発展に必要な諸条件を保障する」などと規定されました。これらの規定は「前文」ですが、「憲法院が前文で言及された人権文書を根拠にして法律の審査をするに至り、1789年の人権宣言や第4共和国憲法前文が憲法的効力をもつ規定としてよみがえった」ということです。


C) ロシア連邦憲法
  1945年当時はロシアはソビエト社会主義共和国連邦で、1936年に制定されたいわゆるスターリン憲法でしたが、1977年には改編されました。1991年12月現在のロシア連邦が成立し、憲法は1993年12月に国民投票にて決定されました。ソビエト当時の憲法ではその第1条にて、「労働者、農民およびインテリゲンチャ、国のすべての民族および民族的集団の勤労の意思と利益を表現する、社会主義的全人民国家である」と規定されていましたが、現行のロシア憲法第1条では、「ロシア連邦は共和制の統治形態をとる民主的な連邦制法治国家である」と規定されており、もはや社会主義を取らないことは明らかです。
女性や家族に関する条項を見てみます。

第7条
@ ロシア連邦は社会国家であり、その政策は相応な生活と人間の自由な発展を保障する条件を創り出すことを目的としている。
A ロシア連邦では労働と人々の健康が保護され、最低労働賃金が保障され、家族、母性、父性、児童、障害者および高齢者への国家による支援が保障され、社会的サービスの制度が展開され、なおかつ国家による年金、扶助およびその他の社会的な保護が設けられる。

第19条
@ すべての者は法律および裁判所の前に平等である。
A 国家は性別、人種、民族、言語、出身、財産および職務上の地位、居住地、宗教へのかかわり、信条、社会団体への帰属、ならびにその他の状況にかかわらず、人および市民の権利と自由を保障する。社会的、人種的、民族的、言語的または宗教的な帰属を指標とした市民の権利の制限はいかなるものであれ、禁止される。
B 男性と女性は同等な権利を有し、その行使において同等な可能性を有する。

第38条
@ 母性および児童、家族は国家の保護下にある。
A 児童とその養育への配慮は両親の平等な権利であり、かつ義務である。
B 18歳に達した労働能力のある子は、労働能力のない両親に配慮しなければならない。


D) 中華人民共和国憲法
  この国は1949年にできました。現行憲法は1982年12月に公布、施行されました。この憲法の「序言」には中国が社会主義を取っていることを鮮明にし、「国家の根本任務は中国的特色の社会主義の道に沿って力量を集中して社会主義現代化建設を進めることにある」と明記しています。
女性や家族に関する規定はこのようになっています。

第48条
@ 中華人民共和国の女性は政治、経済、文化、社会および家族の生活等の各方面において男性と平等の権利を享有する。
A 国家は、女性の権利及び利益を保護し、男女同一労働同一報酬を実行し、女性幹部を養成し及び選抜する。

第49条
@ 婚姻、家庭、母親及び児童は国家の保護を受ける。
A 夫妻双方は計画出産を実行する義務を有する。
B 父母は未成年子女を扶養し、教育する義務を有し、成年子女は父母を扶養する義務を有する。
C 婚姻の自由を破壊することを禁止し、高齢者、女性及び児童を虐待すること禁止する。


E) ドイツ連邦共和国基本法
  ドイツは敗戦によりイギリス、アメリカ、フランス、ソ連の4カ国の分割統治の下に置かれましたが、各ラントで憲法が次々と生まれました。1948年にはボンにて議会評議会ができて、基本法が検討されるようになりました。そして、1949年5月23日に公布され、「ボン基本法」とも呼ばれているそうです。
 女性と家族に関する条項です。

第3条
@ すべて人間は法律の前に平等である。
A 男性と女性は同権である。国は女性と男性の同権が現実に達成されることを促進し、現に存在する不利益を除去すべく働きかけるものとする。
B 何人も、その性別、出自、人種、言語、故郷及び門地、信仰、宗教または政治的な見解を理由として不利な取扱を受け、または有利に取り扱われてはならない。何人も、その障害を理由として不利な取扱を受けてはならない。

第6条
@ 婚姻及び家族は国家的秩序により特別な保護を受ける。
A 子どもの保護及び教育は親の自然の権利であり、まずもって親に課せられた義務である。この義務の遂行については国家共同体がこれを監視する。
B 子どもは親権者に故障があるとき、又は子どもがその他の理由から放置されるおそれがあるときには、法律の根拠に基づいてのみ親権者の意に反してこれを家族から引き離すことが許される。
C すべて母親は共同体の保護と扶助を請求することができる。
D 婚外子に対しては立法によって肉体的及び精神的発達について、並びに社会におけるその地位について婚内子と同様の条件が与えられなければならない。


F) イタリア共和国憲法
  1943年ムッソリーニ政権が倒れ、イタリアは連合国に降伏しました。1946年6月に君主制か共和制かを問う人民投票が行われ、共和制が決定されました。憲法制定議会では、キリスト教民主党、社会党、共産党の3大政党が中心になり、1947年12月に採択され、1948年1月から施行されたということです。
いろいろな規定があります。

第3条
@ すべての市民は等しい社会的尊厳をもち、法律の前に平等であり、性別、人種、言語、宗教、政治的意見、人的及び社会的条件によって差別されない。
A 市民の自由と平等を事実上制限し、人格の完全な発展及び国の政治的、経済的、社会的組織へのすべての勤労者の実効的な参加を妨げる経済的・社会的障害を除去することは共和国の責務である。

第29条
@ 共和国は、婚姻にもとづく自然共同体としての家族の権利を認める。
A 婚姻は、家族の一体性を保障するために法律で定める制限の下に、配偶者相互の倫理的及び法的平等に基づき、規律される。

第30条
@ 子供を育て、教え、学ばせることは両親の義務であり権利である。子供が婚外で生まれたものであっても同じとする。
A 両親が無能力の場合は、前項の任務を果たすものを法律で定める。
B 婚姻外で生まれた子供に対する法的および社会的保護は法律で定める。この保護は適法な家族の成員と両立するものである。
C 父の捜索に関する規定とその制限は法律で定める。

第31条
@ 共和国は、経済的および他の措置により、家族の形成およびそれに必要な任務の遂行を助ける。大家族に対しては、特別の配慮を行う。
A 共和国は母性、児童、青年を保護し、この目的に必要な施設を助成する。

第37条
@ 女子勤労者は男子勤労者と同じ権利を有し、等しい勤労につき同じ報酬を受ける。その勤労条件は、女子に不可欠な家政の遂行を可能とし、母親と幼児に特別の適切な保護を保障するものでなければならない。


G) 感想
  以上、わずか6つの国しか見ていませんが、女性や家庭、子どもの権利条項について、非常に大きな違いがあることが分かります。私は憲法学者ではないので、単なる推測の域をでませんが、おそらくアメリカやフランスは第2次大戦においては戦勝国でしたから、自国の憲法を見直すという契機がなかったのでしょう。
 また、ロシア連邦や中華人民共和国は第2次大戦後新たに成立した国家ですが、社会主義的な色彩を持っていますので、「母性、児童、家族は国家の保護下にある」(ロシア:38条)あるいは「婚姻、家庭、母親、児童は国家の保護を受ける」(中国:49条)というように国家の保護を明確にしています。他方、両国とも「両親に対する配慮義務」(ロシア:38条)あるいは「父母の扶養義務」(中国:49条)を規定しているのは、なぜでしょう。
  それに引き替え、ドイツ、イタリア、日本は、反ファシズムや反軍国主義の立場から、第2次大戦後、新憲法を制定しています。
 この3つの国の中で一番簡単なのは日本で、一番条項が多いのはイタリアです。
 例えば、今年9月4日最高裁判所で判決がでた「婚外子」の問題については、すでにドイツやイタリアは憲法でその平等を謳っています(ドイツ:6条、イタリア:30条)が日本の憲法にはありません。ベアテによれば、いろいろな条項を考えたが、上官によって拒否されたとのことです。GHQ民政局は、アメリカ合衆国が実権を握っており、アメリカは自分の生命や自由は自分で守ることを国是としているような国であることを考えれば、「婚姻・母性・子どもを国が保護する」などという発想はなかったものと思われます。むしろアメリカには存在しない24条のような条項を入れることに同意したということの方が驚きかもしれません。
それに比べて、イタリアは第2次大戦後、キリスト教民主党、社会党、共産党の3つの党が国民の4分の3の支持を集めており、憲法制定議会においてもカトリック勢力と共産主義勢力が議論を指導しました。このように社会主義を重視する政党が憲法制定に加わっていたので、当時の社会主義的な考え方を取り入れられたのでしょう。例えば第1条には「イタリアは労働に基礎を置く民主的共和国である」と書かれていますが、この条項はマルクス主義の影響を受けていると言われています。また、第31条では「共和国は母性、児童、青年を保護し、この目的に必要な施設を助成する」と規定しており、ロシアや中国の憲法と似ているところがあります。さらに第37条では「同一労働同一賃金原則」を規定していますが、中国の憲法(中国48条)にもあります。もっともイタリア憲法37条の「その勤労条件は女子に不可欠な家政の遂行を可能とし」という役割分担論は不要だと思いますが。
両性の平等、子どもの養育、家族のあり方などについて、どのように憲法で規定するかは、なかなか難しい論点ですが、自民党の改正草案を検討するひとつの基準にはなると幸いです。
                       弁護士 渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 13:18| 両性の平等