2017年04月10日

トヨタ自動車 〜その1 世界第1位〜

トヨタ自動車 〜その1 世界第1位〜
弁護士 渥美玲子

愛知県で生まれ愛知県で生活していると、嫌でも「トヨタ自動車」という企業名を目にしたり聞いたりする機会が多い。
新聞では、トヨタ自動車の自動車販売数が世界1位だとか,2位に落ちたとかいうニュースが出ていて「トヨタ」の会社名は世界的に有名であるが、2017年1月5日、トランプ大統領がツイッターで、「トヨタ自動車は米国向けのカローラを生産する工場をメキシコのバハに新設すると言っている。とんでもない。米国に工場を建設しろ、さもなくば高い関税を支払え」と、トヨタを名指しで批判したことから、さらに有名になった。そのため少しトヨタのことを調べてみた。

 トヨタ自動車工業(旧社名)の前身が豊田自動織機であることは歴史の教科書にも書いてあって余りにも有名であるが、自動車会社として設立されたのは1937年(昭和12年)8月とされている。
愛知県に豊田市という町があるが、昔は「挙母市」(ころもし)という名だった。ところが1959年(昭和34年)になって豊田自動車工業株式会社の本社が挙母町に置かれたことから、「挙母市」を「クルマの町」として成長させるという趣旨で、トヨタ自動車の創業者一族の姓をとって、「豊田市」に変えたそうである。以後、「豊田市」は「トヨタ」の「企業城下町」と呼ばれるようになり、市民の生活はトヨタに左右されるようになったという。現在では「トヨタ自動車株式会社」が正式社名であり、本社は豊田市トヨタ町にある。
トヨタ自動車工業は成長し今では世界的な規模を誇るようにもなったが、特に1973年(昭和48年)秋のオイルショックの頃から、「その後の低成長経済のなかでトヨタ自工の業績が他社に比べて相対的に良く、不況に対する抵抗力が強いことが認識されるようになった」という。そのため「トヨタの企業利益の根源はなにか」が研究対象にされた。自動車の大量生産方式としては「フォードシステム」が有名であったが、トヨタは「トヨタイズム」や「カンバン方式」という新たな大量生産方法を採用したことで一躍知れ渡った。また「ジャスト・イン・タイム」という生産工程について徹底的に無駄を省くシステムや、労働者に残業を強要する「QC(品質管理)サークル活動」なども有名であろう。このようにトヨタシステムは当然のことながら単に工場内部のことにとどまらず、労働者の働き方や生活、下請け企業の在り方などに大きな影響を及ぼしている。

ところでトヨタの工場はもちろん愛知県をはじめとして日本国内にたくさんあるが、結構昔から海外生産をしていたようで、1958年(昭和33年)にはブラジルに会社を設立し、翌年に生産を開始している。ブラジルになった理由について、トヨタのホームページをみると「豊富な天然資源に恵まれ、後進地域の中ではもっとも所得が高く将来の市場性が高いこと、戦前から日本からの移民も多く日本製品に対して好意的であることに加えて、同国が自動車国産化法を準備していたことから製造会社設立に踏み切った」と記載している。
 そして、1980年代中頃からは世界のボーダーレス化に伴い、ヨーロッパ中心に急速に拠点数が増え、2016年12月現在は、世界28ヶ国・地域に53の生産工場があり、トヨタ車の販売店は海外170ヶ国・地域にあるという。まさにグローバルな展開を見せている。

 このような世界的な販売網の展開により特にアメリカとの関係では大きなトラブルを招いていた。
 1980年(昭和55年)には日本の自動車生産は1000万台を突破しアメリカを抜いて世界一になり、トヨタの自動車の輸出も1980年に乗用車が100万台を越え、過去最高記録となったという。他方、アメリカでは、ゼネラルモーターズ(GM)社、フォードモーター社、クライスラー社のビッグ3などが軒並み赤字に転落したことで、いわゆる日米貿易摩擦が起きた。1980年6月にはアメリカ国内の失業者が急増した原因が日本車であるとの理由で、米国国際貿易委員会(ITC)に提訴し、同年8月にはフォード社も同様の訴えを起こしたそうである。この訴えについては日本車の責任ではないとの裁定がなされたが、1981年(昭和56年)1月にドナルド・レーガンが大統領に就任すると、日本政府に対し輸出の自主規制を求める声が上がり、日本製乗用車の輸入規制が始まったという。
1993年に発足したクリントン大統領政権時代にも自動車および自動車部品の分野は「日米包括協議」の重要な課題となり、交渉は長期化したものの、1995年6月には合意に達し、トヨタは、生産の「現地化の促進」と「輸入の拡大」を柱とする新国際ビジネスプランを発表し、海外生産を加速するとともに海外での販売における海外生産車の比率を1994年実績の48%から1998年には65%に引き上げることにしたという。
その後、米国での現地生産の拡充、米国市場に適合した新モデルの投入、販売網の整備など進めて販売台数は大きく上昇し、1988年の90万台強から1990年には105万台、2004年には206万台、2007年には262万台に増え、販売台数は2006年にはクライスラー社を上回り、2007年にはフォードモーター社を抜き、ゼネラルモータース社に次ぐ北米2位になった。
このようにトヨタはアメリカとの間で貿易摩擦というトラブルを持ちながらも、「グローバル企業」へと大きく成長してきたのである。
なお、トヨタの社史については、トヨタのホームページで「トヨタ自動車75年史」がアップされているので、詳細はこれをご覧頂きたい。ちなみにトヨタの社史は、西暦が主で、括弧書きで元号が記載されている。日本の裁判所の文書では、未だに元号になっていることとつい比較してしまう。

2016年世界自動車販売ランキングTOP10では次のようになっている。
10位 スズキ           288万台
 9位 プジョー・シトロエン    297万3000台
 8位 フィアット・クライスラー  461万台
7位 ホンダ   471万台
6位 フォードモーター 663万5000台
 5位 ヒュンダイ自動車グループ 776万台
 4位 ルノー・日産アライアンス 852万8000台
 3位 ゼネラルモーターズ 984万台
 2位 フォルクスワーゲングループ 993万台
1位 トヨタグループ 1015万1000台

トヨタの財政状況は,2016年3月末現在次のようになっている。
売上高   単独 11兆5858億円
連結 28兆4031億円
営業利益 単独  1兆4021億円
連結  2兆8539億円
純利益 単独  1兆8103億円
連結  2兆3126億円
純資産 単独 10兆8594億円
連結 18兆0881億円
総資産 単独 16兆1002億円
連結 47兆4275億円
従業員数 単独   7万2721人
連結  34万8877人

トヨタ自動車単独だけでも大きな収益になっているが、連結財務諸表で企業グループをみると、本当に巨大企業グループであることが分かる。
        (続く)

posted by 金山総合法律事務所 at 14:55| 重要判決

2017年04月07日

退所のお知らせ

今まで一緒に活動していた山下陽平弁護士が2017年3月末をもって当事務所を退所し、名駅総合法律事務所に移籍しました。

山下弁護士に対する今までのご厚情に感謝するとともに、今後も当事務所に対し手の変わらぬご指導・ご鞭撻をお願い致します。
posted by 金山総合法律事務所 at 13:50| スタッフより

2016年12月23日

イタリアの憲法改正の国民投票 〜その2〜

          イタリアの憲法改正の国民投票〜その2〜

レンツィ首相が提案した憲法改正案はネットで公表されており、プリントアウトしたところなんとA4版で22ページになった。私の経験では、日本語をイタリア語に翻訳するとページ数が約1,5倍になるから日本語でも15ページ位にはなる長文である。
この憲法改正法律は2016年4月18日に公布されて、12月4日に国民投票というのであるから、国民が熟知する期間としては短いのではないかとの疑問があるところではある。

イタリアの憲法の条文は全部で139条あるが、今回の改正案では、国会の章の55条から始まって、57条、59条、60条、63条、64条、66条、67条、69条、70条、71条、72条、73条、74条、75条、77条、78条、79条、80条、82条、大統領の章83条、85条、86条、88条、内閣の章94条、96条、97条、99条、州・県・コムーネの章114条、116条、117条、118条、119条、120条、122条、126条、憲法保障の章135条が改正の対象になっており、統治機構全般に及んでいた。

改正の一番大きなポイントは、立法機関の「両院制」「二院制」の変更である。

二院制は世界の多数の国で採用されており、日本でも衆議院と参議院として「二院制」が採用されているのは周知のとおりである。ただ、世界の制度を比較する上で、国民の選挙によって組織される議院は通常「下院」と呼ばれ、そうでない方を「上院」と呼ぶのが普通である。そのため、ここではイタリアについても「代議院(カメラ)」を「下院」、「元老院(セナト)」を「上院」と呼称することにする。
ところで、2院の関係については、日本では両院は対等ではなく、衆議院の優越性が認められている。例えば、憲法69条では「内閣は衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」として内閣に対する信任・不信任の決議権が衆議院のみに認められているし、憲法60条では「予算はさきに衆議院に提出しなければならない」と規定されている。また法律案については憲法59条で「衆議院で可決し、参議院でこれと異なった議決をした法律案については、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、法律となる」とされており、同様の規定は予算の議決(60条)や条約の国会承認(61条)などについても衆議院の優越的地位が認められている。

ところがイタリアの憲法には、そのような条文が存在しない。
 例えば、70条では「立法権能は両議院が共同して行使する」と規定し、また72条では「1議院で提出された法律案は、その議院規則の定めに従い、委員会で、次いで本会議で審議される。本会議は法律案を逐条採決し、最後に法律案全体の表決を行う。」というような規定がある程度である。つまり下院と上院の間で、議決結果が異なった場合の調整規定が存在しない。
 レンツィ首相は、このことを「法律案がピンポンのようにいつまでも両院の間を行ったり来たりする。このようなシステムは世界中でイタリアにしかない。」として、まさにこのシステムが政治の決定を遅らせているとし、さらに戦後70年間に政府が63回も交代するというような不安定な政治状況を作ってきたのだと主張した。そのためレンツィ首相の提案の中心は、「完全に対等な二院制」を廃止することであった。
具体的にどのような改正案を提案したのか、一部についてではあるが、見てみたい。

イタリア憲法55条
 この条文は「第2部 共和国の組織 第1章 国会 第1節 両議院」という節の最初の条文で、現行憲法では「国会は下院と上院で構成される。国会は憲法で定める場合にのみ、両議院の議員の合同会議を開く」と規定されている。
この条文についての改正案は次のとおりだった。

「・国会は下院と上院で構成される。
 ・下院での選挙手続を定めた法律は、代表者における女性と男性の間にはバランスを促進する。
・下院の各議員はイタリアの国を代表する。
・下院は、政府との信頼関係において正当な資格者であり、政治を方針付ける権限、立法権限、政府の執行を監視する権限を行使する。
・上院は地域団体を代表し、上院と共和国の憲法上の他の団体との関係において権能を果たす。憲法により定められた手続によりそれらの事柄において立法権限に参加する。さらに国家や憲法上の他の団体とヨーロッパ連合との間における連絡をとりもつ権限を行使する。形成や規則の実行、ヨーロッパ連合の政治的な実行に対する直接的な決定に参加する。公共の政治や行政の政治的な活動を評価する。その領域におけるヨーロッパ連合の政治的な影響を確認する。法律により予測された場合について政府の権限を任命することについての意見を表明することや、国の法律の実行の確認することに対して協力する。 
・国会は憲法で定める場合にのみ両議院の議員の合同会議を開く。 」

誤訳もあると思うが、それを前提にしても、上院の権限であるところの立法権が大きく制約された存在になることは明らかである。私としては、レンツィ首相は実質的な一院制を目指していたのではないかと思う。

 イタリア憲法57条
 現行憲法では、上院の選挙方法などに関する規定であり、「州を基礎として選出される。定数は315、但し、そのうち6は海外選挙区」、などと規定されている。
 ところが、改正案は「上院は、地域の代表者からなる95議席と、大統領の任命による5議席によって構成される。」などというものだった。
つまり上院の議席数315を100に減らすが、上院議員は国民による選挙を経ないということであり、まして5議席は大統領が任命することができるというのである。
このような選出方法は国会議員の通常の選出ではないと思われる。
 
イタリア憲法60条
 この条文は議員の任期に関する規定で「下院上院の任期は5年とする」とされているが、改正案では、下院のみに適用されることになり上院の議員は、除外された。

 イタリア憲法70条
 この条文は、「第2節 法律の制定」の節の最初の条文で「立法権能は両議院が共同して行使する」と規定している。
この条文の改正案は次のとおりである。
「・以下の法律については、立法権限は下院と上院によって共同して行使される。
  憲法改正法律、憲法に関連する他の法律
   言語上の少数者を保護するもの、国民投票、71条の国民審査の別の方法に関する憲法の要求する法律の策定、
   大都市とコムーネにおける組織・選挙法・地方機関及び基礎的な権限について決定する法律とコムーネの合併を形作る基礎的な支持
   ヨーロッパ連合の政治と法律を定め及び実行することについてイタリアの参加についての一般的な規則及び方法と限界を定める法律
   憲法65条第1項によって上院の被選挙権の欠格及び兼職禁止についての決定。
   そして次の法律:57条第2項、80条第2文、114条第3項、116条第3項、117条第5項及び第9項、119条第6項、120条第2項、122条第1項、132条第2項。
   それぞれの内容により、これらの法律は廃止、当該項の規範に適応された法律によって改正もしくは委任されることができる。それは新しい法律によってのみできる。
 ・以上の以外の法律は下院によって制定される。
 ・下院によって制定された各法案は直ちに上院に回付される。
  上院は10日以内に、その議員の3分の1の要求があれば、検討するかどうか決定することができる。
 ・次の30日のうちにおいて上院は法案の修正の提案を決定することができる。
  その訂正の提案について下院が確定的に決定する。もし上院は検討を始めることを決定しない場合には、もしくは決定するための期間を徒過した場合には、または下院が最終的に確定的に決定した場合には、法律は発効する。
 ・117条第4項によって策定された法律を上院が検討することは、それを受け取ってから10日以内に決定されねばならない。その法案に関しては上院の全議席の過半数によって提案された修正案に対して、下院は全議席の過半数によって最終決定により同意しないことができる。
 ・下院によって適用されたところの81条第4項の法案は上院によって検討され、下院から与えられた日から15日以内に修正案を決定することができる。
 ・上院及び下院の議長は協議の上、それぞれの議員規則に従って、権限の問題を提起することを決定する。
 ・上院は、その規則によって予想されるところに従って、下院の活動及び資料について論評することができる。 」

誤訳は間違いなくあると思うが、この70条は、現行ではたった1行であるにもかかわらず、改正案は非常に長く、意味不明な箇所も多い。私としては、どうしてこんな冗長憲法案にしたのかと疑問に思う。

以上あげた条文の他に、多くの重要な条文が改正対象とされているが、上院から立法権限を奪ったことにより、「国権の最高機関」とも言うべき立法府の権限を半減させたことは明白であろう。
 すでに述べたようにイタリアでは大統領も内閣総理大臣も選挙による民主主義的な手続を経ないのであるから、このように実質的に一院制にすることはイタリアの民主主義にとって良いことなのか、という大きな問題をもたらすのである。

実際2016年6月頃から憲法改正案については反対意見が強くなり、否決される観測がすでに出ていた。このためもあり、中道左派の民主党の一部、中道右派のベルルスコーニなど、極左、極右、5つ星運動など幅広い層から「NO」を突きつけたのであった。

 ところで、このように二院制を廃止して、実質的に一院制を採用するという憲法改正案は、実は、レンツィ首相が初めて提案したわけではない。
2006年6月には憲法改正のための国民投票が行われたが、このときの憲法改正案は、ベルルスコーニ内閣が2003年に上院に提案し、2005年に下院で可決されたときの国民投票である。ところが2006年の総選挙で中道左派のブローディが勝利して政権交代があっため、結局、国民投票では反対が61.3%を占め、否決された。
このときベルルスコーニが提案した憲法改正案は、首長公選制などの提案もあったが、その一つが完全に対等な二院制の廃止であり、立法権限や首相との信任関係は下院のみにし、上院は州などの代表者にして国と州の関連事項の審議のみにするという案だった。これによりベルルスコーニは強い政府を作ることを目的としていたのである。
10年前に中道右派のベルルスコーニ首相が提案した「完全に対等な二院制を廃止する」という憲法改正案が、その10年後に中道左派とされるレンツィ首相によって再び提案されるという政治的状況を、どのように考えるのか、悩ましい問題である。しかし反対60%という結果を見る限りイタリア国民の民主主義についての意識にはブレがなかったと言えよう。

弁護士 渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 10:14| イタリアの風

2016年12月13日

イタリアの憲法改正の国民投票〜その1〜  

          イタリアの憲法改正の国民投票〜その1〜
 
2016年12月4日、イタリアで憲法改正の是非を問う国民投票が行われた。投票率は65.47%、結果は「反対」が59.11%、「賛成」が40.89%で否決された。20州の中では、トスカーナ州、エミリア州、トレンティーノ州のみが「賛成」で、それ以外の州では「反対」が過半数を制した。
首相のマッテオ・レンツィ氏は、以前から「この投票は自分に対する信任投票であるから、もし否決されたら辞任する」と公言していたこともあり、選挙結果が明らかになった12月5日に辞任を発表した。
その後のイタリアの政局や市場については新聞報道のとおりであるが、私としては、今回レンツィ首相が政治生命を賭けた憲法改正の提案内容について、少し考えてみたい。

まず、イタリア共和国憲法(以下、単にイタリア憲法という)では、改正手続は次のようになっている。なお、イタリア憲法の訳については、「解説世界憲法集」(三省堂)を参考にした。

憲法138条
「憲法改正法律及びその他の憲法的法律は各議院において少なくとも3ヶ月の期間をおいて引き続き2回の審議をもって議決される。そして第2回目の表決においては各議院の議員の過半数によって可決される。
 前項の法律はその公布後3ヶ月以内に1議院の議員の5分の1、50万人の有権者または5つの州議会からの要求があるときは、国民投票に付される。国民投票に付された法律は有効投票の過半数で可決されない限り、審議されない。
 第1項の法律が各議院の第2回目の表決において、その議院の3分の2の多数で可決されたときは、国民投票は行われない。」

 「各議院」とは、「代議院」(下院のこと、カメラと呼ばれている)と「元老院」(上院のこと、セナトと呼ばれている)の2つの議院をさす。レンツィ首相の憲法改正案は、この条文に従って手続が進み、2016年4月12日に下院で再度可決され、4月18日に憲法改正法律として公布された。その後、憲法裁判所によって、国民投票に必要な50万人の署名が有効であると認められた。
ところで、今回の投票はあくまでも憲法改正の是非を問うものであったにもかかわらず、レンツィ首相は「自分に対する信任投票だ」と位置づけたが、なぜ、その必要があるかは、日本人には少し分からないところがあったように思う。

日本の首相つまり内閣総理大臣は、日本国憲法67条で「内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。」と規定され、またその他の大臣については憲法68条で「内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は国会議員の中なら選ばなければならない。」とされている。
 このような内閣と国会に関する制度は「議院内閣制」と言われ、「権力分立の要請にもとづいて行政権と立法権をいちおう分離したのちに、さらに民主主義の要請にもとづいて行政権を民主的にコントロールするために設けられた制度であって、ここでは自由主義の原理と民主主義の原理が交わっている。議院内閣制とは国会と内閣との関係において国会に内閣の存立を左右するほどの優位が認められ、内閣の成立と存続とが、国会の意思に依存せしめられている制度をいう」とされる(憲法T 清宮四郎)。

ところがイタリアの首相はこのような選任手続を経ない。
 イタリア憲法92条では、「大統領は内閣総理大臣を任命し、さらにその提案に基づき各大臣を任命する」と規定しているが、イタリアにおける大統領は、例えばアメリカ合衆国におけるように国民の選挙によって選任されるものではない。
 イタリア憲法83条では「大統領は国会議員の合同会議において選挙される。」と規定し、しかも大統領の被選挙権についてイタリア憲法84条では、「50歳に達し、市民権および参政権を有するすべての市民は大統領に選挙されることができる」と規定しており、国会議員であることを要件とはしていない。
大統領から任命された後については、イタリア憲法94条では「政府は両議院の信任を有しなければならない。政府は成立後10日以内に両議院に対して信任を求めなければならない。政府の提案に対する1議院または両議院の反対表決は政府の辞職の義務を伴うものではない。」との規定があるが、国会との関係は薄く、民主主義的性格は弱いものと言わなければならないだろう。
 つまり、イタリアの内閣総理大臣は、国民から選挙されることのない大統領から任命されるだけの存在なのであるから、国民の信任がないままで就任するのである。国民からみれば、国会議員を選挙で選ぶ機会が保証されているに過ぎず、その後、誰が大統領になるか、誰が内閣総理大臣になるかは、まったく関知しないところで決定されるのである。イタリア国民とすれば「レンツィ?それ誰?」という感覚なのであろう。ちなみに、レンツィ氏は2014年2月にナポリターノ大統領から任命された当時、フィレンツェ市長で、中道左派民主党の書記長だった。

さらに日本の首相とイタリアの首相とは大きな違いがある。
日本では内閣総理大臣は慣例上、衆議院議員である。衆議院議員の任期は憲法45条で「衆議院議員の任期は4年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に修了する」と規定されているから、長くても4年後には任期満了に基づく総選挙によって国民の信を問い直すことになる。また、内閣総理大臣が国政における重要課題について国民に信を問う場合には、憲法7条および69条により衆議院を解散することができるから、解散総選挙により国民の信を問うことになる。
他方、イタリアでは内閣総理大臣の任期も国会の解散権もないので、国民の信を問う機会がない。そのため行政の長として、国政の重要課題について国民の信を問う手段としては「国民投票」という方法しかない。イタリアでは頻繁に国民投票がおこなわれるが、その制度上の背景は上記のようなものと思われる。このためイタリアの国民投票制度は、「おうおうにして対立する政党間の政争や駆け引きの場になる」と言われている。
なお、国会に対して解散を求めることが可能なのは、内閣総理大臣ではなく、大統領であって、イタリア憲法88条には「大統領は、その議長の意見を聞いて、両議院またはその1議院のみを解散することができる。大統領は、その任期の最後の6ヶ月間は、前項の権能を行使することができない」と規定されている。

今回のレンツィ首相の憲法改正案には、国会の権能を弱くする提案があるが、まさにそのことが、国民の選挙による信任を得ずに首相になった者に対する不信感として表れたのではないかと思う。ただし、レンツィ首相が敗北したとはいえ、40%の支持を得たという事実も見逃すことはできないのであって、今後のイタリアの状況は予断を許さない。
                                              以 上
                            弁護士 渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 12:43| イタリアの風

2016年12月01日

刑事訴訟法等の一部改正

         刑事訴訟法等の一部改正 
                   〜盗聴拡大と司法取引
                                             
 平成28年5月24日に国会で刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立しました。これにより、通信傍受法(盗聴法)が拡大され、司法取引の制度が導入されることになりました。

今回の改正の発端となったのは、大阪地検特捜部の証拠改ざんが発覚した厚労省村木裁判のえん罪無罪事件でこの件は当時マスコミでも大きく報道されました。
 事件後、えん罪防止の観点から捜査の在り方について見直しの必要性が指摘され、約4年の歳月をかけて改正にいたったものですが、えん罪防止の方策はごく一部に留まり、逆に、新たな捜査手法として「盗聴の拡大」や「司法取引」を導入するなど、警察・検察の「焼け太り」と批判されています。見過ごせないのは、これによって新たなえん罪を作り出しかねないという、大きな問題を含んでいることです。

 えん罪防止のためには、日弁連などがかねてから強く主張していた取調べの可視化(録音・録画)が不可欠ですが、今回の改正では、裁判員裁判対象事件と検察独自捜査事件に限定されて導入されました。これは全事件の3%に過ぎません。

 他方で、証拠収集手段を多様化するとして盗聴法の対象が拡大されました。今までは、薬物・銃器犯罪、集団密航、組織的殺人の4種類しか認められていませんでしたが、組織性が疑われる詐欺、窃盗、恐喝、逮捕監禁など9種類を追加し、比較的軽微な犯罪にまで大幅に盗聴の範囲が拡大されました。
 そもそも盗聴は、憲法で保障された通信の秘密やプライバシー保護を侵害するもので、濫用の危険性が極めて高いものです。今回の改正では、これまで盗聴の要件とされていた通信事業者の立ち合いを不要としており、濫用をチェックする歯止めが極めて不十分な仕組みになっています。

 また、司法取引も非常に問題が大きいものです。今回導入された司法取引は、自己の犯罪を申告するのではなく、他人の犯罪について供述などの協力をすることと引き換えに、不起訴や刑の軽減をするというものです。ですから、自分の罪を軽くするために他人に罪をなすりつける虚偽供述のおそれがあり、えん罪を新たに作り出す危険性をもっています。この司法取引には弁護人の同意が条件とされていますが、自分の依頼者が他人に罪をなすりつける虚偽供述をしているのかどうかまでチェックし、その可能性があれば依頼者の意に反して司法取引を拒否できるのか、弁護人としての立場を考えると、極めて疑問といわざるを得ません。

 今回の改正では、国選弁護制度を全勾留事件に拡大し、証拠開示の対象に証拠目録を追加したほか、保釈許可の考慮要素(逃亡や罪証隠滅のおそれの程度、被告人の健康上・経済上・社会生活上・防御の準備上の不利益の程度)を明文化するなど、被疑者・被告人の防御権に配慮した内容も盛り込まれています。しかし、それにもまして、盗聴法の拡大と司法取引の導入は、大きな問題をはらんでいるといわなければなりません。
                   弁護士 山 下 陽 平
posted by 金山総合法律事務所 at 15:19| 法改正

2016年11月11日

日本は111位

          日本は111位

2016年10月26日、世界経済フォ−ラム(WEF)が「国際男女格差レポート2016」でジェンダーギャップ指数を発表しました。
丁度3年前に「日本は105位」ということで書きましたが、ランキングが上昇するどころか、6つも下がったのです。なんということでしょうか、
つまり、2016年、日本は144ヶ国中111位でした。

上位10位を見ると、1位アイスランド、2位フィンランド、3位ノルウェイ、4位スウェーデン、5位ルワンダ、6位アイルランド、7位フィリピン、8位スロベニア、9位ニュージーランド、10位ニカラグアで、北欧諸国が上位にランキングされています。
2016年5月に伊勢志摩サミットに集まったG7で見てみますと、ドイツ13位、 フランス17位、イギリス20位、カナダ36位、アメリカ45位、イタリア50位となっています。G7の中で日本は最低、しかも100位以下という悲惨な状況ですから、G7の仲間に入る資格はないと言えそうです。
 日本の順位を経年的にみると、2006年80位、2007年91位、2008年98位、2009年101位、2010年94位、2011年98位、2012年101位、2013年105位、2014年104位、2015年101位、そして2016年は111位という最悪の順位になりました。つまり日本の女性の地位は良くなっているどころか、悪くなっているのです。
つまり日本の男女格差の状況は、世界的比較で見ても、また経年的にみても最悪な状況になりました。

この指数は、男女格差が存在する4つの分野(経済活動の参加と機会Economic Partipation and Opportunity、教育Educational Attainment、健康と生存Health and survival、政治的影響力Political Empowerment)において男性と女性の格差をそれぞれ各国毎に分析したものです。
2016年の日本の総合ランクは111位ですが、経済活動の分野では118位、教育の分野では76位、健康と生存の分野では40位、政治的影響力の分野では103位でした。
この4つの分野にはさらに14項目の指標があります。経済の分野では「推定勤労所得Estimated earned income」が100位、「議員・政府高官・経営者Legislators,senior officials and managers」が113位、「専門的技術的労働者professional and tecnical workers」が101位、教育の分野では「高等教育Enrolment in tertiary education」が108位、政治の分野では「国会議員女性割合Woman in parlament」が122位という状況でした。
特に最低ランクの「国会議員女性割合」について平成28年の内閣府の発表によれば、平成27年12月末現在、衆議院では9.5%(45人)、参議院では15,7%(38人)という低さでした。また国家公務員の女性割合は本省課室長相当職が3.5%、指定職相当が3%、となっています。これでは女性の意見が政治に反映されないのは当然のことでしょう。

 このような日本の状況に比べてイタリアの状況は素晴らしいものです。2006年のランキングは77位と、日本の80位とほとんど同じだったのに、2016年にはなんと50位まで上昇しています。
 イタリアの2016年の4つの分野をみると、経済活動の分野では117位、教育の分野では56位、健康と生存の分野では72位、政治の分野では25位です。
経済活動の分野では日本は118位ですから、イタリアでもほぼ同じように男女格差があるといえますが、政治の分野では日本の103位と比べるとイタリアは日本より80ランクも上です。特に政治の分野では、イタリアは国会議員女性割合は39位、大臣女性割合は10位という高位にあります。
なお、2015年のIPU版(列国会議同盟)の「国会の女性割合ランキング」では、189ヶ国中、イタリアは38位で30.109%(286人)であるのに対して、日本は147位で11.60%(83人)という統計があります。

このように世界ランキングを検討することによて、どのような法律や制度にしたら良いのか、どのような慣習を変えるべきなのか、次第に分かってきますね。    弁護士 渥美玲子
posted by 金山総合法律事務所 at 13:13| 両性の平等

2016年08月11日

働く女性と法律(その2)

「均等法」の成立

 皆さんご存じの均等法について話したいと思います。
一口に「均等法」と言っていますが、実は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇に確保等に関する法律」というのが現在の法律の正式名称です。

この法律は、1985年(昭和60年)5月17日に成立し、翌1986年(昭和61年)4月1日から施行されました。
ところで、あまり知られていないのですが、均等法は、1972年(昭和47年)に成立した「勤労婦人福祉法」という法律を改正するという手続で成立しました。なので六法をみると、「昭和47年7月1日施行」と書いてあります。このような改正手続もあったためか、1985年に成立したときには、均等法の正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」というものでした。

法律の名称や趣旨、内容がまったく異なるにもかかわらず、「改正」という手続でおこなわれるというのは、違和感を感じますが、実は今の「日本国憲法」も「大日本国憲法」の改正手続によって成立しました。
 日本国憲法の冒頭には「朕は日本国民の総意に基づいて新日本建設の礎が定まるに至ったことを深く喜び、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法73条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる。」と書いてあります。
 現在の憲法はアメリカ合衆国による押しつけ憲法だ、という意見もあるようですが、そうすると、当時天皇が深く喜んで裁可したこと、枢密顧問が諮詢したこと、帝国議会が議決したことなどのすべての手続はアメリカによる押しつけだということになります。

  均等法に話を戻しますと、1960年代には女性労働者に対する差別が大きかったことから労働組合や女性市民団体などから「雇用平等法」を制定せよという大きな要求がありました。女性が働き続けたいと希望しても、当時の多くの企業は「結婚退職制」「30歳定年制」などの就業規則を作って女性を職場から締め出していましたし、賃金も男性に比べて半分以下程度でした。もちろん女性が昇格昇級することはありませんでした。
しかし、政府や財界はこのような女性の要求を無視し、多くの反対があるにもかかわらず次のような均等法を成立させました。
この均等法の問題点はいろいろありますが、第1に、「平等」といっても待遇や労働条件の平等ではなく、単に「機会の均等」でしかないこと、第2に、事業主に対しては「努力義務」しか課さなかったことから、均等法に違反した事業主に対して女性労働者はなにもできないことになったこと、第3に、このような均等法の成立とひき替えに労働基準法の時間外労働や深夜労働など労働時間についての女性保護規定が撤廃されたことなどです。
 要するに女性労働者は、「保護」を失い「平等」は確約されないままになったのです。

ところで私の手元に日本弁護士連合会が1983年(昭和58年)10月に発行した「男女が平等に働くために〜雇用平等法の制定に向けて」という150ページに及ぶ冊子があります。その21ページに「男女雇用平等法要綱試案」が掲載されています。これは「試案」ですから、結局は日の目を見ることはなかったのですが、当時日本弁護士連合会がどのように考えていたか良く分かります。

第1条の「目的」にはこのように書いてあります。
「この法律は男女平等を基礎とし、女性の労働権が、人間としての尊厳を確保するために欠くことのできない基本的人権であることにかんがみ、雇用の機会と待遇について、使用者等が女性を差別的に取り扱うことを禁止するとともに、その差別的取扱いによる権利または利益の侵害から女性を迅速かつ適正な手続により救済するため必要な措置を講ずることにより、雇用における男女平等を促進することを目的とする。」

第2条の「差別的取扱いの定義」には、このように書いてあります。
「第1項 この法律において女性に対する差別的取扱いとは、次の各号をいう。
1,女性であることを理由として不平等または不利益な取扱いをすること。
2,女性に対してのみ年令、未婚・既婚の別、子どもの有無、学歴、容姿等特定の条件を理由として不平等または不利益な取扱いをすること。
3,女性のみに適用される条件でなくても、女性のみを排除し又は女性のみ不利益をうける結果となる条件を設けて不利益な取扱いをすること。
4,労働基準法等法令に定められた女性に対する保護の権利行使を理由として、不利益取扱いをすること。
第2項 労働基準法等法令に定められた女性に対する保護並びに男女平等を促進するための特別の措置は、差別的取扱いとはみなさない。          」

 少し飛ばして、
第7条の「罰則」には、このように書いてあります。
「次の行為に対する罰則規定をもうけ、1及び2は両罰規定とし、違反行為を行った者を罰する他その事業主をも罰する。
 1,この法律で禁止された差別的取扱い
 2,調査及び審問手続に関する違反行為
 3,確定した救済命令違反 」

ここまで読むだけでも、1985年に成立した「均等法」が、如何に女性達の要求したものと異なっていたか、十分に分かるのではないでしょうか。
弁護士 渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 12:55| 両性の平等

2016年08月06日

民法改正〜 再婚禁止期間 

民法改正〜再婚禁止期間

1,改正の内容
 今年2016年6月1日に民法733条が改正され、6月7日に施行されました。

旧733条は次のとおりでした。
「1項 女は、前婚の解消又は取消しの日から6箇月を経過した後でなければ、再婚することができない。
2項 女が前婚の解消又は取消の前から懐胎していた場合には、その出産の日から前項の規定を適用しない。 」

改正後の733条です。
「1項 女は前婚の解消又は取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ再婚することができない。
2項 前項の規定は次に掲げる場合には、適用しない。
1 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合
2 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合   」

2,旧民法
実は旧733条は、明治時代、明治31年(1898年)に制定された条文です。
 旧民法では「第767条」にて「女は前婚の解消または取消の日より6ヶ月を経過したるにあらざれば再婚することができない。」と規定されていました。
 その趣旨は、旧民法の法典調査会起草委員の梅謙次郎教授によれば、「本条の規定は血統の混乱を避けるためのものだ」ということです。つまり、離婚後に再婚した場合、離婚後に生まれた子が前婚の夫の子か、後婚の夫の子か判断が困難になり、判断を誤れば血統が混乱するというのでした。旧民法の時代は、家父長制といって男系長子のみが家督相続することができるという制度だったので、殊更「血統」が重視されたのでしょう。
この規定がなんと2016年に初めて改正されたというのですから、100年以上も改正されなかったという事実に驚くばかりです。

3,今回の改正
 改正により、「6箇月」が「100日」に短縮され、さらに733条の2項を満たす場合、離婚から100日以内でも再婚することができるようになりました。
 具体的には、@離婚した日の後に懐胎したという医師の証明書、A離婚した日以後の一定の時期において懐胎していないという医師の証明書、B離婚後に出産したことの医師の証明書などが必要です。そして、このような証明書が添付されれば、婚姻届けを受理されることになるそうです。もちろん医師の診断のためには必要な検査を受けることになりますし、検査する日なども制約があると思われます。

4,最高裁判決と今後の問題
ところで、このような民法改正という事態になったのは、平成27年(2015年)12月16日の最高裁判所の大法廷判決がきっかけでした。
勇気ある女性が、「民法733条は憲法14条1項及び憲法24条2項に違反している」として提訴し最高裁判所まで粘り強く闘ったことの大きな成果なのです。
最高裁判決が「100日を越える部分は憲法14条1項や憲法24条2項に違反している」と判断した理由を少し紹介すると、第1に、医療や科学技術が発達した今日では、旧民法のような観点から一定期間を禁止るすることを正当化することが困難になったこと、第2に、特に平成期に入った後は晩婚化が進み、離婚件数及び再婚件数が増加するなど再婚の制約をできる限り少なくするという要請が高まっていること、第3に、かつては再婚禁止期間を定めていた諸外国が徐々にこれを廃止する傾向になり、例えばドイツでは1998年に、フランスでは2005年にこの制度が廃止されたこと、第4に、婚姻の自由が憲法24条1項の趣旨から十分に尊重されること、第5,妻が婚姻前から懐胎していた子を産むことは再婚の場合に限られないことを考慮すれば再婚の場合には限って再婚禁止期間を設けることは困難であることなどがあげられています。

 しかし、仮に100日に短縮されたとしても、男性は再婚することについては、このような制限はまったくなく離婚の翌日に再婚することもできるのですから、女性に対してのみ再婚禁止期間を課すことは、女性の婚姻の自由を制限するものであって、婚姻における女性差別だと思われます。しかも、現在の医学ではDNA鑑定等により容易に決着がつく問題ですから、「血統が混乱する」という事態はおきないと思われます。
ちなみに国連女性差別撤廃委員会は、かねてから、再婚禁止期間については「女性に対してだけ特定の期間の再婚を禁じる規定を廃止すること」という勧告を出し続けており、2016年3月にも同趣旨の勧告をしていました。
   弁護士 渥美玲子                                         以 上
posted by 金山総合法律事務所 at 13:59| 法改正

2016年07月30日

「女性が輝く」って?

            「女性が輝く」って
                                   弁護士 渥美玲子
 2016年4月13日に発売されたHKT48(AKB48の博多HaKaTaにおける姉妹版)の新曲「アインシュタインよりディアナ・アグロン」の歌詞が女性蔑視だとして話題になっています。
その一部をみると、次のような歌詞。

難しいことは何も考えない。頭からっぽでいい。
女の子は可愛くなきゃね。学生時代はおバカでいい。
テストの点より瞳の大きさが気になる。
どんなに勉強できても愛されなきゃ意味がない。
世の中のジョーシキ何も知らなくても、メイク上手ならいい。
女の子は恋が仕事よ。ママになるまで子どもでいい。
それより重要なことは、そうスベスベのお肌を保つことでしょう?
もっともっと輝きたい。人は見た目が肝心。
だってだって内面は見えない。
可愛いは正義よ。

 まあ、よくある女性に対する考え方ですね。
 1962年には早稲田大学の男性教授が「文学部は女子学生に占領されていまや花嫁学校化している」として「女子学生亡国論」を展開しました。要は、「女性に大学のような高等教育を受けさせても意味がない、国費の無駄だ」という論調でした。
 1975年頃には司法試験を合格した女性修習生に対しても男性教官からの差別発言はありました。例えば「男が生命を賭けている司法界に女を入れることは許さない」「任官すれば当然転勤のことがでてくるが、それについて女性は甘く考えているんじゃないか」などでした。
 近いところでは、2015年8月には鹿児島県の男性知事が、高校教育のあり方を考える教育会議の席上で「サイン、コサイン、タンジェントを社会で使ったことがあるか女性に問うと、10分の9は使ったことがないと言う。そのようなことを教えてなんになるのか。女性にとってはサイン、コサイン、タンジェントよりも、世の中の草花の方が将来の人生設計において有益かもしれない」との趣旨の発言をしたといいます。大学の理系に進学しなければ、男性でも三角関数などは仕事でも使うことはまずないと思われますから、「女性に問うと」などと限定する必要などはまったくないのです。むしろ将来文系に進むことを考えている場合には、高校教育において理系的な物の考え方を学ぶことは重要なのです。
また、2016年3月には大阪の中学校の男性校長が、全校集会で「女性にとって最も大切なことは子どもを2人以上産むことです。これは仕事でキャリアを積むこと以上に価値があります。」と発言しました。確かに出産は女性しかできないことです。しかし、「出産が仕事でキャリアを積む以上に価値があるかどうか」を決めるのは女性です。1994年カイロでの国際人口開発会議で「性と生殖に関する健康と権利」つまりリプロダクティブ・ヘルス・ライトが提唱され、この概念は「出産に関する自己決定権」として広く承認されています。女性は仕事を優先してもまったく構わないのです。女子生徒はどのような気持ちで校長の発言を聞いたのでしょうか。
今も昔も「女性はバカで良い」「女は家庭に入って夫の言うことに従っていればいい」ということですね。

ところで、この歌詞を読んで違和感を感じたのは「もっともっと輝きたい」というフレーズです。「頭空っぽで常識がなくても、メイクが上手でお肌スベスベで可愛い」という状態にあることが、「輝いている」って言うことかしら、と思ってしまいます。

最近、安倍首相は「すべての女性が輝く社会を作る」と言っていろいろな政策を掲げています。
 例えば、2014年10月に「すべての女性が輝く社会づくり本部」が纏めた「すべての女性が輝く政策パッケージ」によると、「女性が輝くことは、暮らしやすい社会、活力ある社会をつくることにつながる。子育てがしやすい、安心して介護ができる、ライフステージに応じた柔軟な働き方ができる、家庭や地域に十分関わることができるなど、女性の視点から見て暮らしやすい社会の制度や仕組みを作ること」だと説明しています。その上で、6つの政策の第1番目が「安心して妊娠、出産、子育て、介護をしたい」という女性の要望をかなえるための具体的な政策となっています。
 これって、結局、「女性は結婚して出産して子育てして両親の介護をすること」が、「女性が輝く」という一番の意味だと安倍首相は思っているということですね。
 ちなみに「アインシュタインよりもデイアナ・アグロン」の歌詞を書いたのは秋元康という有名な人物ですが、安倍首相のお気に入りだそうです。

なお、この秋元康の歌詞が女性差別だと批判した「リテラLITERA」というサイトに対して、AKB運営会社から、「名誉毀損及び侮辱罪が成立する。」との抗議が来たそうです。
                        2016年5月20日:記
posted by 金山総合法律事務所 at 16:24| 両性の平等

2016年06月09日

働く女性と法律(その1)

                              弁護士 渥美玲子

厚生労働省が昨年2015年の10月に、「働く女性の実情」を発表しました。
 これによると、平成26年における女性雇用者数は昨年に比し30万人増えて2436万人となり、雇用者総数5595万人の43.5%を占めるようになりました。女性の多くが働いていると言っても過言ではありません。
 しかし、その内実をみると、女性の非正規雇用形態が36万人も増えて1332万人になったということです。非正規雇用の内訳は、パート・アルバイト1042万人、派遣社員71万人、契約社員・嘱託177万人ということです。つまり女性労働者のうち、なんと56.7%が非正規雇用なのです。

 このように働く女性が増え、またその雇用形態も非正規雇用の割合が増えたことから、女性が働く上で知っておいた方が良い法律ははたくさんある、と私は思います。

 まずは、労働基準法です。縮めて「労基法」とも言います。

 この法律は1947年(昭和22年)4月に制定されましたが、その後、いろいろ改正されて、現在に至ります。労働関係を規律する基本中の基本の法律です。というのは、憲法第27条2項で「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は,法律でこれを定める。」と規定されていますが、労基法こそが、この憲法27条によって制定された法律だからです。

 労基法の「第6章の2」に「妊産婦」と題する条文があります。
 実は以前は「第6章の2 女子」となっており、女性労働者全員に対する時間外労働や休日・深夜労働の制限等による保護規定があったのですが、1999年(平成11年)にその規定が無くなって、「妊産婦」保護に限定されるようになったのです。

この「第6章の2」の対象は、労働契約を締結している女性労働者です。労働者とは「職業の種類を問わず,事業または事務所に使用される者で賃金を支払われる者をいう」(労基法9条)とされていますから、パートタイマー、アルバイト、契約社員、嘱託など呼称の違いを問いません。但し、派遣労働者の場合は労働契約を締結している派遣元企業に請求することになっています。
昔、相談に来た女性に、私が「なるぼど、あなたは労働者ですね」と言ったところ、「いいえ、私はパートなので労働者ではありません。」とその女性が答えたことがありました。今は、そのように考える女性は少ないと思いますが、「パートタイマー」はもちろん労基法9条の「労働者」ですから労基法の適用対象なのです。

ところで労基法の「第6章の2」の条文には次のようなものがあります。

64条の3:危険有害業務の就業制限
65条1項:産前休業中(6週間、多胎は14週間)は就業させてはならない。
65条2項:産後休業中(8週間)を就業させてはならない。
          但し産後6週間経過した女性が就業請求をした場合は別
65条3項:妊娠中の女性が請求した場合、他の軽易な業務に転換させなければならない。
66条1項:妊産婦が請求した場合、32条(の2,4,5)の法定労働時間をこえて労働させてはならない。
66条2項:妊産婦が請求した場合、33条、36条の規定にかかわらず時間外労働、休日労働をさせてはならない。
66条3項:妊産婦が請求した場合、深夜業をさせてはならない。
67条:育児時間

このようにいろいろな条文があっても使用者が守らない場合はどうなるのか、と言えば、結構厳しいことになっています。
労基法117条から違反した場合の罰則規定が定められています。
例えば、119条では、「64条の3から67条までの規定に違反した場合には、違反した者に対して6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処する」となっています。
この規定の意味は、違反者に対して単に損害賠償など民事的な責任だけではなく、いわゆる刑法犯と同じで刑事責任を負わせるということです。しかも、労基法121条では、違法なことをした者が管理職などであっても、会社など使用者も同時に刑事責任を負うことになっているのです。このような規定を「両罰規定」と言います。
では、なぜ罰則規定があるかと言えば、労基法自体が憲法27条を受けて定めされている「基本法」としての性格があるからです。労基法第1条1項には「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」とあり、さらに2項には「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この金を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」としています。このような労基法の基本理念を具体化し実効性を持たせるために罰則規定が設けられたのです。

女性の妊娠や出産に関する規定としては、均等法(正式には、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律、といいます)や育児介護休業法(正式には、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律、と言います)などもありますが、これらの法律には使用者に対する罰則規定は非常に不十分なのです。
そういう意味でも労基法の条文について、労働者は、しっかり知っておくのが良いのです。

     以 上
posted by 金山総合法律事務所 at 16:37| 両性の平等