2014年12月09日

トリノのアスベスト判決 7

イタリアの風
            トリノ アスベスト判決 7

 2014年11月19日の最高裁判所の判決は、イタリアの新聞各紙によれば、消滅時効を根拠にして、有罪判決も損害賠償もすべてを取り消した、ということである。

この記事を書いている2014年12月5日の段階では、私は最高裁判所の判決文を見ることができないので、判決理由の正確で詳細な事実は私には分からない。
実はイタリアでは判決文は判決言渡しの直近の日に交付されるわけではない。日本であれば言渡しの数日後には判決理由も書かれた裁判書の謄本をもらうことができるが、イタリアではそうでもない。例えば、トリノ地方裁判所の判決は2012年2月13日だったが、その判決理由が書かれている判決書が交付されたのは5月頃だったし、トリノ高等裁判所での判決は2013年6月3日だったが、判決理由が書かれている判決書が交付されたのは9月頃だった。従って、イタリアでは判決があった日から通常3ヶ月くらいでようやく判決理由の詳細が分かるということである。

新聞各紙によれば、最高裁判所では、検事総長が公訴の消滅時効について、2012年の地裁判決時にはすでに完成していたかどうかについて明確にするよう主張したとしており、また最高裁判所の副検事であるフランチェスコ ヤコビエッロも、故意による環境破壊罪について消滅時効が完成しているかどうかを明確にするよう求め、「裁判官は法律と公正の狭間にいるが常に法律に従う義務を負う。しかしこのケースでは法律と公正は反対の道を進んでしまった。」と述べたという。
 なお、第1審及び第2審ではグァリニェッロが検察官として審理に関与していたが、最高裁判所では担当しなかったという。また、同じ検察官の立場にありながら、最高裁の検察官がグァリニェッロの意見と異なる論告をしたのは一体何故か、不明である。

ところで被害者側の弁護士が説明したところによれば、検察官の主張は「環境破壊の罪の公訴期間は12年であり、このケースに当てはめれば、エテルニトが破産した1986年に消滅時効が始まり、12年後の1998年に時効が完成した」というものである。
トリノ地方裁判所に起訴がなされたのは2009年で、第1回公判が行われたのは2009年12月、判決は2012年2月にあったという事実関係にあるから、起訴した時点ではすでに公訴時効は完成していたものと言えよう。当時の検察官グァリニェッロも当然、このことは認識していたと思われる。にもかかわらず彼が起訴に踏み切ったのは、私の推測によれば、そもそも公訴時効の開始時期は1986年ではないと考えていたか、あるいは、このように被害者が多数に上る場合には12年という期間を定めた規定は適用されないと解釈していたかであろう。
しかし、地方裁判所も高等裁判所もこのような時効についての論点があうることを十分に知りながら、検討した上で、時効の適用をしなかった。従って、起訴を決定した検察官のグァリニェッロの判断ミスだとは単純には言えないのではないか。

地裁判決の判決文では、「時効の終期」という項目で20ページに及ぶ記述があるので、とても全部を翻訳して理解することはできないが、いずれにしろ、相当なページを割いて論じていることは明らかである。ところで地裁判決をみると被告人に対して適用される条文は、以下に記載したような刑法第434条と刑法第437条だった。

第434条
 「先の条項から予想されたケース以外で、建造物の一部もしくは全部の倒壊や、その他の災害を引き起こす行為を直接におこなった者で、この事実によって公共通信施設に対して危険を生じさせた場合は、1年から5年の禁固刑に処する。
 以上の事実によって建造物倒壊あるいは、それにより災害を起こした場合は、3年から12年の禁固刑に処する。」

第437条
 「業務上の災害や事故を予防するための施設、機械あるいは標識を設置することを怠り、あるいは、それらを撤去し、もしくはそれらの使用目的を損なうような行為をした者は、6ヶ月以上から5年の禁固に処する。
以上の事実によって災害あるいは事故を引き起こした場合は、3年から10年の禁固刑に処する。」

この2つの条文には「環境」という言葉が出てこないので、本件について新聞各紙が書いているように「環境に対する罪」とはすぐには分からないが、「災害」「事故」という概念には環境破壊やそれに起因する生命の危険性なども包含されると思われる。
イタリアに限らず外国の法律を理解するのはとても難しいと思った。

弁護士 渥 美 玲 子
   
posted by 金山総合法律事務所 at 17:40| イタリアの風

2014年12月08日

トリノのアスベスト判決6

イタリアの風
            トリノのアスベスト判決6
     
いままで、2012年2月13日のトリノ地裁判決および2013年6月3日のトリノ高等裁判所の判決について書いてきたが、2014年11月19日遂に最高裁判所の判決が出された。

ところでイタリアの最高裁判所は、ローマのテベレ川河畔にあり、あの有名なサンタンジェロ城の近くにあり、ナボナ広場からウンベルトT世橋を渡ると真正面に見える。正面の壁面には大きな彫刻があり、上部に「CORTE DI CASSAZIONE」と書いてあるので、すぐに裁判所だと分かる。また建物の内部は、壁や天井までもが彫刻や絵画であふれている。日本の最高裁判所の建物とはずいぶん違うと思われる。

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最高裁の判決は、イタリア新聞各紙を見ると「すべてが取り消された。有罪判決も損害賠償も」ということで、その根拠は、「消滅時効」ということだ。日本的な表現を使えば、刑事訴訟法の公訴時効の期間が完成したということで免訴の判決が出されたということになるのだろうか。
取り消されたという判決は、被告のスイス人元経営者シュミットヘーニー氏に対する18年の禁固刑、及び被害者や自治体に対する損害賠償義務を認めたトリノ高等裁判所での判決である。
大法廷にいた被害者の家族は言い渡しが終わると「恥を知れ、不正義だ」と口々に叫び、また泣き出す人もいた。また用意していた「正義は行われた」と書いてあった横断幕に、「不」を手で付け加えた人もいた。またピエモンテ州知事は「深い義憤を感じる」と述べた。さらに首相のレンツィは「このような時効という悪夢はもう十分だ。法律を改正する必要がある」とコメントした。なお、法律改正案はすでに提案されてはいるものの、未だ上院の同意がないため、下院にて店ざらしにされていると言う。
しかしトリノ地方裁判所での第1審と、トリノ高等裁判所での第2審を担当した検察官のグアリニェッロは「諦める必要はない。有罪判決はある。被告は無罪になった訳ではない。私達は次は殺人罪で幕を開けよう」と言い、さらに石綿粉じんを吸入したことにより肺がんなどで死亡した人が2000人以上いる、と言及したという。

他方、刑務所の収監と多額の賠償義務から解放された被告のシュミットヘイニー氏は、「我々は、石綿加工について安全な方法を採用したパイオニアだった。スイス人企業家はトリノ裁判所の私に掛けられた不正義は、『陰謀の論理だ』と言っている」とし、イタリアに対し「これ以上間違った訴訟がないことを期待する」と付け加えたという。さらに同氏は、話を進め「訴訟においては法律が無視された。正しい裁判という基本が損なわれた。エテルニトが操業していたのは、わずか10年くらいの期間であるし、それどころか、この間、利益がほとんどなかった。イタリアは『石綿による大惨事』について、一人の人間だけを相手にするという訴訟を起こしたたった一つの国である」などとコメントした。

その後の新聞報道などを見ると、この最高裁判決は知識人の意見を二分したようである。

渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 16:12| イタリアの風

2014年10月30日

トリノのアスベスト判決5

イタリアの風
          トリノのアスベスト判決5

1,トリノ高裁判決
すでに2012年2月13日のトリノ地裁判決について簡単に紹介してきたが、その後控訴され、2013年6月3日にトリノ高等裁判所の判決が出た。
 高裁の判決では、被告人1人(エテルニトの元経営者のスイス人のシュミットヘイニー氏)に対する判決はなんと禁固刑18年だった。地裁判決よりも刑期が2年長くなったのである。なお、地裁段階では被告人は2人だったが、うち1人が死亡したので1人になった。
 また損害賠償責任については、判決は、被害者に対して1人3万エウロ(1エウロ130円で換算すると390万円)などの支払いを命じたが、被害者は約930人いるようなので計2790万エウロ(約36億2700万円)となる。それ以外に、ピエモンテ州に2000万エウロ(約26億円)を、カザーレモンフェラート市に3090万エウロ(約40億円)を、など自治体に対する支払いを命じた。このように自治体に支払いがなされるのは、アスベストの除去費用、治療費、研究費などとして役に立つという。
 現在イタリアの最高裁判所に係属しているということだから、そのうち最高裁判所の判決がでるだろう。

2,イタリア国内での影響
 当時の新聞(イルファット・クオティディアノ紙、ラ・レプッブリカ紙など)によれば、この判決を受けて検察官グアリニェッロは「この判決は決して夢なのではない。人生に対する賛歌であり、夢が実現したのだ」、「裁判所によって認められた故意による環境破壊罪は、労働者のためだけではなく、すべての住民に関するものだ」と発言したという。
 そして、彼は、「この判決はターラントでのできごとや、訴訟を待っている他の地域に対しても大きな未来を開いた。この判決で終わった訳ではない。また世界中にこの判決の影響を与えるべき重要な判決である。以前は世界中のどこでもできなかったことが、ここイタリアでは私達は訴訟をすることができたのだ。」と強調した。
なお、ターラントはイタリア半島の南にある大きな都市であるが、ヨーロッパ最大と言われる製鉄所(ILVA)があるほか、石油精製工場、化学工場、造船所、アスベスト製造工場などもあり、地域に対する環境破壊は大きいと言われている。またイタリアのその他の地域でも環境破壊があるとされている。

3,アメリカ合衆国への影響
ところでこの訴訟で問題になっているエテルニトという会社はアスベスト製造販売の国際的多国籍企業であるが、欧州だけではなく、アメリカ合衆国でも被害者を出している。
アメリカのアスベスト被害の状況については、2006年度(平成18年度)の「主要先進国における石綿健康被害に関する調査報告書」(東京海上日動リスクコンサルティング株式会社)にて詳細に報告されている。
 この報告書によれば、同国では労災補償制度が十分機能していないため訴訟が多発しており、2002年までには約73万件の訴訟が提起され、少なくとも8400社の被告がおり、訴訟による補償額は700億ドルになるという。このため破産する会社が多発し、これにより職を失う労働者も多発しているという。さすが訴訟社会と言われる国である。そして、アスベスト被害に関連して企業が破産するという道を開いたのが、ニュージャージー州にある「ジョン・マンビル社」と言われている。このマンビル社は、世界最大のアスベスト生産・アスベスト製品製造会社であり、日本にも大量のアスベストを輸出しているうえ、1957年(昭和32年)には株式会社クボタ(旧・久保田鉄工)と技術提携をし各種スレートを発売していた。また、日本のトヨタ自動車と同様、会社名を都市名(マンビル市)にさせたという影響力のある大会社だった。

ところで2014年7月2日、アメリカ合衆国ニュージャージー州の高等裁判所でひとつの判決がだされた。なお、この判決は被告が欠席したとの理由で最終審で上訴することができないという。
 ジョン・マンビル社は石綿セメントチューブを製造していたが、そこで働いていた労働者が青石綿(クロシドライト)に曝露されたために中皮腫に罹患したという事案において、裁判官は、中皮腫で死亡した11人の遺族に対し9050万ドル(1ドル100円で換算すると90億5000万円)を支払うようアノヴァホールディング株式会社とベーコン株式会社に対して命じたという。
ところで被告となったこの2つの会社は、かつて1950年から1980年の間、ジョン・マンビル社にアスベストを販売したもののすでに再生法により事実上破産したエテルニット社を引き継いだ会社である。この2つの会社の実質的経営者はトリノ裁判所で有罪判決を受けたシュミットヘーニー氏だという。しかも前記トリノ高裁の判決ではこの2社は民事賠償責任があると判断されていた。そのため、裁判官は、同人が有罪とされたトリノ裁判所の判決を参考にしたという。
このようにイタリアのエテルニトの訴訟は、アメリカ合衆国でも大きな影響を与えたのだった。なお、この判決はイタリアだけではなくアメリカ合衆国でも評判になり、ネットで見ることができる。

4,トリノ判決の行方
イタリアのトリノ判決は、エテルニトの元経営者およびエテルニトを承継した企業を被告として提起された訴訟であるが、判決で認められた損害賠償額は多額であり、また被告の個人や企業はイタリア国内に本社や国籍を有していないため、これを実際に支払わせることは困難を伴うと思われる。承継した上記2社もトリノ判決だけではなく、アメリカでも賠償責任を負ったため、すべての支払いが可能であるかどうか不透明である。
 これら勝訴判決によって実際に被害者に対し賠償金が完全に支払われるまでは、手放しでは喜ぶことはできないだろう。

弁護士 渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 11:40| イタリアの風

2013年11月05日

日本は159位

両性の平等
           

先回は、世界経済フォ−ラム(WEF)が「国際男女格差レポート2013」でジェンダーギャップ指数を発表し、日本は136ヶ国中105位になったことを書きました。
 実は日本にはもっと低いランクがあるのです。
 2013年3月に列国議会同盟(IPU)が発表した調査によれば、2012年の国会(二院制の場合は下院)における女性議員比率は188ヶ国中159位でした。

括弧内に女性比率を入れて、順位をみてみましょう。なおIPUの発表では同率の場合でも後順位を複数処理しないので、この点は変えました。

 上位10位の状況は、1位ルワンダ(56.3%)、2位アンドラ(50.0%)、3位キューバ(45.2%)、4位スウェーデン(44.7%)、5位セーシャル(43.8%)、6位セネガル(42.7%)、7位フィンランド(42.5%)、8位南アフリカ(42.3%)、9位ニカラグア(40.2%)、10位アイスランド(39.7%)となっています。
さらには、11位ノルウェイ(39.6%)、12位モザンビーク(39.2%)、13位デンマーク(39.1%)、14位エクアドル(38.7%)、15位オランダ(38.7%)、16位コスタリカ(38.6%)となっており、めぼしいところでは、21位スペイン(36.0%)、29位ドイツ(32.9%)、34位イタリア(31.4%)、44位フランス(26.9%)、64位中国(23.4%)、68位イギリス(22.5%)、83位パキスタン(20.7%)、97位アメリカ(17.8%)、124位ロシア連邦(13.6%)、そして、日本は159位(8.1%)だそうです。
そして世界の平均は20.3%だそうです。
 IPUによれば、ルワンダなど上位国において近年の女性議員が増加している原因はいわゆるクオータ制の導入によるものと分析されています。
 1位になっているルワンダの下院は80議席中、女性は45議席を持っています。しかし、80議席のうち24席が女性特別枠、さらに3議席が青年障害者枠になっています。ですから45議席から24議席を差し引いた除いた残21議席は女性が男性と互角に戦い取った議席だということです。つまり2種類の特別枠を除いた議席は53議席ですから、仮に女性特別枠がなくても53議席のうち21議席は選挙にて勝ち取ったことになり、39.6%になります。立派なものです。
 なお、このランキングによれば日本の衆議院議員480人のうち女性は39人として計算されていますが、実は内閣府が発行した男女共同参画白書によると2012年12月当時の女性議員数は38人なので、7.9%になります。よって、7.9%で160位のボツワナが上がるので、日本は同順位の159位です。

ところで、先回紹介しました世界経済フォ−ラムのランキングでは、日本は総合105位であったのですが、政治的影響力の分野では118位でした。2012年のこの分野でのランキングでは111位だったのが、さらに118位に落ちたのは、昨年の総選挙で、大きく女性議員が減ったからです。
昨年2012年12月16日、衆議院総選挙が行われました。皆さん、ご存じのように、2009年の総選挙以来与党だった民主党が大敗し、自由民主党が大勝しました。この選挙で、それまで54人いた女性議員が16人も減り、38人になってしまったのです。民主党には女性議員が比較的多くいたのですが、自民党は女性議員を増やす考えがありませんでした。このように、どの政党が女性差別解消政策をとっているのかは重要です。
また、衆議院は全体で480議席ありますが、そのうち300議席は小選挙区で当選議員は1人に限定されます。残180議席は比例区で全国を11ブロックに分けて行われます。そして昨年12月の総選挙結果における女性比率をみると、小選挙区では300人の内女性は20人(6.6%)ですが、比例区では180人のうち18人(10%)が女性でした。このようにどのような選挙制度を採用するかによって、議員の女性比率は容易に変更できるのです。
現在自民党はわずか180議席しかない比例区をさらに減らすことを提案していますが、これが実現してしまったら、現在の日本の状況では、さらに女性の議員比率は少なくなることは必至であり、ランクはもっと下がるでしょう。

ちなみに安倍総理は、首相官邸のホームページで、「女性が輝く日本へ」と題して政策を発表していますが、その政策は、「待機児童の解消」、「女性役員・管理職の増加」、「職場復帰・再就職の支援」、「子育て後の企業支援」の4つしかなく、国会における女性議員数の増加や、女性の政治に対する影響力の増加などまったく視野にないようです。

なお、ランキング表は誰でもネットで見ることができます。

                         弁護士 渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 14:23| 両性の平等

2013年11月02日

日本は105位

両性の平等
              

2013年10月25日、世界経済フォ−ラム(WEF)が「国際男女格差レポート2013」でジェンダーギャップ指数を発表しました。
日本は136ヶ国中105位でした。
上位10位を見ると、1位アイスランド、2位フィンランド、3位ノルウェイ、4位スウェーデン、5位フィリピン、6位アイルランド、7位ニュージーランド、8位デンマーク、9位スイス、10位ニカラグアです。
 ちなみに先回、「外国の憲法にみる家族条項」を検討しましたので、各国の順位をみてみますと、ドイツ14位、アメリカ23位、フランス45位、ロシア連邦61位、中国69位、イタリア71位です。日本が105位というのが如何にかけ離れて低位か、一目瞭然ですね。
また世界ランキングが100位以下の国を見ると次のようになっています。
 100位カメルーン、101位インド、102位マレーシア、103位ブキナファソ(西アフリカにあります)、104位カンボジア、105位日本、106位ナイジェリア、107位ベリーズ(中央アメリカにあります)、108位アルバニア、109位アラブ首長国連邦、110位スリナムとなっています。あのマララさんを狙撃したタリバンのいるパキスタンは135位です。日本とパキスタンとの違いは、日本とイタリアとの違いくらいです。

このジェンダーギャップ指数ランキングは2006年から毎年10月に発表されています。
 日本の順番を経年的にみると、2006年80位、2007年91位、2008年98位、2009年101位、2010年94位、2011年98位、2012年101位、そして2013年105位でした。つまり日本の女性の地位は良くなっているどころか、悪くなっているのです。
一体、どうして、このようにランキングが下がったのでしょうか。そして、どうしてせめてイタリアのレベル、つまり136ヶ国の中間点までくらいにはランクアップしないのでしょうか。このことを真剣に考えないと、日本の女性はいつまで経っても差別されたままです。

この指数は、世界の約136ヶ国を対象に、男女格差が存在する4つの分野において男性と女性の格差をそれぞれ各国毎に分析したものです。評価の対象となった136ヶ国は、世界中のすべての国ではなく、世界人口の93パーセント以上を占めているそうです。また指数とは、国と国の格差ではなく、男性と女性との格差を問題にしていますから、男性を100として女性がどの程度平等であるかを計数化しています。

まず4つの分野とは、第1に、経済活動の参加と機会(Economic Partecipation and Opportunity)、第2に教育(Educational Attainment)、第3に健康と生存(Health and Survival)、第4に政治的影響力(Political Empowerment)の4つです。
 そしてそれぞれの分野には合計14の変数があり、経済活動の分野では、給与、参加レベル、専門職における雇用など5つの変数、教育の分野では初等教育や高等・専門教育への就学など4つの変数、健康と生存の分野では寿命など2つの変数、政治的影響力の分野では政策決定機関への参加など3つの変数があります。そしてこのレポートではそれぞれの分野ごとでのランキングも示しています。

2013年の日本の総合ランクは105位ですが、経済活動の分野では104位、教育の分野では91位、健康と生存の分野では34位、政治的影響力の分野では118位です。4つの分野のうち100位以下が2つ、90位以下を基準とすると3つもあるって、凄いですよね。愕然とします。

ところでこのようなジェンダーランキングはどのような意味があるのでしょうか。「たかが女のこと、自分には関係のないことだ」と思っている人が多いかもしれません。しかし、このような考え方は、日本の女性が差別されているという現状、つまり男性に比較して女性は経済的に自立していないということ、男性に比較して高等教育を受けていないということ、女性には政治的影響力がないということを容認しているということです。言い換えれば、女性に対する差別に対して改善の必要を認めないという考えであり、つまるところ、女性差別を容認しているものと言わざるを得ません。
 そして、そのよう女性差別意識は、女性以外の、子ども、障害者、高齢者、低所得者、外国人など社会的な弱者あるいは政治に対して影響力を持たない人間に対する差別意識をも含むと考えます。
 人間に対する差別を容認する社会が健全である筈はありません。
 このようなランキング表が、その国の健全性を検討する重要な指標になることは間違いありません。
日本は憲法の前文で「国際社会で名誉ある地位を占めたいと思う」と宣言しました。このジェンダーギャップランキングで、日本がこのような不名誉なランク付けをされたことについて一体政府はどのように考えているのか、聞いてみたいものだと思います。

 なお、このWEFのレポートやランキング表は誰でもネットで見ることができます。

                         弁護士 渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 13:33| 両性の平等

2013年09月30日

強制退去取消判決



平成25年7月18日、退去強制取消訴訟において勝訴判決を獲得しました。
 この判決についてはNHKの地方ニュースや読売新聞などに取り上げられました。

不法滞在の外国人に関する事件ですので、外国人の在留制度について説明します。そもそも、日本に在留する外国人は、上陸許可の際に在留資格が決定され、日本で行うことができる活動にも制限が課せられています。
このような在留資格を得ずに入国したり(不法入国)、期限を超えても日本に滞在し続けたり(不法残留)すると、外国人が自分で出国しない場合には最終的に国外へ強制的に送還されてしまいます。

とはいえ、不法入国や不法残留の状態にあるだけで、すべての人が国外へ強制的に送還されるわけではありません。家族関係、親子関係、日本社会への定着性など諸々の事情を考慮して、日本での在留を認めるべき外国人には特別に在留が認められることがあり、これを特別在留許可といいます。

今回、私が担当した裁判は、不法残留の外国人に対し、法務大臣が国外への送還を進めようと退去強制令書を発布した行為に対し、家族関係を丹念に見ていけば在留特別許可を与えるべき事情があるとして退去強制令書の発布の取り消し等を求めたものです。

外国人を強制退去させるか等については最高裁判決で法務大臣等にきわめて広い裁量が認められており、裁判で争ったとしてもなかなか退去強制令書の発布が取り消されるわけではありません。NHKの入管への取材によると、一昨年退去強制令書の取り消しが認められたのは全国で5件のみということでした。
 
では、本裁判ではどのような点が評価されたのでしょうか。
本件の原告は2週間の短期滞在のビザで入国後、オーバーステイ(不法残留)になってしまったフィリピン人の男性です。
原告は、その後日本で定住者資格を有するフィリピン人女性と結婚し、娘をもうけて、妻の連れ子も含め家族4人で生活していました。原告は不法就労にならないように主に家事育児を担い、生活費は妻が働いて得ていました。また、妻との結婚後に、原告は自ら入国管理局に出頭もしていたという事情もありました。判決ではこれらの事情につき丁寧に事実認定し積極的な評価がなされていました。
これらの事情に加え、妻の連れ子が実父の日本人と定期的に会っていること、原告がフィリピンに退去強制されれば家族全員でフィリピンに帰国せざるを得ず、連れ子と実父が定期的に会うことがかなわなくなると主張しました。判決は、連れ子と実父の関係についても判決は積極的な要素として考慮してくれました。直接血縁関係にない妻の連れ子とその実父の関係についても考慮してくれた点については本件判決の大きな特徴といえるのではないかと思います。

不法残留や不法入国をする理由は、退去強制の対象となる人の数だけあるはずですし、退去強制が対象者が日本で築き上げてきた時間的、経済的、人的、社会的、そのすべての関係を無に帰させてしまいかねない極めて過酷なものであることからすると、退去強制令書の発付は本来画一的な処理になじむものではなく、より慎重な判断がなされるべきです。(勝訴した今になって思うと)本件は、本来であれば、家族関係の実態をもう少し深く把握して退去強制令書が発付する前の段階で在留特別許可が出されるべき事案でなかったかと思います。
なお、控訴はされず、先日無事原告にビザが発給されたと連絡がありました。


弁護士 山 下 陽 平
posted by 金山総合法律事務所 at 19:13| 重要判決

イタリア共和国憲法〜改正の限界

イタリアの風
          



少し前の話であるが、2013年6月28日の朝日新聞の朝刊に次のような記事があった。
あの世界的に有名でかつ人気の高い俳優であるロベルト・ベニーニさんが、2012年12月17日、イタリア国営放送で「世界でもっとも美しいもの」という特別番組でイタリアの憲法のすばらしさを話し、例えば11条については「イタリアに住む者なら誰だって戦争を放棄するということだ」と発言したという。
涙を流さずにはいられない映画「ライフ・イズ・ビューティフル」を見て以来、私はベニーニさんのにわかファンになったので、もし、私にイタリア語が解れば、是非ともそのテレビ番組を視聴したかったと思う。

ところで、この記事によれば、イタリア共和国憲法の1条から12条は、憲法改正の対象にはならないという「基本原則」があるそうだ。
今ここで、12条全部を検討する余裕はないが、この基本原則は、共和国の基礎、人権の不可侵性、平等原則、労働基本権、地方自治、戦争放棄などを謳っている。
実はイタリアの憲法139条では「共和政体は、憲法改正の対象とすることはできない。」と規定している。例えば、共和国を君主国に変更することはできないというような主権ないし権力の所在を変更するという意味である。
 このような憲法改正についての制限規定がすでにあるにもかかわらず、1条から12条までの憲法改正を制限する基本原則があるということで、大変驚いた。

 新聞記事によると、この基本原則は、1988年に憲法裁判所が判断したものだという。一体、如何なる経緯で、このような判断が出されたのかまでは知らないが、この憲法裁判所の判断による「基本原則」はイタリア人・イタリア国民なら当然の常識であるらしい。

 このようなイタリアの状況に比べ、日本では昨年4月に自民党の憲法改正草案が発表されたが、この草案は、日本国憲法のあの格調高い前文をすべて削除し、1条から始まる全部の条文を削除ないし変更しようとするものである。特に、天皇を日本国の元首として権限を強化するものであること、国防軍を創設して日本が戦争することができるようにすること、国民に責任と義務を新たに課すことなど、憲法の基本原則を大きく変更しようとしている。
 ああ、日本の憲法にもイタリア共和国憲法のように、改正の限界規定を設けておくべきだったと、今更ながらに思っている。



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弁護士 渥 美 玲 子


posted by 金山総合法律事務所 at 18:14| イタリアの風

2013年09月28日

明治民法〜 婚姻制度 (その2)

両性の平等
         

先回に引き続き「婚姻」について見てみましょう。

・「第788条
 妻は婚姻に因って夫の家に入る。」
この規定は、「家制度」と採用している当然の結果とされています。但し、外国人と婚姻した場合には配偶者の外国籍には入らないとして例外が認められています。

・「第789条
@妻は夫と同居する義務を負う。
A夫は妻をして同居させることを要する。」
この規定は「夫婦が同居しなければ、婚姻の目的をなすことができない」ということによる当然の規定とされています。しかし、この場合の同居義務は妻にのみあり、夫にはありません。梅教授は「夫が自己の便宜に従い妻と同居せず、仮にその請求が妻からあったもこれに応じないことは稀ではない。これは男尊女卑の因習によることであるが、今日の時勢にあってはこのようなことを是認できない」などと述べています。」

・「第790条
   夫婦は互いに扶養をなす義務を負う。」
梅教授によれば「夫婦は偕老同穴を約する者なるが故に、もし一方が資力なきため自ら井蛙KT得することができない場合には、他の一方がこれを助けるべきは理の当然とである」と書いています。なるほど、こういう場合には夫にも妻にも義務があるのですね。

・「第798条
 夫は婚姻より生ずる一切の費用を負担する。
   但し、妻が戸主たるときは妻が負担する。」
梅教授によれば「夫は一家の主宰にして、その戸主たる場合はもちろん、戸主でない場合においても夫が財産を有してこれをもって妻子を養うのが通例としているので、婚姻より生じる費用は原則として夫の負担とするもは当然である」としています。

・「第801条
 夫は妻の財産を管理する。」
梅教授によれば「財産の管理は夫が概して妻よりもこれをするに適している者であるが故に財産に関する重大な行為は妻は夫の許可を受けるものとした。これはもとより夫権を重んじた結果である」と説明しています。

・「第802条
   夫が妻のために借財をなし、妻の財産を譲渡し、これを担保に供し、第602条の期間を超えてその賃貸をなすには妻の承諾を要す。」

このように結婚すると妻は自分の財産についてさえも夫に管理どころか処分されてしまうという大変不利な状況に置かれます。すでに明治民法の総則編の第14条、16条などで見たようにそもそも妻には行為能力がないとされているので、801条や802条の規定は当然のことです。

・「第808条
   夫婦はその協議をもって離婚をすることができる。」
梅教授によれば「婚姻はもともと当事者の契約によるので、その契約を解消することができるのは理の当然である」としています。

・「第813条
 夫婦の一方は左の場合に限り離婚の訴えを提起することができる。
1,配偶者が重婚をなしたるとき
2,妻が姦通をしたとき
3,夫が姦通罪によって刑に処せられたとき 」
4,配偶者が偽造、賄賂・・関する罪、若しくは刑法75条・・の罪によって刑に処せられたとき
5,配偶者より同居に堪えざる虐待または重大な侮辱を受けたとき
6,配偶者より悪意をもって遺棄されたとき
7,配偶者の直系尊属より虐待または重大な侮辱を受けたとき
8,配偶者が自己の直系尊属に対して虐待をなしまたはこれに重大な侮辱を加えたとき
9,配偶者の生死が3年以上分明ならざるとき

この条文の2項と3項を比較すると、一見して妻の方に重い責任が課せられていることが分かるので、女性に対する差別だと思われます。この点につき、梅教授は次のように説明しています。「妻が婚姻より生ずる第1の義務に背くことであるから、これが離婚の原因とされるのは当然である。ただ、妻に限りこの義務を負わせ夫に同一の義務を負わせないことは不公平であると言わざるを得ない。我が邦においては従来法律上の妻の外に妾なるものを認め、これをもって2等親族とするに至っていたので、俄に欧米の進歩した主義を採用することができない。この不公平は遠くない将来において必ず廃止せられるべきであると信じている」というものです。しかし、この条文は昭和22年まで生き続けていました。
この条文の5項についても梅教授はおもしろいことを書いています。「例えば、中等以下の社会にあって夫が軽く妻の臀部を打ちたるが如き行為は敢えて本号に入らないと言えるが、妻が夫に対して同一の所行をなすと、これは重大な侮辱を加えたものとして離婚を請求することができる。しかし社会の進歩するに従って世論はこのような区別を認めないようになるだろう。また例えば、現今においては夫が妻と同居する場合においてその家に妾を蓄えるも妻は本号の適用によって離婚の訴えを提起することができないことが多いと思うが、社会の進歩するに従って、必ず本号の適用あるものとするに至るべきだ。」
 つまり、離婚原因は社会の発展や進歩に従って変化するものであると認めているのですね。

                          弁護士 渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 15:34| 両性の平等

2013年09月21日

明治民法〜 婚姻制度(その1)

両性の平等
         

次に婚姻についての規定を見てみましょう。

・「第750条
家族が婚姻または養子縁組をなすには戸主の同意を得なければならない。」
  この戸主の同意権は条文は存在していますが絶対の婚姻要件ではなかったようです。梅教授によれば「殊に婚姻にあっては男女互いに相恋愛する場合において、戸主の同意がないばかりに婚姻することができないという如きは、徒に私通を奨励し、あるいは少年の男女をして一生を誤らしめ、甚だしきに至りては、情死を促すかのようなこともないわけではない」というような事情も考慮されたようです。
 つまりは梅教授のような法律の大家が心配しなければならないほど、「情死」「無理心中」は当時社会問題になっていたのでしょうね。

・「第765条
男は満17歳、女は満15歳に至らざれば婚姻をなすことを得ず。」
 梅教授によれば、この明治民法ができるまではこのような制限規定はなかったそうで、「従来は12歳、13歳の童男女にして事実上の婚姻をなすこと敢えて稀ではなかったようであるが、早婚の弊はつとに識者の認めるところであり、人種改良のためにも風俗のためにも禁止せざるを得ない」ということです。具体的なことはこれ以上書いていないので、推測するしかありませんが、女の子の妊娠が医学的にも不適切であること、あるいは幼女が性風俗の犠牲になることなど、いろいろな問題があったと考えられます。
現在の民法第731条にも「男は18歳に、女は16歳にならなければ婚姻をすることができない」と同趣旨の条文があります。しかし、このように婚姻年齢が男女で違っていることも問題だと指摘されています。

・「第767条
女は前婚の解消または取消の日より6ヶ月を経過したるにあらざれば再婚することができない。 」
 梅教授は「本条の規定は血統の混乱を避けるためのものだ」と説明しており、現在の民法でも、733条では、「女は前婚の解消または取消の日から6ヶ月を経過した後でなければ、再婚することができない」とそのまま生き続けています。
 この条文は女性に対してのみ婚姻の自由を制限するものであって、婚姻における女性差別だと思われますが、平成7年12月5日最高裁判所は、この条文が憲法14条1項に違反していないという判決を出しました。しかし、仮に父親と子の血統を重視するということであれば、現在はDNA鑑定により容易に決着がつく問題です。従って女性のみに不利益を課すような待婚期間制度は、憲法24条及び憲法14条に違反していると思われます。

・「第772条
子が婚姻をするには、その家にある父母の同意を得なければならない。
  但し、男が満30歳、女が満25歳に達した後はこの限りではない。 」
 梅教授によれば「婚姻は人間の一大重事なので少年の男女が互いに婚姻することを欲するも、将来当事者のために不幸になる場合が少なくない。父母の同意を要件にしたのは、第1に本人の利益ためである」と言っています。しかし、「この父母の同意について、永久かつ絶対に要するかどうかについては、各国は一様ではなく、外国においては成年者にはこの同意を必要としない傾向もある。しかし我が邦においては、父母の権力を重視することは欧米諸国を越えているので、このような規定にした」と説明しています。

・「第775条」
@ 婚姻はこれを戸籍吏に届出るによりてその効力を生ず。
A 前項の届出は、当事者の双方に成年の証人二人以上より口頭にてまたは署名した書面をもってこれをなすことを要する。            」

現在の民法739条でも、「婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出たることによって、その効力を生ずる。前項の届出は当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、またはこれらの者から口頭でしなければならない」という内容になっています。
ところでなぜこのような手続きを婚姻の要件としたのでしょうか。梅教授によれば次のようです。「明治8年の太政官通達や、明治10年の司法省通達によっても実際に登録手続きが行われてこなかった。実際の慣習においては上流社会といえども、まず事実上の婚姻をし、その後数日乃至数ヶ月を経て届けをなす者は10人中8・9人いた。況んや下等社会にあっては届けをしない者が非常に多い。このような状態では、神聖なる婚姻と私通との混同する虞があり、到底文明国の採用するものではない。かといって一朝一夕に欧州諸外国のような複雑な手続きにしようとしても、到底実際に行われることはない。故に手続きは最も簡易なもので実行を期待することができるようなものにした」
と、ここまで読むと、まず「婚姻」と「私通」とをいきなり比較することに違和感を覚えます。そして、次には、当時の欧州諸外国の婚姻手続きはそんなに複雑なものだったのかしら、という疑問を持ってしまいます。

実は、明治民法にはそれ以外にも婚姻の要件はたくさんありますし、現在の民法にも同様の規定はあります。例えば、重婚禁止(明治766条:現732条)、近親者間の婚姻禁止(明治769条:現734条)、直系姻族間の婚姻禁止(明治770条:現735条)、養親子等の間の婚姻禁止(明治771条:現736条)などです。
婚姻の要件について、明治民法と現在の民法を比較すると、「戸主の同意」「親の同意」など家制度に関連する規定以外については、ほとんど変わっていないという印象を受けました。

弁護士 渥 美 玲 子

posted by 金山総合法律事務所 at 16:23| 両性の平等

2013年09月10日

外国の憲法にみる家族条項

両性の平等
        

自民党の憲法改正案の中には、憲法第24条の改正も含んでいます。
そこで、世界の国の女性や家族に関する規定を少し調べて見ました。そうすれば世界の水準というものが見えてくるかもしれないと思いました。
 とは言っても、「解説世界憲法集」(三省堂)や「世界憲法集」(岩波文庫:初版・第2版)の範囲内ですから、たいしたことありませんが。

A) アメリカ合衆国
  現行の合衆国憲法は1788年に成立し、その後は修正○条として存在しています。
修正19条には「合衆国市民の選挙権は、合衆国またはいかなる州も性別を理由として、これを否定しまたは制約してはならない」というものがありますが、これは1920年に成立しています。これだけしかありません。日本国憲法14条に該当するような条項もないようです。


B) フランス1958年憲法
  現行のフランス憲法は、第5共和国憲法またはドゴール憲法とも言われ、1958年に成立していますが、この中には明文で性差別を禁止する条項はまったくありません。
 但し、前文では「フランス人民は、1789年宣言により規定され、1946年憲法前文により確認かつ補完された人の諸権利と国民主権の諸原理に対する至誠、及び2004年環境憲章により規定された権利と義務に対する至誠を厳粛に宣言する」とあります。
  ご存じのように1789年のいわゆる人権宣言は男性に限定された宣言で、女性は埒外だったので、1946年憲法の前文にて「法律はあらゆる領域において、女性に男性と平等な権利を保障する。」「国は個人と家族にその発展に必要な諸条件を保障する」などと規定されました。これらの規定は「前文」ですが、「憲法院が前文で言及された人権文書を根拠にして法律の審査をするに至り、1789年の人権宣言や第4共和国憲法前文が憲法的効力をもつ規定としてよみがえった」ということです。


C) ロシア連邦憲法
  1945年当時はロシアはソビエト社会主義共和国連邦で、1936年に制定されたいわゆるスターリン憲法でしたが、1977年には改編されました。1991年12月現在のロシア連邦が成立し、憲法は1993年12月に国民投票にて決定されました。ソビエト当時の憲法ではその第1条にて、「労働者、農民およびインテリゲンチャ、国のすべての民族および民族的集団の勤労の意思と利益を表現する、社会主義的全人民国家である」と規定されていましたが、現行のロシア憲法第1条では、「ロシア連邦は共和制の統治形態をとる民主的な連邦制法治国家である」と規定されており、もはや社会主義を取らないことは明らかです。
女性や家族に関する条項を見てみます。

第7条
@ ロシア連邦は社会国家であり、その政策は相応な生活と人間の自由な発展を保障する条件を創り出すことを目的としている。
A ロシア連邦では労働と人々の健康が保護され、最低労働賃金が保障され、家族、母性、父性、児童、障害者および高齢者への国家による支援が保障され、社会的サービスの制度が展開され、なおかつ国家による年金、扶助およびその他の社会的な保護が設けられる。

第19条
@ すべての者は法律および裁判所の前に平等である。
A 国家は性別、人種、民族、言語、出身、財産および職務上の地位、居住地、宗教へのかかわり、信条、社会団体への帰属、ならびにその他の状況にかかわらず、人および市民の権利と自由を保障する。社会的、人種的、民族的、言語的または宗教的な帰属を指標とした市民の権利の制限はいかなるものであれ、禁止される。
B 男性と女性は同等な権利を有し、その行使において同等な可能性を有する。

第38条
@ 母性および児童、家族は国家の保護下にある。
A 児童とその養育への配慮は両親の平等な権利であり、かつ義務である。
B 18歳に達した労働能力のある子は、労働能力のない両親に配慮しなければならない。


D) 中華人民共和国憲法
  この国は1949年にできました。現行憲法は1982年12月に公布、施行されました。この憲法の「序言」には中国が社会主義を取っていることを鮮明にし、「国家の根本任務は中国的特色の社会主義の道に沿って力量を集中して社会主義現代化建設を進めることにある」と明記しています。
女性や家族に関する規定はこのようになっています。

第48条
@ 中華人民共和国の女性は政治、経済、文化、社会および家族の生活等の各方面において男性と平等の権利を享有する。
A 国家は、女性の権利及び利益を保護し、男女同一労働同一報酬を実行し、女性幹部を養成し及び選抜する。

第49条
@ 婚姻、家庭、母親及び児童は国家の保護を受ける。
A 夫妻双方は計画出産を実行する義務を有する。
B 父母は未成年子女を扶養し、教育する義務を有し、成年子女は父母を扶養する義務を有する。
C 婚姻の自由を破壊することを禁止し、高齢者、女性及び児童を虐待すること禁止する。


E) ドイツ連邦共和国基本法
  ドイツは敗戦によりイギリス、アメリカ、フランス、ソ連の4カ国の分割統治の下に置かれましたが、各ラントで憲法が次々と生まれました。1948年にはボンにて議会評議会ができて、基本法が検討されるようになりました。そして、1949年5月23日に公布され、「ボン基本法」とも呼ばれているそうです。
 女性と家族に関する条項です。

第3条
@ すべて人間は法律の前に平等である。
A 男性と女性は同権である。国は女性と男性の同権が現実に達成されることを促進し、現に存在する不利益を除去すべく働きかけるものとする。
B 何人も、その性別、出自、人種、言語、故郷及び門地、信仰、宗教または政治的な見解を理由として不利な取扱を受け、または有利に取り扱われてはならない。何人も、その障害を理由として不利な取扱を受けてはならない。

第6条
@ 婚姻及び家族は国家的秩序により特別な保護を受ける。
A 子どもの保護及び教育は親の自然の権利であり、まずもって親に課せられた義務である。この義務の遂行については国家共同体がこれを監視する。
B 子どもは親権者に故障があるとき、又は子どもがその他の理由から放置されるおそれがあるときには、法律の根拠に基づいてのみ親権者の意に反してこれを家族から引き離すことが許される。
C すべて母親は共同体の保護と扶助を請求することができる。
D 婚外子に対しては立法によって肉体的及び精神的発達について、並びに社会におけるその地位について婚内子と同様の条件が与えられなければならない。


F) イタリア共和国憲法
  1943年ムッソリーニ政権が倒れ、イタリアは連合国に降伏しました。1946年6月に君主制か共和制かを問う人民投票が行われ、共和制が決定されました。憲法制定議会では、キリスト教民主党、社会党、共産党の3大政党が中心になり、1947年12月に採択され、1948年1月から施行されたということです。
いろいろな規定があります。

第3条
@ すべての市民は等しい社会的尊厳をもち、法律の前に平等であり、性別、人種、言語、宗教、政治的意見、人的及び社会的条件によって差別されない。
A 市民の自由と平等を事実上制限し、人格の完全な発展及び国の政治的、経済的、社会的組織へのすべての勤労者の実効的な参加を妨げる経済的・社会的障害を除去することは共和国の責務である。

第29条
@ 共和国は、婚姻にもとづく自然共同体としての家族の権利を認める。
A 婚姻は、家族の一体性を保障するために法律で定める制限の下に、配偶者相互の倫理的及び法的平等に基づき、規律される。

第30条
@ 子供を育て、教え、学ばせることは両親の義務であり権利である。子供が婚外で生まれたものであっても同じとする。
A 両親が無能力の場合は、前項の任務を果たすものを法律で定める。
B 婚姻外で生まれた子供に対する法的および社会的保護は法律で定める。この保護は適法な家族の成員と両立するものである。
C 父の捜索に関する規定とその制限は法律で定める。

第31条
@ 共和国は、経済的および他の措置により、家族の形成およびそれに必要な任務の遂行を助ける。大家族に対しては、特別の配慮を行う。
A 共和国は母性、児童、青年を保護し、この目的に必要な施設を助成する。

第37条
@ 女子勤労者は男子勤労者と同じ権利を有し、等しい勤労につき同じ報酬を受ける。その勤労条件は、女子に不可欠な家政の遂行を可能とし、母親と幼児に特別の適切な保護を保障するものでなければならない。


G) 感想
  以上、わずか6つの国しか見ていませんが、女性や家庭、子どもの権利条項について、非常に大きな違いがあることが分かります。私は憲法学者ではないので、単なる推測の域をでませんが、おそらくアメリカやフランスは第2次大戦においては戦勝国でしたから、自国の憲法を見直すという契機がなかったのでしょう。
 また、ロシア連邦や中華人民共和国は第2次大戦後新たに成立した国家ですが、社会主義的な色彩を持っていますので、「母性、児童、家族は国家の保護下にある」(ロシア:38条)あるいは「婚姻、家庭、母親、児童は国家の保護を受ける」(中国:49条)というように国家の保護を明確にしています。他方、両国とも「両親に対する配慮義務」(ロシア:38条)あるいは「父母の扶養義務」(中国:49条)を規定しているのは、なぜでしょう。
  それに引き替え、ドイツ、イタリア、日本は、反ファシズムや反軍国主義の立場から、第2次大戦後、新憲法を制定しています。
 この3つの国の中で一番簡単なのは日本で、一番条項が多いのはイタリアです。
 例えば、今年9月4日最高裁判所で判決がでた「婚外子」の問題については、すでにドイツやイタリアは憲法でその平等を謳っています(ドイツ:6条、イタリア:30条)が日本の憲法にはありません。ベアテによれば、いろいろな条項を考えたが、上官によって拒否されたとのことです。GHQ民政局は、アメリカ合衆国が実権を握っており、アメリカは自分の生命や自由は自分で守ることを国是としているような国であることを考えれば、「婚姻・母性・子どもを国が保護する」などという発想はなかったものと思われます。むしろアメリカには存在しない24条のような条項を入れることに同意したということの方が驚きかもしれません。
それに比べて、イタリアは第2次大戦後、キリスト教民主党、社会党、共産党の3つの党が国民の4分の3の支持を集めており、憲法制定議会においてもカトリック勢力と共産主義勢力が議論を指導しました。このように社会主義を重視する政党が憲法制定に加わっていたので、当時の社会主義的な考え方を取り入れられたのでしょう。例えば第1条には「イタリアは労働に基礎を置く民主的共和国である」と書かれていますが、この条項はマルクス主義の影響を受けていると言われています。また、第31条では「共和国は母性、児童、青年を保護し、この目的に必要な施設を助成する」と規定しており、ロシアや中国の憲法と似ているところがあります。さらに第37条では「同一労働同一賃金原則」を規定していますが、中国の憲法(中国48条)にもあります。もっともイタリア憲法37条の「その勤労条件は女子に不可欠な家政の遂行を可能とし」という役割分担論は不要だと思いますが。
両性の平等、子どもの養育、家族のあり方などについて、どのように憲法で規定するかは、なかなか難しい論点ですが、自民党の改正草案を検討するひとつの基準にはなると幸いです。
                       弁護士 渥 美 玲 子
posted by 金山総合法律事務所 at 13:18| 両性の平等